『分配における帰属家賃の意味と効果』


                          特別研究官(京都大学教授) 橘木 俊詔
                         特別研究官(名古屋大学講師) 八木  匡

 1980年代後半に引き起こされた土地価格の急激な上昇は、資産格差の急速な拡大をもたらした
といわれている。この資産格差に対する不公平感は、非持ち家世帯と持ち家世帯の間での経常的な住
居費の負担の違いと、享受している住宅サービスの質の格差にも基づいている。本研究では、土地が
資産としての性格を持っているのみではなく、サービスを生産しているという点に注目し、土地とい
うストックをフローの所得に変換しながら、資産格差の問題を所得分配の不平等と関連させて分析し
ていく。

 本稿では、土地からの帰属家賃と金融資産所得を含めた所得の不平等度を計測し、稼得所得の不平
等度に比して帰属家賃・金融資産所得を含めた所得の不平等度がどのような水準にあるのかを明らか
にし、現行税制が帰属家賃・金融資産所得を含めた所得の不平等度をどの程度改善しているかを分析
する。

 帰属家賃加算後にジニ係数がどの程度大きくなっているかを見ると、若年層での不平等度の上昇率
が最も大きくなっており、所得分配の不平等度の水準は高齢者層において最も大きくなっていること
が分かった。現行税制による所得再分配機能の大きさについては、税による所得再分配は稼得所得に
おいては機能しているものの、資産所得まで含めた総所得に対しては機能が大きく低下しているとい
う点が明らかになっている。

 本稿では、我が国の株式市場の投資主体別のキャピタル・ゲイン(ロス)の推計を行なっている。
 実現されたキャピタル・ゲインを分析することのもう1つの意義は、租税政策上の論点に1つの話
題を提供することにある。現在の不完全なキャピタル・ゲイン課税も含めて、本来ならば課税ないし
徴税されるべきであったキャピタル・ゲイン税の額を計算することを、本稿の試算によって可能にし
ている。

 分析の結果、日本において、1989年で約77兆円のキャピタル・ゲインが発生していたことが
計測された。この年のわが国のGNPが399兆円であるから、実にGNPの19%を示している。
 バブル経済の頂点であった1987年には、実に129兆円ものキャピタル・ゲインが計上されて
いる。これだけ巨額のキャピタル・ゲインの約4割が金融機関で発生していたことが明らかになって
いる。特に、金融機関のうち銀行が最大の利益を取得したのである。証券会社のキャピタル・ゲイン
が巨額になっていることも注目される。保険会社のキャピタル・ゲインの額は、その株式保有高と比
較すると非常に低額であった。最後に、個人投資家のキャピタル・ゲインは法人のキャピタル.ゲイ
ンと比較すると、非常に少ない額であることが分かった。