地域通信事業の効率性の計測

                郵政研究所通信経済研究部主任研究官 浅井 澄子

                郵政研究所客員研究官        根本 二郎

 [要約]


1 本論文は、1992年度に導入された11のNTT地域通信事業部の効率性を計
 測することによって、事業部制によるヤードスティック競争の機能を評価する
 とともに、効率性格差の要因を分析することを目的とする。効率性は技術効率
 と配分効率に分けられるが、ここでは、ノン・パラメトリックな手法で1992年
 度から1996年度の地域通信事業部を対象に、双方の効率性を計測した。計測結
 果と政策的な意義は、以下のとおり要約される。
2 NTT地域通信事業の非効率性は、効率的ではない投入要素比率を選択した
 ことから生じる配分非効率が、非効率性による費用の追加分の約20%に相当
 し、非効率性の大部分は、X非効率等の技術非効率性に起因することが示され
 た。
3 配分非効率性は従業員数の減少に伴い、各地域とも5年間で改善が見られる
 が、技術非効率性については時系列で改善していない事業部が複数存在し、1
 1の事業部によるヤードスティック競争が十分に機能しているとは言い難い状
 況が示された。最近では部分的ではあるが、地域通信市場においても設備ベー
 スの競争が生じつつあり、代替的事業者との競争メカニズムの活用の必要性が
 示唆される。
4 技術効率及び配分効率は、大都市圏を含む東京、関東、東海及び関西地域通
 信事業部で相対的に高く、これ以外の地域通信事業部では効率性が低い傾向に
 ある。また、この効率性の水準は、面的な加入者の分布の程度を示す一加入者
 当たりの市内線路設備額と関係があることが回帰分析の結果から明らかになっ
 た。加入者の面的分布は、事業部にとって概ね外生的変数であることから、1
 1事業部あるいは東西NTT地域会社の効率性については、これら外生的要
 因を補正して評価することが必要であると考えられる。
 

        Efficiency of Local Telecommunications Businesses

             Sumiko Asai and Jiro Nemoto

 

Abstract

  This paper evaluates the yardstick competition among the 11 NTT regional

communications sectors by measuring their allocative and technical efficiency for

the FY 1992-1996 period with a linear programming based nonparametric frontier

model.  The main results and the policy implications are threefold.

 

  First, the 80 percent of the overall inefficiency in terms of costs is due to

technical inefficiency ; thus, technical inefficiency is more important than allocativeinefficiency for the NTT regional communications sectors.

 

  Second, the allocative inefficiency has been improved in all regional communi-

cations sectors during the 5-year period as the number of employees has been

reduced.  In contract, the technical inefficiency neither exhibits a decreasing

trend nor a converging tendency during the same period, implying that the yardstickcompetition was somewhat disappointing in improving the manegerial performance. Noting that facility-based carriers have entered the local communications markets, we could consider a policy to facilitate competition between those new entrants and the NTT regional sectors, instead of the yardstick competition within NTT.

 

  Third, four NTT regional sectors operating on metropolitan areas, which

include Tokyo, Kanto, Tokai and Kansai, are found to be more efficient than the

other seven regional sectors.  We explore the sources of such a difference by

regressing the technical inefficiency to characteristics of the regional sectors.

Among them, we find that the subscriber density is negatively related to the

inefficiency with a statistical significance.  Since the subscriber density is

exogenously given for the NTT regional sectors, evaluation of their managerial

inefficiency requires adjustment for rents resulting from the subscriber density.

 

 

はじめに

 我が国では1992年度より日本電信電話株式会社(以下、「NTT」という。)の地域通信事業を11の地域に分ける事業部制が導入されている。この事業部制は、独占的市場において同種の事業を営む事業体を地域的に分け、相互比較を行うことによって、ヤードスティック競争を機能させることを意図したシステムである。また、現在のNTTは、1999年に持株会社の下に長距離会社と水平的な競争を機能させるため、東・西日本電信電話株式会社(以下、「東NTT」、「西NTT」という。)に再編成されることとなった。この再編成の審議過程における議論の焦点の一つが、地域通信事業を東西に分けることによって、地域会社の採算性に格差が生じ、その結果、料金格差やネットワークの高度化の進展に大幅な乖離が生じるのではないかという懸念である。確かに11の事業部に分けた事業部制収支では、1996年度の税引後の当期利益が東NTTに属する5事業部全体で黒字である一方、西NTTを構成する6事業部の合計では赤字を計上している段階にある1)。このような

採算上の格差の存在により改正された日本電信電話株式会社等に関する法律は、その附則第11条において再編から3年以内に限り、経営安定化の目的で東NTTから西NTTへの資金の交付を認めている。本稿では、地域通信事業部間あるいは東西NTT間の効率性格差の有無、事業部制導入によるヤードスティック競争の機能の有無を判断し、さらに、ヤードスティック競争を導入する場合の留意点について検討するため、NTT地域通信事業部の効率性を計測する。

 効率性に関して先駆的な分析を行ったFarrell(1957)は、非効率性を技術非効率と配分非効率に分けて考察している2)。技術非効率とは、投入比率を一定のまま生産要

素の投入量を削減しても同量の財の生産が可能である場合に存在し、X非効率もこの中に含まれる。また、投入要素の投入比率を変更することで同量の生産をより低い費用で行うことができる場合に、配分非効率が存在しているとされる。

