1995年10月:No.1995―9

『公的金融の費用条件』

―コンポジット・コスト・ファンクションによる推計−

                       特別研究官(横浜国立大学助教授) 井上  徹
                           第二経営経済研究部研究官 夏井 高志
                                    研究官 宮原 勝一

 公的金融仲介の存在が社会的厚生の与える影響は、重大な政策的含意を持ち、特に、最近の公的金融機関や財政投融資の議論に直接に関わるものである。したがって、その費用条件を明らかにすることは、公的金融の存在意義にも関わる重要な問題であり、これまで数多くの実証分析が行われている。それら先行研究の多くはトランス・ログ型の関数型が用いられているが、トランス・ログ型は、多くの利点を有している一方、範囲の経済の分析が困難である、固定費用を明示的に導入できない、という難点が指摘されている。
 そこで、本論文では、公的金融の費用条件を、コンポジット型費用関数によって推定し、さらに、トランス・ログ型と対比してみることによって、コンポジット型のスペシフィケーションが、金融業の費用条件の分析トゥールとして有用と思われる結果を得た。
 本論文の主な結果は、次のとおりである。
  1.  公的金融の費用関数のシペシフィケーションとして、コンポジット型が有用であると思われること。
  2.  公的金融の費用関数は、資金吸収サイド、資金運用サイドの双方とも固定費用が存在し、U字型の平均費用曲線を示すと思われること。
  3.  公的金融が、平均費用逓減局面、ないしは平均費用極小点周辺で操業していたと思われること。
 2.は公的金融には大きな固定費用が存在し、3.は、公的金融が社会的厚生の見地から適切な費用条件の下で操業していた可能性が高いことを示唆している。