貯蓄経済研究

隠された世界

21世紀に入って、十年以上が経過した。この間、我が国においては、東日本大震災を被災し、その混乱はまだ治まらず、不透明な社会状況が続いている。社会には漠然とした不安感も漂っている。

不透明感や不安感は、分からないという感覚がベースにある。社会科学も自然科学も大進歩を遂げているにもかかわらずである。

むしろ進歩は、そのイメージとは逆に、不明なこと、分からないことを増大させる。よく言われることであるが、一つの理解は十の疑問を齎すのである。 近年の科学的知見の進み方は、ますます加速化しつつあり、これを理解することも困難さを増している。

自然科学の代表である物理学を見てみよう。19世紀の物理学の進歩は、頂点であるとの認識を多くの専門家に齎した。

物質は究極的には原子まで分解することができ、それが最終的な解答であると考えられた。

また、宇宙についても、ニュートン的理解が究極の理解であると考えられたのである。惑星があり、恒星がある。太陽系があり、銀河があり、大宇宙があるとされていた。

極小は原子であり、極大は宇宙であり、順序よく全てが並んでいる。

ところが、20世紀に入って、原子は極小ではなく、素粒子が数多く存在することが明らかになり、量子力学の時代となった。宇宙に関しても、時間と空間は互いに相関しており、エネルギーと物質は、相互に転換できるものと確認された。

20世紀後半から現在に至り、この極小と極大は、相互に同じであることが明らかになりつつある。素粒子は、クォークやニュートリノ、伝統的な電子や光子などであるが、クォークなどは通常単独では存在できないが、ビッグバンの直後には単独存在する多数のクォークがあったとされる。

このビッグバン直後の宇宙は、137億光年先の観測可能な宇宙のいわば端っこにある。

21世紀には、素粒子は標準模型として整理され、唯一の見つかっていない素粒子がヒッグス粒子であるとされ、マスコミは、この粒子を物質に質量を齎す「神の粒子」と名付けた。

2013年には、LHCの実験結果から見て、ヒッグス粒子と認定されたが、この認定は最終的な結論ではなく、どうも次のステージへの入り口である可能性が強くなっている。

宇宙全体に対する見方についても、21世紀に大きな転換がなされた。宇宙に存在する星や、星間物質、光やガスや全ての物質の質量が、宇宙全体の質量の4%に過ぎず、22%程度が暗黒物質、残りは暗黒エネルギーとされるに至った。

暗黒物質も暗黒エネルギーもその正体は不明であるが、これが、極小の世界の次ステージの存在と重なっている可能性が指示されている。

超対称性という物理学の隠された特質、次のステージの主要理論ともリンクし、いわば今まで人類が認識している世界とは違った「隠された世界」が存在し、その証拠が見つかる可能性が現実的になってきているのである。

社会科学については、社会現象である経済や政治などの現象は、自然科学で対象とされる現象に近いものと認識され、その理論の作成やデータの収集が行われ、その分析を通じて、未来の予測や政策の決定が行われてきたのである。

今ここで考えるべきことは、社会科学に対する認識の変革が求められているのではないか。

経済現象においても、特に金融の世界には、「隠された世界」があるように思われる。

社会現象は、人間活動の結果であるので、人が決めたルールや慣行、社会的力関係、既得権益など計量化が困難な領域が広く深く存在するのである。

自然科学の世界では、超対称性の存在が「隠された世界」を解くカギになりそうであるが、社会科学におけるカギは何であろうか。

それは、「ヒト」に対するより深く総合的な認識と、それの世界に対する適用となるのではないかと推測される。

具体的には、今後の諸学問の進展に期待されるが、現在の世界の社会的、経済的状況から見て、非常に急がれるものであることは間違いない。

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