郵政研究所月報

2003.1

シリーズ

シリーズ「電子政府を支える情報通信基盤技術」(第10回)
 

電子政府と新サイバーネットワーク論


麗澤大学国際経済学部教授  浦山 重郎

[はじめに]
 最近各国で開発が進められている電子政府は、高度サイバーシステムと密接な関係を持つことになりこのようなシステムの急激な変化につれて、電子政府構築のコンセプトも変貌を遂げつつある。
 電子政府は大別して国家政策志向型と行政効率化型の2つに分かれるが、各国の対応によりその文化・経済発展によってその間にいくつかの型が作られている。
 国家政策指向型の代表はシンガポールである。2002年のインターネット白書(1)によるとインターネット普及率は48.1%(2001年12月末)で、日本の34.7%を13%以上凌駕しているばかりでなく、アジアで普及率一位のオーストラリアと5%しか違わない第四位に位置している。ここでは幹線計画シンガポール・ワン(SyngaporeOne)を推進し、全国民がICカードを身分証明書の代わりとして配布されている。シンガポールの国家情報化戦略は現在民生への配慮で路線を修正してはいるものの、政府の国家目的主導であり、アジアのみならず世界の情報および金融センターのハブとしての地位確立を目指している。
 1980年に国家コンピューター計画を発表し、翌年国家コンピューター庁を設立すると共に、政府省庁のコンピュータ配置を他の国と比べ最も早い段階で始めた。85年のIT化計画と共に省庁間の専用線を設置、92年のIT2000計画の実施に移行した。
 その更なる具体化としてICT21戦略(Information Communication Technology21)を打ち出している。これは、国家ネット接続計画(Connected Government Project)とE−Citizen Center計画の2つよりなる。前者はブロードバンドの建設から、データベース設備、政府調達計画、キオスク端末の設置に至るまで、国家の産業競争力強化のためのIT技術の発展と、経済力の向上を目指すものであり、後者は、国民生活向上のためのワン・ストップ・サービス(ホームページを利用して市民生活を向上するためのインターネットシステム)を主体とする。

 行政効率化型の代表は米国や日本であり、国や地方自治体を問わず、住民の福祉・サービスを主眼として行政の効率化を図るものである。これは国や地方自治体への申請・届出・行政情報の発信から納税申告・政府調達に至るまで行うものである。

[図表] IDCと電子政府の関係

 ここでインターネットデータ・センター(IDC)とこれら電子政府の関係を示すと[図表]のごとくなる。この図で見るようにIDCに行政がかかわるには、行政効率化から政策指向型へ何段階かのステップを踏むことになる。
 IDCと行政との関わり合いの第一段階は行政事務の合理化など行政機関内部の情報化と政府や自治体への各種申請・届出・行政情報のオンライン化などであり、第二段階はさらに事業認可などの電子申請から始まり、政府調達から納税申告、社会保険の給付にまで至るものである。
 しかし、IDCを電子政府が利用する最大のメリットは、標準化業務のアウトソーシングと国家目的支援のための企画業務のアプリケーションの作成である。すなわち、〔図表〕のホスティング・レイヤー(2)に至る層まで標準化できる行政情報提供、各種申請届出などをアウトソーシングすることはもちろんであるが、特に企画・立案に関するソフト作成の関係では、ネットワークと連結したホスティング・サービスをプラットフォームとしてデータベースの作成・システムのストックと複合化・高度化、行政システム高度化のための政府間競争を行わせることが必要であり、これはIDC無しでは達成できないといってよい。換言すると、政府がIDCをASP(Apprication Service Provider)やSI(System Integration)として使用し、アウトソーシングすることである。スウェーデンでは福祉国家樹立目的のため、IDCを医療保険のデータベースの作成・福祉年金のシステム構築から各種福祉サービスの企画提供に至るまで広く使用している。Senior Net Sweden(高齢者のためのスエーデン・ネット)で高齢者の情報教育からあらゆる情報を検索が自由にできるようにし、また、高齢者に限らないが、The Government IT Bill(政府情報システム法)によって国民すべての情報公開や納税システムを導入している。
 また、マレーシアでは、長期国家情報化計画(Vision:2020)において電子政府プロジェクトに参加するIDC事業者にワンストップ・サービス・システム(公共料金支払いに、自動車登録免許の発行などに至るまでの各種サービス提供の一元化)の構築から電子調達に至るまでシステム作り、保守、運用すべてに参画を要請している。
 いずれも高度IT業務は専門家の協力なくしては実現できぬとの読みがある。
 わが国も、できる限りIDCネットワークの共通化・標準化をシステム面から実現することにより、情報行政の一元化を図ることが望ましい。そのため、本文が若干なりとも参考になれば幸である。

(1) インターネット白書2002.Impress社(2002年7月12日)
(2) 本文参照のこと。サーバーの運用管理からネットワークのコネクションサービスまですべて担当する層。


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