 このような効率性の計測には、生産関数を推定し効率性を計測するパラメトリッ

クな方法と、生産関数と効率性指標の分布を特定化せず観察されたデータによる生産可能集合から計測を行うノン・パラメトリックな方法とに大別することができる3)。このノン・パラメトリックな方法は、オペレーションズ・リサーチの分野では、包絡線分析(Data Envelopment Analysis:DEA)と称される。本稿では、以下の理由

からノン・パラメトリックな方法を採用した。パラメトリックな方法では、コブ・ダグラス型あるいはトランスログ型で生産関数を推定し、非効率性を生産関数の残差又は残差の一部として検出する方法をとる。このパラメトリックな方法には、生産フロンティアに確率的変動を認め、予め分布型を仮定した上で、誤差項と効率性を識別する確率的生産フロンティア関数のモデルと、両者を識別しない決定論的生産フロンティア関数のモデルに大別される。後者の場合では、非効率性の分布を特定化する必要はないものの、誤差項と非効率性の識別ができないという問題点がある。本稿の分析対象であるNTT地域通信事業に事業部制が導入されたのが1992年度であり、現在までに5年間、11地域のデータが蓄積されているにすぎない。さらに、地域通信事業の場合には、複数の生産物間に多重共線性が発生することが想定され、パラメトリックな方法で頑健な結果を得ることは期待しがたい。一方、ノン・パラメトリックな方法では、多重共線性の問題が生じないほか、生産関数の関数形や誤差項の分布を特定化する必要がなく、技術効率と配分効率の双方を計測することができる。但し、この方法は、パラメトリックな方法における仮定を予め課す必要はないが、次項とその注釈で述べるとおり、規模に関して収穫一定が仮定される。このため、NTT地域通信事業の総費用関数を推定することにより全生産物の規模の経済性を計測し、規模に関して収穫一定の仮定の妥当性を検証した上でノン・パラメトリックな方法を採用することとした。

 なお、ノン・パラメトリックな方法による効率性の計測は、電力事業、病院等を対象に我が国でも行われており、NTTに関しては全社単位の分析としてSueyoshi(1997)、支店単位の分析で矢田・中山・井上(1995)がある。

 以下、第1節では分析の枠組み、第2節でデータの説明、第3節で計測結果の概要を整理し、第4節で今回の分析の政策的意義を述べる。

 

1 分析の枠組み

 最初に前述の効率性の概念を図示した後、ノン・パラメトリックなモデルを説明する。

1.1 効率性の概念         

 ここでの説明は単純化のため、2投入要素x,xと1生産物yとする。実際に観察された生産活動が図1のA点の場合では、同じ投入要素の組み合わせ比率の下で、投入要素x,xの双方の投入量を削減したB点でも、同量の生産を行うことが可能である。より少ない投入量で同じ生産量の生産が可能であるということでABを投入要素の浪費により生じた追加的費用、技術非効率ととらえることができる。これに対して、C点は投入要素x,xの価格比率px1/px2の下で最も効率的な生産活動を行っている点である。B点ではxの投入を増やし、xの投入を削減してC点における生産要素の組み合わせを選択することによって、より低い費用で同じ生産量を生産することが可能である。これにより、BDは効率的な投入要素の組み合わせ比率を選択しないことより生じた配分非効率による追加的費用であると判断される。以上の効率性を比率で示したものが(1)式である。

 

   OD/OA = (OD/OB)×(OB/OA)          (1)

    総効率性     配分効率性   技術効率性

  (overall efficiency)(allocative efficiency)(technical efficiency

 

ChartObject図1 技術効率と配分効率

 

1.2 モデル

 生産可能集合Pは、閉集合で凸錐を仮定する4)。これにより、生産可能集合は観

察される生産活動の非負一次結合により構成され、効率性を線形計画問題として解くことができる。

 NTT地域通信事業部の大部分のサービスは、県内に終始する電話サービスと専

用サービスであり、その大半は電話サービスが占めている。とりわけ、NTTには電話サービスをあまねく提供する旨の規定があり5)、NTT地域通信事業部は一定

の需要量を最小の費用で提供することを目的に行動すると想定することができる。このため、本稿では、NTT地域通信事業部が費用最小化を図りつつ、労働、資本、原材料を投入して、電話サービス及び専用サービスを提供するとし、(2)式から(5)式を用いて各効率性を算定する。

 なお、実際の計測には1992年度から1996年度の11の地域通信事業部のデータをプールして行った。このことは、55の事業部制データを独立の意思決定単位

Decision Making Unit:DMU)とみなしていることを意味する。

 

 生産可能集合P P={()|λλλ0}

  minθ

   制約式

   Xλθ

   Yλ                              (2)

   λ

     は、観察される事業部iの投入量、生産量ベクトル

     X,Yは投入量、生産量マトリックス

      λは、非負のウエイト・ベクトル

 

 θは図1では、θ=0B/0Aで表され、θ=1であれば効率的であり、ゼロに近いほど非効率的である。

 また、図1の費用最小化の生産活動を示す点は、(3)式から求めることができる。

 

  minC C=xi

   制約式 

     Xλ                            (3)

