1994年6月:No.1994―09

『郵便の需要構造とその推計手法』

                                第一経営経済研究部 安住  透
 1980年代の初頭には、郵便に関してさまざまな予測がなされた。しかし、予想は見事に外れた。このようなことは何故起こったのであろうか。

 「紙」を扱う郵便は「通信」と「輸送」の2つの性格を併せ持つ。これらの2つはネットワーク概念により結びつけられる。一般に、通信ネットワークは情報の交換を仲介し、輸送ネットワークはモノの交換を仲介するが、カネの交換は「決済ネットワーク」として区別することが適当である。そして郵便ネットワークは、このネットワークに深く関係している。

 ネットワークは、異なる地点における交換に関係している。このような性格を持つ経済活動は「流通」と呼ばれ、これは「取引」を構成要素としている。論理的には、最も原始的な取引である「現金取引」はやがて「信用取引」に発展し、その際、取引費用を節約するために「企業」が形成される。企業は商流と物流とを効率追求の中で区別するようになり、取引は「事業所間取引」と「企業間取引」に分離する。そして電気通信やクーリエは事業所を結びつける物流指向の通信手段と見做され、郵便はより抽象的な企業を結びつける制度通信と見做されるようになる。

 信用取引は、契約、物流、支払の3要素からなり、請求がそれらを結びつけていると見ることができる。信用取引から発生する郵便需要は、請求を核需要としてこの3部分構成に対応しており、次のような企業郵便のミクロ・モデルを構築することができる。

 n=k11+k2αy2 (ただし、n:郵便物数、y1:企業間取引額、y2:企業―個人間取引額、α:取引に対する信用取引の割合、k1、k2:定数)。

 郵便と電気通信と間の大規模な代替が起こらなかった理由は、郵便の固有の機能が決済にあるためである。また送達速度の安定が強く求められた理由は、郵便が請求書を各需要として持つため、その送達速度の安定は国民経済全体に対し、総取引量に対する機会金利としてメリットがもたらされるためである。

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