郵政研究所ディスカッション・ペーパー・シリーズ


                                           1996年6月:No.1996―1

『電電公社におけるユニバーサル・サービスの計量経済分析』

              前郵政研究所特別研究官(大阪学院大学経済学部教授) 鬼木  甫
              前郵政研究所特別研究官(東北大学経済学部教授)   栗山 規矩
              前郵政研究所通信経済研究部             横田 直人
 本稿の目的は、1955年−1983年の日本電信電話公社(電電公社、公社、現NTT)による電話ユニバーサル・サービスを計量経済学的に分析し、将来のマルチメディア・情報ハイウェイ建設時のユニバーサル・サービス(UVS)供給について有用な知見を求める際の一助とすることにある。
 電電公社時代には、電話網への初期加入者負担金と、毎月の基本料および使用料(度数料)について全国一律の価格、すなわち地域に依らない同一料金が適用され、同一のサービスが供給された。もとより世帯普及率が数%であった1950年代と、ほとんどすべての世帯に電話が普及した80年代とは、我が国経済の高度成長期をはさんで電話サービスの需要・供給条件は大きく異なっている。しかしそれにもかかわらず、電話料金の地域間格差は(加入者局の規模の差によるものを除き)一切導入されず、それぞれの年次においてUVSが維持されたといえる。
 本稿では、1955年−1983年の28年間について、当時の電話サービスに対する地域別の需要関数および費用関数を想定し、もし公社が全国同一価格によるUVS以外の仕方で電話サービスを供給したならばどのような結果が生じたであろうかを考える。具体的には、電話サービスの供給価格を、地域ごとにサービス供給の限界費用あるいは平均利潤率のマークアップを加えたレベルに供給価格を設定した場合に、加入者数、収入・支出などの諸指標がどのようになっていたかをシュミレーションする。ただし後述のように、利用できるデータが限られているため、モデル選定やシュミレーション方法について適宜便法を採用した。主な分析結果は以下の通りである。
 供給価格を限界費用あるいは平均費用に等しく設定した場合、おおむね各地域で実際の場合よりも供給価格が引き下げられることになり、加入者数が増大する。その結果、公社収支は、実際の場合よりも悪化することになる。この点は、実際の収益率にもとづいて計算されたマークアップ率を限界費用あるいは平均費用に乗じて得たレベルに価格を設定しても同様である。このことは、公社時代の供給価格が、(需要の価格弾力性が低かったことを利用した)コストより高い水準にあったことを推測させる。加入率の地域格差については、当然のことながら、UVS価格の場合よりも、費用条件を反映した地域ごとの価格設定の場合が増大する。ただし、上記の結論には、モデルの制約・データの制約があることから、多くの留保を付ける必要がある。