特別研究官(明治学院大学助教授) 三井 清 第二経営経済研究部研究官 井上 純
1.日米構造協議の決定により、今後10年間に430兆円の公共投資の実施が予定されている。 このような巨額の公共投資を有効に利用するためにも、今のうちに望ましい社会資本のあり方に ついて議論を深めておく必要がある。 しかし、従来の公共投資に関する実証研究はケインズタイプの計量経済モデルにおいて、公共投 資の需要誘発効果なとの需要面に偏り、供給側に着目した研究はほとんど行われてこなかった。 2.最近、米国ではAscbauerやMunnellらの経済学者が、社会資本の充実により民間部門の平均生産 性が向上することを実証的に明らかにしている。 彼らの研究によると70年代以降の米国の生産性の伸び悩みは主に米国の社会資本ストックの伸 び悩みに起因している。 3.それでは、日本でも社会資本は民間部門の生産性に影響を及ぼしているのであろうか。 我々もAschauerの手法を手掛かりとしてマクロの生産関数を推計し、米国の推計結果と比較して みることにした。 推計に当たっては、生産物を民間部門に限定し、投入要素を民間部門の資本ストックと労働、お よび社会資本ストックを明示的に投入要素として考慮する式を用いた。 4.推計の結果明らかになったことは次のとおりである。 1.Aschaue「による米国の計測結果と比較すると低い値となっているものの、日本における推計 でも、社会資本が労働および民間資本の平均生産性、総要素生産性に与えるプラスの効果は統計 的に有意に確認できる。 2.日本における社会資本ストックの労働および民間資本の平均生産性、総要素生産性に対する弾 力性はおおむね0.14〜0.21と計測された。 これは、他の条件を一定として1%の社会資本の仲びが労働および民間資本の平均生産性、総 要素生産性を0.14%〜0.21%上昇させることになる。 社会資本ストックは長期間生産投入要素として用いられ、将来にわたって社会資本の増加によ りもたらされる影響の累計は多大なものとなることから、この数字は無視しえない大きさである。 3.推計された弾力性により計算される社会資本の限界生産性は、社会資本ストックの充実を背景 に徐々に低下しているものの、近年においてもなお10%の水準にある。 これは、社会資本を増加させることにより依然として高いリターンが期待できることを意味し ている。 4.また、民間資本の限界生産性は社会資本の限界生産性より上回っており、資本蓄積の経路は最 適性の条件を満たしていたことが分かる。 しかし、現在の趨勢が続くとするならば、今後は生態投入要素としての社会資本の不足も懸念 される。 5.本来社会資本ストックは生産活風の投入要素という側面を持つとともに、公園や自然環境の保全 など生産性の上昇を通じて市場で評価されることのない国民生活の厚生を高める機能も期待されて いる。 従って、以上の推計は社会資本ストックの意義を一面しかとらえていない。 しかし、このように社会資本ストックを供給サイドから把握することにより、公共投資政策を評 価するための貴重な情報を得ることができる。