特別研究官(明治学院大学助教授) 三井 清 第二経営経済研究部研究官 竹澤 康子
最近アメリカでは、Aschauer(1989)やMunnell(1990)などが、新古典派的な生産関数 において社会資本を生産投入要素として考慮するアプローチに基づき、社会資本が民間部門の生産性 に対して多大な影響力を有していることを実証的に明らかにしている。そして、彼らは、1970年 代以降におけるアメリカの生産性の低迷が、主に社会資本ストックの伸びの鈍化に起因すると主張し ている。 我が国における社会資本に関する供給サイドの研究については、Mera(1973)等かなり以前か らの先行研究が存在する。三井・井上(1992)においては、Aschauerの方法を手掛かりとし、社 会資本を明示的に取り入れたマクロ生産関数に基づいて、実証分析を行っている。 そこで、本稿においては三井・井上(1992)で示されたマクロの生産関数の計測式に、都道府 県別に得られるデータをあてはめて推計する。これにより、社会資本が生産性に与える影響について、 その地域別の相違点や特性を明らかにし、今後の社会資本の最適な地域配分の在り方を探ることを目 的とする。 その結果、コブ・ダグラス型生産関数では計測上の難点が多かったが、CES型生産関数ではある 程度改善され、不安定性は残るものの概ね妥当な推計結果が得られた。その推計によれば、都道府県 別推計においても、社会資本ストックは民間部門の生産活動に対して、統計的に有意で正の影響を有 していることが示された。また、社会資本をラグ付き変数とすることによって、公非投資が実際に生 産力増大に結びつくようになるまでに、ある程度のタイムラグがあることが分かった。タイムラグの 期間も、投下された資本の性格や当該県の状況によって、差異があった。 さらに、民間資本の限界生産性と社会資本の限界生産性の価が都道府県別に得られたことにより、 産業発展地域あるいは県民所得の比較的高い地域では、相対的に社会資本不足の状態にあり、発展地 域から距離的に離れた地域あるいは県民所得の比較的低い地域においては、相対的に民間資本が不足 していることが示された。