郵政研究所月報

2002.12

特 集

日本経済中期見通し(2002年度―2006年度)


第三経営経済研究部主任研究官

寺谷   淳

研究官

藤重 雅哉

研究官

矢島   徹

研究官

佐藤 孝則



[要約]

1.最近10年間の日本経済の平均実質経済成長率は1%台の低い伸び率に留まってきた。この理由として、デフレーションの状態に陥っていることがあげられる。財政赤字幅や公債残高が増加しているため、財政拡大は難しく、金利水準もほぼゼロとなり、金融政策も効かなくなっている。米国経済に不透明感が漂う中では、輸出のみに頼る成長も難しい。財政政策、金融政策、輸出以外の方法で、デフレを止め、日本経済を成長軌道に戻すことが求められている。

2.過去10年間のデータを用い、コブ・ダグラス型生産関数を推計し、資本、労働、全要素生産性の寄与を求めた。日本経済の潜在成長率は、1.0―2.0%程度と推計される。2002年度から2006年度までの5年間で、資本ストックの伸び率は3―4%程度、労働投入量の伸び率はほぼ0%、全要素生産性ののびが0.5―1.0%程度と考えられる。供給サイドから推計した5年間の平均成長率は1%程度で、技術革新や規制緩和により、全要素生産性が伸びれば、その分成長率が上乗せされると考えられる。

3.物価の下落が続いている。需要の弱さに起因する需給ギャップの大きさ、安い輸入品の増加、規制緩和による通信費用の低下に加えて、株や不動産のような資産価格が低下していることがあげられよう。このような中では、企業は収益や設備投資を伸ばせず、銀行は不良債権を減らすことができない。デフレを止めることが、金融機能回復の前提となる。消費者物価や卸売物価の下落が止まるのは、2006年度となろう。

4.米国では1990年代に10年近い景気拡大が続いたが、2001年以降は景気後退局面に入っている。2001年は、利下げ、所得税減税、国防支出の拡大により、ゼロ成長に踏みとどまった。2002年から2006年までは、米国の実質経済成長率は2%台の緩やかな伸びが続くと見られる。米国は、2002年度から財政赤字に転じた。財政赤字と経常赤字の双子の赤字は、ドル安要因となりうるが、日本経済も力強さを欠くため、円の上昇圧力は限られると見られる。

5.日本の輸出入の地域別シェアを概観すると、中国やASEANのようなアジア諸国の比率が高まっている。日本の製造業がアジア諸国に工場を建設し、現地生産を進めているため、アジア向けの資本財や中間財の輸出が増えている。アジアで生産された工業製品は、最終的に米国や日本市場に向けられている。そのため、日本とアジアとの貿易が増えているとはいえ、日本の輸出は米国景気に左右されると言える。

6.今後5年間の税制は増減税が中立で、平均名目成長率が1%程度とすると、税収は大きくは伸びないと予想される。公共事業を中心とした歳出削減努力は行われるものの、税収の落ち込みを補うには至らず、新規国債の発行額は年間30兆円を超えよう。部門別の資金過不足を概観すると、政府の赤字が続く一方で、企業と家計は黒字となっている。政府が発行する国債を家計が購入するという形と国債の低金利が、当面続くと見られる。

7.低成長率、物価下落により、名目賃金も下がっている。社会保障負担の増加や財政赤字の拡大に対する懸念も、個人消費には逆風となっている。単身世帯や自営業世帯は、勤労者の家族世帯よりは、金銭的に余裕があり、消費を伸ばせそうである。このような世帯を加味したGDPベースの実質個人消費は、平均で1%程度の伸びに留まろう。

8.研究開発と規制緩和の促進は、需要と供給の両面を拡大させる効果を持つ。1990年代の実例では、移動通信や大型小売店設置の規制緩和が、設備投資や個人消費を刺激した。ただし、規制緩和を日本全国で行おうとすれば、数多くの制度改正が必要で、実施に時間がかかる。そこで、地域の自主性を尊重した構造改革特区の導入が計画されている。各自治体が、物流、研究開発、環境・エネルギーといった分野で特区の申請をしている。順調に進めば、構造改革特区は2003年度から実施される。これらが全国に先駆けたパイロットケースとして注目され、規制緩和地域が拡大したり、全国で行われたりすれば、成長率押し上げに働こう。2005年度から2006年度にかけて、これらの効果が現れよう。

9.供給側から推計した潜在成長率や需要の動向から予測すれば、日本経済の実質成長率は、2002年度から2005年度まで1%前後の低い伸び率となろう。規制緩和の効果が出始めるのは2006年度で、個人消費や民間設備投資の回復により、成長率は2%前後に上向こう。物価下落が止まるのは、2006年度になってからと予測する。米国経済の2%台の成長率を前提としているため、輸出は堅調に推移しよう。リスクとしては、日本の規制緩和が進まないことと、米国の実質成長率が下ぶれすることがあげられる。この場合は、2006年度の日本の実質成長率が低くなり、デフレからの脱却が後ずれすることとなろう。



全文 日本経済中期見通し(2002年度―2006年度)