『通信メディア需要とネットワーク均衡』


                         特別研究官(武蔵大学助教授) 伊藤 成康
                             通信経済研究部研究官 八田 恵子

 本研究では、ネットワーク外部効果を含む一つの通信メディア需要関数を特定化し、ファクシミリ
等の普及データを用いた実証分析を試みた。

 Rohlfs(1974)等の研究を嚆矢とするネットワーク均衡理論の統計的検証を行うためにはいわ
ゆる“離散一連続選択モデル”の枠組みを採用するのが最適と考えられるが、データの利用可能性に
制約がある状況では、標準的な耐久消費財需要関数の修正版を推定する等の次善の策で妥協せざるを
得ない。

 このような問題点は残るが、『ニューメディア白書』に収録された昭和49年度から平成元年度ま
での期間におけるファクシミリの普及データ等から、次のようなメディア需要関数が推定された。



 自由度修正済R=0.998,標準誤差=0.094821(単純最小自乗法によ
る)(ここで、Dt:t期におけるファクシミリの新規需要(台数)、Pt:同価格指数(品質調整
済)、qt:同通話サービス料金指数、Mt:同実質国民可処分所得、rt:同貸出金利、Kt:同
ファクシミリ・ストック(年減耗率=0.3として推計)) この需要関数から、平成元年度におけ
るファックス通信網の均衡規模は約413万台と推計され、他の条件を所与として(専らネットワー
ク外部効果により)実績値の1.2倍程度の水準まで更なる規模の拡大が可能と推計された。

 なお、本稿では、ファクシミリの他に、F−ネット、DDX−ネットの契約数、回線数等を対象と
した分析も試みたが、適切なデータ・ベースの構築を待って前述の離散一連続選択モデルの計測に着
手することが今後の有望な研究方向といえよう。