貯蓄経済研究

平等社会と格差社会

現世人類(ホモサピエンス)の歴史は、約20万年とされる。生誕の地はアフリカである。6、7万年前にはアフリカの地から出た一団の人々は、世界中に拡散し、今の世界中の人々の祖先となった。

農耕は、7、8千年前から開始され、徐々に普及したと思われる。農耕以前の人類は、すべて狩猟採集社会を形成していた。現在においても、アフリカのブッシュマンやピグミーが狩猟採集民としての社会を残している。

狩猟採集社会の特徴は、平等主義である。彼らは、食料を獲得してから消費するまで分配を何度も繰り返すとされる。更にブッシュマンの場合、優秀なハンターは、大量に獲物を捕獲した後は狩りに出ないようにし、分配される側にまわる。平等主義は、狩猟採集社会では、かなり周到に守られるように社会が形成されている。

狩猟採集社会の存続・維持のためには、平等主義が必要であり、現実にこれが崩れた場合、環境の変動等への対応が難しくなり、滅亡する可能性が増大するためであると考えられている。

農業の発明は、7、8千年前とされるが、これも現在では一気に創り出されたのではなく、かなり年数をかけて社会に導入されたとされる。農業の普及は、社会の構造の大変化を起こした。狩猟採集社会では、非常に困難であり、むしろ有害とされた食料の貯蔵が容易であり、これが必要(種モミ)とさえされたのである。

食料(富)の貯蔵は、格差を生み、社会の中に支配と非支配の関係が持ち込まれることとなった。王国とその歴史の誕生である。メソポタミア、エジプト、インド、中国等の文明の始まりである。

生物としての人類は、ホモサピエンスであるので、20万年間ほとんど変化していないが、狩猟採集社会の平等主義が19万年以上続いた後、文明社会の格差を前提とした仕組みが7、8千年持続したということができる。最古の文明でも7、8千年であり、日本では農耕以降は2千年程度である。

平等主義社会も格差を前提とする文明社会も、いずれも人類の生来の特質というより、社会を持続可能とするための仕組みであると考えられる。 人類にとって、社会の仕組みとは何のためのものであろうか。進化論的には、社会が持続し、人類が生き残るために役立つものとなるが、人類は、生きることの意味を長い間追求してきた。

東洋においても西洋においても、いわゆる賢人達は様々な教えを残しているが、欲望を積極的に認めるのではなく、少欲知足や他人に対する思いやりなどの重要性が主張されることが多い。

社会の仕組みを何を目的として創るのか、或いは運営するかについて、進化論からは真理としての答はない。

しかし、すべての人々が幸せとなることを否定する人はいないと思われる。

「経済」のもとになった「経世済民」は、民衆の済度という意味であり、人々の幸せを願う言葉である。

経済さらには金融についても、人々の幸せを実現する仕組みでなければならない。そのために必要なことは、これも古代からの多くの賢人達が指し示しているように「中庸」である。

平等主義的方向と格差を前提とした仕組みが人類にとっての社会の仕組みの両端であるとすれば、その適切な組合せについて考えることが必要である。

ジェフリー・サックス(Jeffrey David Sachs)によれば、「アメリカ人が抱く最大の幻想は、富をひたすら追及すれば健全な社会が出来上がるというものだ。」(『世界を救う処方箋』) この幻想に従って実行された政策がレーガノミクスである。

日本でもここ2、30年の長きにわたり、このレーガノミクス的政策が良しとされ、先進諸国の中では、米国に次ぐ格差社会とされるに至った。

今、日本ではアベノミクスが喧伝され、安部内閣の支持率は急騰している。デフレからの脱却が強調されているが、その具体的政策の推進はこれからの課題である。

願わくば、バランスのとれた、人々の幸せを主眼とした政策となって欲しいものである。市場経済の原則と公共政策の目的に十分に配慮した「中庸」の政策が求められている。

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