1995年7月:No.1995―5

『我が国の電話の加入需要分析』

                           特別研究官(中京大学教授) 鬼木  甫

                           特別研究官(東北大学教授) 栗山 規矩

                              通信経済研究部研究官 浅井 澄子
 本論文は、我が国の電話の加入需要についての計量分析である。最近、「マルチメディア」が各方面で叫ばれているが、サービスの需要、料金体系及び普及過程には不透明な部分が多い。本論文は新たなサービスの普及に関しての知見を得ることを目的に、現在では既に普及を終えたと考えられる電話加入について分析する。
 本論文では、年度単位の時系列データではなく、年度別かつ地域別データ(プール・データ)による電話の加入需要関数を推計する。今回の推計では1955年度から1991年度まで全国を11地域に分け、加入数に積滞数を加えた加入需要を被説明変数、地域別所得、施設設置負担金及び基本料を説明変数とし、半対数の需要関数を最小自乗法で推計している。データ数は363で十分な自由度が確保され、信頼度の高い推計結果が得られている。
 今回の推計の主たる帰結は、次の3点である。電話は、現在では全国の各企業及び各家庭で利用されているサービスである。しかし、当初は日本電信電話公社が、1953年度から始まる5か年計画に基づき、東京や大阪等大都市圏を優先して電話設備を整備した。この結果、電話サービスの普及には地域間格差が生じていたことが、今回計測された弾力性の推移から裏付けられた。第2に、加入時の一時金である施設設置負担金弾力性は、絶対値で月額基本料弾力性より大きく、施設設置負担金の方が加入に対する影響度が大きいことが確認された。このことは、マルチメディア・サービスの料金体系やCATVの加入促進を考えるに当たって参考になるものと思われる。第3に、電話加入の所得弾力性及び価格弾力性は低い値であり、時間の経過に伴いその値はさらに小さくなっているが、現段階においても、なお相当程度の高さが維持されている。この点、電話は既に普及したサービスであり、他の新たな電気通信サービスと比較して成熟段階を遂げているものの、未だ、成長の余地が残されていることを示唆している。