     Yλ        

     λ

 

    xiは、観察されるi事業部の投入要素の投入要素価格ベクトル

    は、費用最小化を実現する投入量ベクトル

 総効率Eは、観察される費用水準と(3)式で得られる費用水準の比率で表すことができる。

 

    Exixi                         (4)

 

 配分効率Eは、(1)式より技術効率θと(4)式で得られたEの比率である。

 

    E=E/θ                             (5)

 

2 データ

 NTT地域通信事業部は、労働(L)、資本(K)、原材料(M)を生産要素とし、電話サービス(Y)、専用サービス(Y)を提供する。データの作成方法は以下のとおりである。

 

2.1 投入要素

 労働L、資本K、原材料M

 L:各年度期末の従業員数(「NTT有価証券報告書」各年度版)

 K:資本量(NTT事業部財産目録及び損益計算書並びに事業部役務別損益明細   表」各年度版)

  土地及び建設仮勘定を除く電気通信事業固定資産が対象(機械設備、空中線設  備、端末設備、市内・市外線路設備、土木設備、建物、構築物)

  K=(1−δ)Kt−1+I

    δ:減価償却率

     δ=電気通信事業固定資産に対する減価償却額/期首の電気通信事業固定      資産額

     I:実質粗投資=(電気通信事業固定資産年度変化額+減価償却額)               /投資財価格指数(日本銀行「物価指数年報」)

 M:原材料として加入数(「電気通信事業報告規則」に基づきNTTから報告さ    れたデータ)

 

2.2 生産物

 電話サービスY、専用サービスY

  Y:電話通話分数 電気通信事業報告規則に基づき報告されたNTTの「電気    通信役務通信量等状況報告」による電話の発信と着信の合計分数(千時間)

  Y:専用回線数(電話級換算) 電気通信事業報告規則に基づき報告されたNT    Tの「電気通信役務通信量等状況報告」による電話級換算した専用回線数

 

2.3 投入要素価格

 労働価格P=実質人件費年額/年度末従業員数

   人件費は、NTT資料 卸売物価指数 日本銀行「物価指数年報」で実質化

 資本価格P

  P=P(r+δ)/w

   P:投資財価格指数 日本銀行「物価指数年報」

   r:政保保証債利子率 日本銀行「経済統計年報」

   δ:減価償却率(=電気通信事業固定資産額に対する減価償却額/期首の電気     通信事業固定資産額)

   w:卸売物価指数 日本銀行「物価指数年報」

 原材料価格P

   P=実質物件費/年度末加入数

    物件費は、NTT資料 卸売物価指数(日本銀行「物価指数年報)」で実質   化

 

3 計測結果の概要

 最初に技術効率、配分効率、総効率の各指標とそれぞれの費用水準を示した上で、資本の適正性に着目し、その結果を可変費用関数による資本の適正性を検証した浅井・中村(1997)と比較する。さらに、3.4項で地域別の効率性格差の要因について考察する。

 

3.1 効率性指標

 1992年度から1996年度の各地域通信事業部別の技術効率、配分効率及び総効率の推移を示したものが、表1から表3である。表1の技術効率については、大都市圏を含む東京、関東、東海及び関西地域通信事業部とこれ以外の地域で効率性に差があることが示される。また、技術効率の5年間の推移では、北陸地域通信事業部で改善しているものの、北海道、東海、関西、中国、四国及び九州地域通信事業部では低下が見られる。11の地域通信事業部間でヤードスティック競争が機能している場合には、相対的に効率性が劣る事業部は一層の経営努力を行うと想定されることから、事業部間の格差は縮小するものと想定される7)。しかし、表1の変動係数

は大きくなっており、技術効率に関して地域間格差が広がっていることが伺える。

 表2の配分効率については、東京、関東及び関西地域通信事業部で相対的に高い水準であることは技術効率と共通しているが、すべての地域通信事業部で改善の方向に推移していることが技術効率との主たる相違点である。各地域の年度平均では、0.83から0.940.1ポイント以上の向上が見られ、かつ、変動係数が小さくなっており、地域間格差が縮小していることがわかる。この背景には、各地域通信事業部において過剰性が強い従業員数が5年間で21.7%から34.7%削減されており8)、労働

過剰性の縮小により、生産投入要素の投入比率が効率性改善の方向に推移していることが挙げられる。

 表3は総効率であるが、これは技術効率と配分効率の双方の影響を受ける。総効率は配分効率の改善を反映して、全般的にこの5年間で改善していることが伺える。 また、表1から表3の効率性に関しては、大都市圏を含む地域で相対的に効率性が高い傾向が共通して見られる。

 

                         表1 技術効率性の推移


 

北海道

東 北

東 京

関 東

信 越

東 海

北 陸

関 西

中 国

四 国

九 州

年度平均

変動係数

1992年度
1993年度
1994年度
1995年度
1996年度

0.8770
0.8544
0.8425
0.8167
0.8047




 

0.7867
0.7869
0.7935
0.7909
0.7800




 

0.9974
0.9861
1.0000
1.0000
1.0000




 

1.0000
0.9878
1.0000
0.9991
1.0000




 

0.7628
0.7547
0.7570
0.7623
0.7685




 

1.0000
0.9874
0.9970
0.9635
0.9562




 

0.8392
0.8336
0.8416
0.8513
0.8862




 

0.9780
0.9789
1.0000
0.9443
0.9092




 

0.8826
0.8766
0.8691
0.8302
0.8098




 

