1994年6月:No.1994―11

『わが国における電気通信インフラストラクチュア建設の計量経済分析:1955―1984年』

                            客員研究官(中京大学教授) 鬼木  甫
                            客員研究官(東北大学教授) 栗山 規矩
                               通信経済研究部研究官 大村 真一
                                      研究官 中空 麻奈
 本研究の目的は、1955年から1984年までの30年間におけるわが国電気通信インフラ形成のプロセスを計量経済学的に分析し、将来の電気通信インフラ建設の役に立てることである。別に収集・整備した経済統計データを使用して、インフラ建設に関連する電気通信産業構造を統計的に推定し、若干のシミュレーションを試みた。対象期間は、現在のNTTの前身である日本電信電話公社の存続期間とおおむね一致する。

 わが国電気通信インフラ建設は、1960―70年代の日本経済高度成長期に急速に進み、公社発足後三十余年後の1984年度末の加入率は、先進国並の36%に達した。インフラ建設を加速するため、公社は電話加入料・使用料を(均衡価格より)低めに設定して多数の加入者を誘引(積滞を形成)し、また加入者債券を発行して当時稀少であった投資資金を電気通信産業に振り向けることに成功した。その結果、わが国電気通信産業は、ネットワーク外部性に起因する「臨界規模(Critical Mass)」の峠を比較的早期に越え、同網の自生的成長を実現することができた。

 本研究は、上記の観点からわが国電気通信産業の構造を計量経済モデルによって表現し、その性質を解明する。モデルは加入者需要・市外通話需要・市内通話需要・事業者総費用・同設備投資の5個の構造方程式と若干の定義式を含み、時系列データによって係数値を推定した。シミュレーション分析においては、インフラ建設の供給制約、加入者債券制度、加入料、市外および市内通話料などの外部条件を変化させたときの建設経路の変化を調べた。その結果、モデルの適用範囲内で下記のことが結論できた。(1)インフラ建設加速の制約は主として供給側にあり、需要側の制約は少なかった。(2)インフラ建設が「臨界点」を越えたのは1970年代であった。(3)加入者債券制度は大量の資金を比較的低い利子費用で活用するために有用であった。(4)低水準の加入料・通話料は加入需要を促進したが、加入料の一層の引下げがさらに建設を加速させたか否かは不明である。

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