『貯蓄率の将来推計』


                         特別研究官(新潟大学助教授) 麻生 良文
                           第二経営経済研究部研究官 田村 浩之

 人口の高齢化が貯蓄率に与える影響についての分析は、これまでも多く行われてきた。それらの方
法は、貯蓄率と人口高齢化の関係を回帰分析によって調べる方法と、年齢別貯蓄の集計によって求め
る方法に大別できる。後者の方法は部分均衡モデルに基づく推計と、Auerbach and Kotlikoffによっ
て始められた一般均衡モデルのシミュレーションを用いる方法とに分けることができる。

 回帰分析に基づく方法は理論的根拠に欠けるように思われるが、非常に単純なライフサイクルモデ
ルを想定すると、そのような方法が正当化されることを示すことができる。

 この論文では、非常に単純なライフサイクルモデルと、一般均衡モデルを用いて、日本の将来の貯
蓄率を推計した。モデルは、遺産動機に基づく貯蓄や、予備的動機の貯蓄の存在は考慮しない、純粋
なライフサイクルモデルである。

 単純なモデルでも一般均衡モデルを用いても、今後きわめて急速に貯蓄率が低下していくことが予
想される。一般均衡モデルの推計結果によると、2005年にはマイナスの貯蓄率に落込み、201
0年から2050年ごろにかけて、マイナス5%前後で推移する。ただし、このモデルでは、あるコ
ホートは全員同時に死亡するというモデルになっており、高齢者の比率を実際の比率よりも高く考え
ている。そのため、貯蓄率の落込みが激しくなっている可能性がある。それを修正してみると、貯蓄
率の低下はそれほどでもなくなる。しかし、低下が急激であること自体には変わりはない。2010
年から2050年にかけて、ほぼ0%前後を推移する。特に2010年から2020年にかけてと2
035年から2045年にかけてはやはりマイナスの貯蓄率に落ち込むことが予想される。