0.8752
0.8529
0.8325
0.8281
0.8076




 

0.8703
0.8785
0.8679
0.8422
0.8217




 

 0.8972
 0.8889
 0.8910
 0.8753
 0.8676




 

 0.0909
 0.0905
 0.0978
 0.0929
 0.0955




 

5年平均
 

0.8391
 

0.7876
 

0.9967
 

0.9974
 

0.7610
 

0.9808
 

0.8504
 

0.9621
 

0.8537
 

0.8393
 

0.8561
 

 0.8840
 

  −
 

 

                         表2 配分効率性の推移


 

北海道

東 北

東 京

関 東

信 越

東 海

北 陸

関 西

中 国

四 国

九 州

年度平均

変動係数

1992年度
1993年度
1994年度
1995年度
1996年度

0.7955
0.8302
0.8878
0.9226
0.9378




 

0.7830
0.8002
0.8640
0.8957
0.9110




 

0.9239
0.9391
1.0000
0.9840
1.0000




 

0.9196
0.9508
1.0000
0.9960
0.9996




 

0.8051
0.8398
0.8971
0.9282
0.9267




 

0.8302
0.8725
0.9229
0.9364
0.9146




 

0.7520
0.7697
0.8601
0.8964
0.8536




 

0.8674
0.9140
0.9534
0.9778
0.9691




 

0.8249
0.8412
0.8713
0.9459
0.9500




 

0.7869
0.8117
0.8553
0.9344
0.9494




 

0.8300
0.8696
0.9082
0.9293
0.9357




 

 0.8290
 0.8581
 0.9109
 0.9406
 0.9407




 

 0.0632
 0.0642
 0.0554
 0.0336
 0.0422




 

5年平均
 

0.8748
 

0.8508
 

0.9694
 

0.9732
 

0.8794
 

0.8953
 

0.8264
 

0.9363
 

0.8867
 

0.8675
 

0.8945
 

 0.8958
 

  −
 

 

                         表3 総効率性の推移


 

北海道

東 北

東 京

関 東

信 越

東 海

北 陸

関 西

中 国

四 国

九 州

年度平均

変動係数

1992年度
1993年度
1994年度
1995年度
1996年度

0.6977
0.7093
0.7480
0.7535
0.7546




 

0.6160
0.6297
0.6856
0.7084
0.7106




 

0.9214
0.9261
1.0000
0.9840
1.0000




 

0.9196
0.9392
1.0000
0.9950
0.9996




 

0.6141
0.6338
0.6791
0.7076
0.7122




 

0.8302
0.8616
0.9201
0.9022
0.8746




 

0.6311
0.6417
0.7239
0.7631
0.7564




 

0.8483
0.8947
0.9534
0.9233
0.8811




 

0.7281
0.7374
0.7573
0.7853
0.7693




 

0.6887
0.6923
0.7120
0.7737
0.7668




 

0.7224
0.7640
0.7882
0.7827
0.7688




 

 0.7470
 0.7663
 0.8152
 0.8253
 0.8176




 

 0.1469
 0.1484
 0.1485
 0.1223
 0.1230




 

5年平均
 

0.7326
 

0.6700
 

0.9663
 

0.9707
 

0.6693
 

0.8777
 

0.7032
 

0.9001
 

0.7555
 

0.7267
 

0.7652
 

 0.7943
 

  −
 

 (注) 技術効率については、観察された生産活動を示す点が、効率的フロンティア上に存在する場合(すなわち、技術効率の値が

 

/P>

 

 

 表1から表3は11の地域通信事業部別の指標であるが、1999年度に再編成される東・西NTT別に集計したものが表4である。集計に際しては、地域通信事業部の規模に格差があることから、費用額をウエイトとして加重平均した。表4によると、技術効率は1994年度までは東西NTT間でほぼ同じであるものの、西NTTでは1995年度以降悪化し、東西NTT間の格差が広がっている。また、配分効率及び総効率については、5年間のすべての期間において東NTTが西NTTよりまさっている。

 

            表4 東・西NTT別効率性指標の推移











 



 

   技術効率

   配分効率

   総効率

 東

  西

  東

  西

  東

  西

 1992年度
 1993年度
 1994年度
 1995年度
 1996年度
 

0.93242
0.92231
0.93025
0.92915
0.92636
 

0.93107
0.92764
0.93163
0.89777
0.84356
 

0.88191
0.90734
0.96355
0.96777
0.97744
 

0.83528
0.87283
0.91631
0.94791
0.93995
 

0.82231
0.83685
0.89635
0.89919
0.90546
 

0.77771
0.80968
0.85367
0.85101
0.79291
 

(注)東西NTTの集計方法は、以下のとおり。

1992年度     1

の東NTT =(北海道92費用×指標+,...,+信越92費用×指標)

効率指標  1992年の東NTT内の事業部費用合計

 

 西NTTについても、同様の方法で集計

 

 表5は、(3)式で得られる費用最小化を実現する投入量と現実に観察された投入量のそれぞれの比率であり、1を超えるほど投入量が過剰であることを示す。この表から、3種類の投入要素のうち労働の過剰性が大きく、特に、西NTTの労働の過剰性の存在が効率性を相対的に低いものとしていることがわかる。また、労働の過剰性は時系列では解消しつつあり、資本の過剰性に変化が見られないことにも因るが、東NTTでは1996年度の労働の過剰性は資本と同程度の水準となっている。一方、西NTTでは、表5の1995年度と1996年度で3種類の投入量に関して小規模であるが比率が高まっており、これが効率性の低下に反映している9)

