1994年5月:No.1994―08

『企業金融における証券主幹事固定化の利益― Relationship-Specific Assetsの収益性に関する実証分析』

                                   中央大学教授 首藤  恵
                             第三経営経済研究部研究官 小谷 和成
 低成長経済への移行と金融の国際化・自由化が進展した1980年代に至って、証券市場は企業の資金調達と運用の場として徐々にその機能を拡大し、80年代後半には、銀行融資が緩和される中で企業は競って内外市場でのエクイティ・ファイナンスを増加し、運用面では証券投資へのシフトを進めた。この時期の企業金融行動の変化は、既存の証券規制のもとで引受主幹事ポストを確保する大手証券会社に利潤機会を拡大し、主幹事ポストをめぐる証券会社間の競争が激化した。

 本研究の目的は、1980年代とくに後半における大手証券会社と発行企業の取引関係に注目し、発行会社にとっての引受主幹事固定化の利益をrelationship-specific assetsへの投資行動としてとらえ、既存の競争制限的規制のもとで証券会社が手にした準レントの一部が、取引関係の固定化を通じて交渉力の高い発行企業に移転されたという仮説を導き、それを検証することにある。

 事後的に観察された証券主幹事関係を4つのパターン(単独幹事、主幹事、複数主幹事、主幹事変更)に分類し、次の2段階の分析を行う。第一段階として、各グループに属する企業の金融特性の違いを、グループ別平均の差に関するt検定により識別する。第二段階として、主幹事関係の変更と選択の決定要因を、プロビット・モデルにより検出する。いずれの分析においても、証券主幹事ポストをめぐる競争に及ぼす銀行の影響を明らかにするために、メインバンク関係が考慮される。

 得られた分析結果によれば、1980年代後半に大手総合証券に発生した準レントの大きな分け前を享受できた企業は、証券会社に対して高い交渉力をもった複数主幹事グループと幹事変更グループであった。他方、単独幹事グループの企業は、一般に金融・証券市場で高い評価が得られない企業であり、証券会社のみならず銀行との間でも長期固定的な取引関係を選択する傾向がある。このグループの企業は、交渉力が相対的に低いために準レントの分配がもっとも小さかったと推測される。

 この時期の企業の金融行動と証券会社の顧客戦略は、既存の制度のもとでレントを享受できる証券会社と企業にとって合理的な選択であったとしても、資本市場の機能に歪みをもたらしている。

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