第二経営経済研究部長 原田 泰 第二経営経済研究部研究官 牧 寛久
1.人口の高齢化が日本の将来に大きな影響を及ぼすことは、あらためていうまでもない。とくに年 金財政の危機などを通じて経済的な活力が失われるのではないかと広く議論されている。 しかし、高齢者の一部が巨額の実物資産を保有し、しかも大部分は住宅であるその資産は有効に 活用されていないという事実が見られる。この資産を有効に活用すれば、社会全体の負担を軽減す ることが可能であろう。 2.現在でも実物資産を定期的な収入の形に転換することは可能である。全国に40万世帯近くいる と考えられる高額資産保有高齢夫婦世帯には、自宅を売却し、あるいは賃貸する方法が用意されて いる。 3.しかし、以下のような制度・要因が資産の形態を変化させること自体にコストを発生させるので ある。 (1)譲渡所得に対する所得税 譲渡にともなう所得に課税される。 (2)相続税 土地は評価自体が5割程度である他、小規模宅地の特例が認められているなど、金融資産との 扱いがまったく異なる。 (3)借地借家法 借地人・借家人の権利を強く保護する結果、実物資産の有効活用が阻害される。 (4)その他 インフレリスクを回避する方法が限られること、基本的な生活が公的年金給付で賄っていける こと、転居が心理的なコストをともなうこと、なとか考えられる。 4.そこで、200m2・2億円の土地を都内に保有する高齢夫婦世代が、様々な自宅 活用のメニューをとったと考えて、それぞれの場合の実物資産額、金融資産額、フロー所得額およ び税引き後遺産額を試算した。 5.その結果、高齢者の合理的な選択が必ずしも資産の活用に結び付かないことが明らかとなった。 また、住宅資産の活用のためには、譲渡所得税、相続税の軽減ないし廃止、借地借家法の廃止、 実質的な年金給付の削減が必要であることも分かる。 6.最後に、そうした対策を施した場合の試算を行った。