 

    表5 現実に観察される投入量と費用最小化を実現する投入量の比率











 



 

   労働量  

   資本量

   原材料

 東

  西

  東

  西

  東

  西

 1992年度
 1993年度
 1994年度
 1995年度
 1996年度
 

1.50621
1.39977
1.17040
1.13169
1.11477
 

1.78682
1.59818
1.42261
1.34225
1.34901
 

1.10405
1.12444
1.11509
1.13868
1.10930
 

1.08965
1.09162
1.09440
1.13335
1.14747
 

1.03729
1.04597
1.03651
1.06042
1.09026
 

0.99064
0.98657
0.97311
1.04220
1.13912
 

  (注) 比率=現実に観察される投入要素量/(3)式による費用最小化を実現する       投入要素量

 

3.2 費用水準

 前項は効率性を比率として、図1では技術効率をOB/OA、総効率をOD/OA、配分効率をOD/OBとしてとらえてきた。ここでは、比率に代えて費用水準で示す。すなわち、技術非効率による追加的費用は図1ではAB、配分非効率による費用はBDに相当する。現実に観察される生産活動の費用水準をC、技術効率を達成した生産活動の費用水準をC、費用最小化を達成した生産活動の費用水準をC

表示する。生産要素価格は各年度、各地域毎に観察される投入要素価格である。

 表6より、地域通信事業全体で現実に観察された費用が5年間平均で42,211億円、費用最小化で生産活動が行われた際の費用は35,764億円であり、15.27%の費用が削減できることが示される。また、現実に観察される費用水準と費用最小化の費用水準との差の6,446億円のうち79.78%は技術非効率性によるものであることも表6か

ら読みとれる。

 

 

 

 

 

 

 

       表6 費用水準の推移   (単位 百万円)



 


5年間平均

  東・西NTT別  
  5年間平均費用

観察された生
産活動での費
用水準 C


  4,221,118
 

東NTT  2,056,958

西NTT  2,164,160

技術効率を達
成する費用水
準 C


  3,706,790
 

東NTT  1,826,729

西NTT  1,880.061

費用最小化を
達成する費用
水準 C


  3,576,447
 

東NTT  1,793,549

西NTT  1,782,898

技術非効率に
よる費用
−C


  514,328
 

東NTT   230,229

西NTT   284,099

配分非効率に
よる費用
−C
 


  138,191

 

東NTT    41,029

西NTT    97,162
 























 

(注)表6の計算方法は、以下のとおりである。

 C:投入要素価格P,P,P、現在観察される投入量L

   K,Mの下での費用水準 C=P+P+P

 C :技術効率を達成する投入量L,K,Mの下での費用水準

                C=P+P+P

 C:費用最小化を達成する投入量L,K,Mの下での費用水準

                C=P+P+P

 

 なお、電力事業において同種の分析を行った北村・筒井(1996)によると、電力事業の費用最小化からみた非効率性の主たる要因は技術非効率ではなく、配分非効率に起因するとしており、地域通信事業とは対称的な結果が示されている。

 

3.3 資本の適正性

 今回の計測では、生産投入要素として労働、資本及び原材料の3要素としている

が、本稿では以下の理由から資本量の適正性に着目する。労働の過剰性については、表5のとおり5年間で東西NTTの双方において、比率で約0.4ポイントの改善が見られる。この点、現在は労働量が適正量に調整されている過程にあると言える。また、原材料は表5からも示されるとおり、短期的に調整可能な投入要素であり、今回の計測では過剰性の程度は小さい。一方、実際に観察される資本量は全体的に見て費用効率を達成する資本量を上回っており、その過剰性に変化は見られない。むしろ、1992年度と1996年度を比較すると、過剰性は僅かではあるが増大してお

り、資本の過剰性による非効率性が将来においても保持される可能性がある。

 以上の点から、表7で表5と同様に現実の生産活動として観察される資本量K

(3)式から得られた費用最小化を実現する資本量Kの比率を11の事業部別に示

した。効率性指標が高い東京及び関東地域通信事業部では、表7のK/Kは概ね

1であり、資本が適正量に調整されていることが示される。一方、効率性の値の低い北海道、東北、信越、北陸及び四国地域通信事業部では、K/Kの値は高い。

 また、浅井・中村(1997)は、1992年度から1995年度の4年間のデータでNTT地域通信事業の可変費用関数の推定を通じて最適資本量を求めている。表7では浅井・中村から得られた最適資本量Kと現実に観察された資本量Kの比率も併せて示した。これは、4年間のデータで電話サービスのみの単一生産物モデルの推定結果であるが、今回のノン・パラメトリックの推定結果と整合的である。

 なお、東京地域通信事業部では、表7のノン・パラメトリックの推定と費用関数の推定による資本量の比率で差異がある。可変費用関数の推定はデータ数の制約上、電話サービスを生産物とする単一生産物モデルであり、専用サービスの比重が相対的に高い東京地域通信事業部全体の生産量を過小評価している可能性がある。これに対し、ノン・パラメトリックの推定では電話サービスと専用サービスの複数生産物モデルであるため、単一生産物モデルにおける生産物全体を過小に見積もることから生じるバイアスが解消されているものと考えられる。

 

 

 

 

 

 

            表7 最適資本量との乖離

















 



 

ノン・パラメトリックの推定 K/K

 費用関数
 K/K
4年間平均

5年間の上限と下限

5年間平均

北海道
東 北
東 京
関 東
信 越
東 海
北 陸
関 西
中 国
四 国
九 州
 

1.42〜1.46
1.43〜1.51
1.00〜1.03
0.96〜1.04
1.29〜1.37
0.96〜1.03
1.12〜1.20
0.99〜1.09
1.23〜1.31
1.18〜1.32
1.20〜1.26
 

1.443
1.479
1.015
1.004
1.355
0.993
1.174
1.034
1.274
1.259
1.232
 

1.342
1.433
1.284
0.994
1.291
0.998
1.191
1.069
1.217
1.162
1.153
 
















 

  右欄の数値については、浅井・中村(1997) p.36 表3の抜粋

 

3.4 効率性格差の要因分析

 表2より配分効率は東京、関東、関西地域通信事業部で相対的に高く、また、表

7からこれら事業部では資本の過剰性が発生していないことが示される。配分非効率は、最適ではない投入要素の組み合わせ比率を選択することにより生じる非効率性であり、NTT地域通信事業の場合には労働あるいは資本を過剰に保有することにより生じる部分が大きい。一方、表6より、NTT地域通信事業の非効率性は、配分非効率に起因するよりも技術非効率性に因る部分が大きいと判断される。技術非効率が発生している状況では、観察される生産活動よりも同じ比率で生産要素の投入量を削減しても、同一生産量の生産が可能であることを意味する。鳥居(1994)

は、技術非効率の発生要因として、X非効率、レント・シーキング活動及び生産技術の改善による見かけ上の非効率を挙げているが、X非効率は非合理的な活動の結果生じるものであり、その要因を特定化することは困難である10)

 また、多くの投入要素を利用する要因が、各地域通信事業部にとって操作可能な場合とそうではない場合の双方があることも考えられる。表8は技術効率を含む3つの効率性指標がどのような要因と関係しているのかをみるための回帰分析の結果である。

 ここでは、11の地域通信事業部の地域特性が面的な加入者の分布を示す一加入

者当たりの市内線路設備額と大口需要者の存在に起因すると仮定した11)。面的な

加入者の分布に関しては、一加入者当たりの市内線路設備額(β)12)、大口需要

者の存在については電話一加入当たりの専用サービス収入(γ)を代理変数とした。なお、要因分析に当たっては、公表されている財務データだけではなく、設備に関するデータ等により変数を作成する等、改善の余地が残されていることを予め記しておく13)

 一加入当たりの市内線路設備額が高いこと、すなわち地域的に加入者が分散して

いることは、より多くの投入要素を使用する方向に作用すると想定されるが、表8より技術効率及び総効率のそれぞれのケースのβに関して有意に負の値が得られている。配分効率については、ケース3でβの係数として正の値が得られているが、有意ではない。また、大口需要者の存在はより少ない投入要素で多くの生産量を提供する方向に作用すると考えられる。これについては、推定値の符号は想定される正の値ではあるが、いずれのケースも有意ではない。

 さらに、今回のノン・パラメトリックな手法による効率性の計測では、規模に関して収穫一定を仮定している。δ,δで生産規模を説明変数に加えた推定をケー

ス3で行っているが、3種類の効率性において有意ではなく、規模と効率性との直接的な関係はここからは見いだせない。

 表8のケース1からケース3の推定により、技術効率及び総効率の値は、一加入当たりの市内線路設備額と関係していることが示唆される。一加入当たりの市内線路設備額が事業部にとって外生的変数であるならば、外部環境の差が効率性の格差を発生させていると解釈される14)。この前提にたち、技術効率をヤードスティック方式の指標として使用する場合には、地域通信事業部の加入者の地理的分布による効率性の格差について事後的に補正する必要があると考えられる。なお、東西NTT間では、1996年度の一加入当たり市内線路設備額は、西NTTが平均で21,139円、東NTTが19,947円と西NTTのほうが高く、このことが西NTTが相対的に効率

性が劣っていることに影響を与えていると考えられる。

 

 

 

 

 

                          表8 効率性の要因                  (1996年度)


 

     技術効率

     配分効率

     費用効率

    説明変数

ケース1

ケース2

ケース3

ケース1

ケース2

ケース3

ケース1

ケース2

ケース3

α 定数項


β 市内線路設備額/電話
  加入数

γ 専用収入/電話加入数


δ 通話分数


δ 専用回線数

 

  1.1964
(23.2459)

-14.141
4
(-6.5530)









 

  1.1479
(11.8021)

-13.4833
(-5.3994)

  4.9543
(0.5959)





 

  1.1315
 (7.8145)

-12.117
9
(-2.4811)




0.0000004
(0.3679)

0.0000003
(0.1528)

  1.0383
(21.2172)

-4.2003
(-2.0469)










 

  1.0340
(10.9420)

-4.1419
(-1.7071)

  0.4399
 (0.0545)






 

  0.8186
 (7.6513)

  2.7717
 (0.7679)




0.0000009
(1.1000)

0.0000001
(1.2049)
 

  1.2187
(20.0106)

-17.255
9
(-6.7568)









 

  1.1629
(10.0916)

-16.4965
(-5.5759)

  5.7172
 (0.5804)





 

 0.94528
 (7.1258)

-8.5986
(-1.9215)




0.0000001
(1.1917)

0.0000002
(1.1348)
 

修正済み決定係数
 

 0.80748
 

 0.79262
 

 0.76176
 

 0.24184
 

 0.14739
 

 0.43340
 

 0.81703
 

 0.80248
 

 0.86429
 

 (注) 上段の数値は、説明変数に係るパラメータ推定値

     下段の()内の数値は、t値

 

 

4 政策的意義

 以上の計測から、NTT地域通信事業の非効率性は、電力事業とは対称的に技術非効率に起因するところが大きいことが明らかになった。電力事業の料金規制では設備の効率性を重視したヤードスティック方式が導入されているところであるが、電力事業では配分効率に問題があるとの計測結果は、この規制方式を裏付けるものとなっている。地域通信事業でヤードスティック方式を取り入れる場合には、むしろ技術非効率に着目する必要があることが今回の計測から示唆される。

 また、効率性の格差は、一加入当たりの市内線路設備額と関係があることが回帰分析の結果から示された。この変数が事業部にとって外生的変数であり、短期的にその構造に変化がないことを前提とする限り15)、料金規制方式等にヤードスティック競争を盛り込む場合には、一定の補正を行うことが必要と考えられる。さらに、効率性格差の要因が外部環境に大きく依存することは、東NTTから西NTTに資金を交付することに対して一定の根拠を与えることになる16)。もっとも、今回の要因分析は公開されている財務データの範囲内で行っており、データ入手により改善を図る必要があること、一加入者当たりの市内線路設備額は技術効率の格差のすべてを説明しているものではないこと、表5で示されるとおり西NTTの投入要素の過剰性は東NTTに比べ高く、かつ、効率性の改善が図られているとは判断しがたいことから、資金の交付に当たっては西NTTの赤字部分の全額ではなく一部を補助する等、西NTTに効率化インセンティブを付与する仕組みが必要と考えられる。

 一方、 NTTに11の地域通信事業部を設置した趣旨は、独占的傾向が強い市場においてヤードスティック競争のメカニズムを取り入れることであった。本論文の計測対象期間である1992年度から1996年度では、有線系地域通信市場におけるNTTに対する競争事業者の活動は極めて限定的であり、競争は実質的には事業部間の比較競争に限られる。しかし、阪神・淡路大震災のような外生的要因を考慮する余地はあるものの、全国的にみて効率性の時系列の推移に関しては相対的に効率性が低い事業部で改善が見られているとは言い難い。1999年度以降は比較対象が11事業部から東西NTT2社に減じられることになり、ヤードスティック競争の有効性に対しての懸念は払拭されない。最近では、地域通信市場においてCATV事業者による電話サービス、あるいはいわゆる地域系新規参入事業者の電話サービスの展開等、設備ベースによる新たな事業者との競争も生じつつある。地域通信市場における効率性の促進のためには、東西NTTの料金規制を通じたヤードスティック競争も一つの方策ではあるが、このような新規事業者、あるいは潜在的事業者の参入による競争メカニズム機能に委ねることも選択肢の一つである。この場合、地域通信事業の自然独占性は、浅井・根本(1998)により既に棄却されており、NTT地域通信事業と他の事業者との競争条件を整備し、競争メカニズムを機能させることで当該市場の効率性を促進することも有効な政策として考えられる。

 

注釈

1)  東NTTに属する事業部とは、北海道、東北、東京、関東及び信越地域通信

事業部、西NTTに属する事業部とは、北陸、東海、関西、中国、四国及び九州地域通信事業部である。

2)  Farrell(1957)は、配分効率を価格効率(price efficieny)と称している。

3)  パラメトリックな方法とノン・パラメトリックな方法の概要、問題点につい ては、中馬・橘木・高田(1993)及び刀根(1998)参照。

4) 凸錐であることは、生産可能集合の可分性及び加法性を意味する。また、こ

の仮定の他、無償処分の可能性も前提としている。可分性の仮定は規模に関して収穫一定を意味するが、これについては、NTT地域通信事業の総費用関数を推定し、全生産物の規模の経済性を計測することで、その仮定の適正性を検証した。ここではデータの入手の容易性から費用関数の推定を行っているが、生産関数に基づく規模の経済性と費用関数に基づく規模の経済性は同値である。

 生産物は本論の効率性の計測と同様に電話サービスと専用サービスとし、投入要素は推定上のデータ数の制約から比率が小さい原材料を捨象し、労働と資本の2生産要素とした。総費用関数はトランスログ型で、(2)式の労働シェア方程式を付加して最尤法で推定を行った。

lnTC=α+αY1lnY+αY2lnY+αlnP+αlnP

    +1/2βY1Y1(lnY+βY1Y2lnYlnY

    +1/2βY2Y2(lnY+1/2γLL(lnP

    +γLKlnPlnP+1/2γKK(lnP+δLY1lnPlnY    +δLY2lnPlnY+δKY1lnPlnY+δKY2lnPlnY

    +DlnY+DlnY                      (1)

=α+γLLlnP +γLKlnP+δLY1lnY+δLY2lnY     (2)

 

 なお、(1)式のDとは、東京、関東、東海及び関西地域通信事業部の電話サービスに1、その他の事業部にゼロ、Dは東京地域通信事業部の専用サービスに1、これ以外の地域通信事業部をゼロとする地域ダミーである。

 (1)式及び(2)式の推定に当たっては、基準化したデータを用いることにより、全生産物の規模の経済性Scaleは、Scale=1−(αY1+αY2)で定義することができる。推定したパラメータをもとにScaleを計測した結果、Scale0.05773(標準誤差0.08745)が得られた。この値は正であるが、有意ではなく、Wald検定の結果でもこの値がゼロであるとの仮説を棄却できない。したがって、NTT地域通信事業部において全生産物の規模の経済性が存在するとの仮説は棄却される。

5) 日本電信電話株式会社等に関する法律第3条は、「・・会社及び地域会社は、

・・国民生活に不可欠な電話の役務をあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保に寄与するとともに・・(途中、省略)・・努めなければならない」と規定される。

6) 原材料の投入量、投入価格として、本論文以外に実質物件費、卸売物価指数又

はGNPデフレーターをそれぞれ使って推定する事例も見られる。しかし、今回の推定で卸売物価指数又はGNPデフレーターを用いる場合には、同一年度の11事業部で同じ価格指数となること、NTTの原材料価格が卸売物価指数又はGNPデフレーターと直接的な関係はないと考えられることから、より現実を反映した変数として本論の変数を選択した。もっとも、現実に観察される費用のうち、非効率性により発生している費用の占める比率は、本論文では15.3%、実質物件費と卸売物価指数で計測した場合で17.2%、また、非効率性の技術非効率の占める比率は、本論文が79.78%に対し、卸売物価指数の場合は79.98%であり、いずれの変数を選択するにせよ、推定結果の解釈に本質的な差はないものと考えられる。

7) この仮説は、伊藤・宮曽根(1994)による。

8) この従業員の削減には、NTTファシリティーズ、NTTテレコムエンジニ

アリングへの出向も含まれており、人員削減の程度を過大に評価している可能性がある。もっとも、その出向者数は公表されていない。また、減少した人件費の一部は、子会社への作業委託として原材料の増加を通じて、投入要素比率を変化させている。

9) 西NTTの効率性が1995年度以降改善していない要因には、1995年1月の阪

神淡路大震災が影響している可能性がある。表5の労働、資本のそれぞれの比率を事業部別に見ると、関西地域通信事業部及び中国地域通信事業部で資本の過剰性が拡大しており、復旧のための投資が行われたことが伺える。一方、労働の過剰性については関西地域通信事業部で改善し、関西地域通信事業部を除く西NTTを構成する5事業部で、1996年度の労働の過剰性は拡大している。これらには震災の影響を直接的には受けていない事業部が含まれていることから、効率性低下の要因を震災のみに帰するのは必ずしも適切ではないと判断される。

 なお、電話の通話分数は、1994年度以降、東西NTTの双方で伸びが純減しているが、西NTTのほうが減少の比率が高く、このことが効率性に影響を与えている可能性がある。

10) Leibenstein(1966)は、X非効率の要因として労働契約の不完備性、生産関数が

完全には特定化されないこと、任意の投入要素は市場取り引きされていない、あるいは市場化されている場合でも、任意の買い手に等しい条件で取り引きされていないことを挙げている(pp.412-413)。また、Frantz ed.(1997)は、その第3章から第5章で、X非効率とその要因に関する包括的なサーベイを行っている。

11) 銀行業における効率性格差の要因分析を行っているAly, Grabowski, Pasurka and

Rangan(1990) Aly and Pasurka(1988)は、いずれも生産物の多様性を変数として回帰分析を行っているが、11のNTT地域通信事業部が提供しているサービスは同一であることから、サービスの多様性を考慮する必要はない。

 また、料金規制にヤードスティック方式を導入している我が国の電力事業では、電源設備以外の設備形成に需要密度等の6変数、一般経費についても大口需要者の比率等の3変数で地域補正を行っている。詳細については、資源エネルギー庁(1995)「電力料金改定の概要」参照。

12) 地域通信事業部制収支では市内線路設備に対応する減価償却費は公表されて

おらず、本稿では市内線路設備額は簿価の金額を利用せざる得なかった。このため、ここでは単年度のクロスセクション・データの推定を行った。

13) 事業部制データでは、各事業部別の貸借対照表及び損益計算書が開示されて

いるが、市内線路長等の設備に関するデータ及び大口利用者に関するデータ等は公表されていない。

14) 加入需要の所得弾力性及び価格弾力性の値は小さく、各事業部が加入需要に

影響を与える施設設置負担金及び基本料の値下げを行ったにせよ、その影響は小さいと想定される。弾力性の推定の詳細については、Taylor(1994) pp.85-128参照。

15) 技術効率性の要因に関する回帰分析については、1996年度だけではなく、199 2年度に関しても概ね同じ推定結果が得られている。

16) 但し、今回の計測結果は東西NTT間の恒久的な資金の交付の正当性を意味

するものではない。効率性格差の要因が外生的要因に起因するものであるならば、費用削減のインセンティブ、競争中立性の配慮したシステム設計の検討が必要となろう。

 

 

参考文献

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