郵政研究所月報
1998.3

調査・研究



デリバティブ取引の仕組みと役割








第三経営経済研究部研究官  池田 哲也




(はじめに)

 金融の自由化・国際化の進展を背景にデリバティブを対象とした各種取引は、内外市場において質量両面にわたり飛躍的な成長を遂げている。デリバティブを取り巻く環境は著しく変化しており、取引自体も急拡大し、金融ビジネスでは必要不可欠となっている。本論文では、デリバティブ取引の仕組みを紹介するとともに、利用上のメリットやデメリットと、デリバティブが有するリスクについて説明し、今後のリスク対策について言及する。
 まず、第1章では、デリバティブの特徴や利用上のメリット・デメリットについて言及し、デリバティブ取引の成長要因や機能について述べる。第2章から第4章にかけては、デリバティブ取引を取引種類に分けて、順次第2章では金融先物取引、第3章ではスワップ取引、そして第4章ではオプション取引について、それぞれその仕組みを説明する。次の第5章ではデリバティブが持つ6つのリスクについて説明した後、デリバティブ取引による過去の損失事例を例示し、今後の損失防止策について概観する。更に、デリバティブ取引が銀行業務に及ぼす影響について検討する。最後に第7章では、デリバティブ取引の市場規模と我が国の特徴を説明し、情報開示強化の観点からディスクロージャーのあり方について分析を加える。

1.デリバティブの特徴

(1)デリバティブの特徴

 デリバティブはDerivativeと綴り、Derive(由来する)と同系統の言葉で「派生的」とか「派生物」を意味する。つまり、主製品に対する副産物とか、原商品に対する派生商品といった意味をもち、金融用語としては「金融派生商品」と呼ばれている。その外にも金融ハイテク商品、あるいは金融新種商品などと呼ばれることもある。これらの表現には厳密な定義はなく、ほぼ同じ意味と考えられる。
 デリバティブを商品別にみると、金利(預金)から派生した金利先物、金利(債券)から派生した債券先物、通貨から派生した通貨先物のほか、株式から派生した株価指数先物などが代表的なものとして挙げられる。これらの商品は原則として元本の移動を伴わないため、貸借対照表(バランス・シート)には計上されず、オフバランス取引となっている。なお、デリバティブに対して派生する元になる預金、債券、通貨などの商品は原資産(Underlying Assets)とか原証券(Underlying Securities)などと呼ばれている。
 これらの商品は、世界的な金融市場の拡大や取引の複雑化に加え、リスクの高まりなどを背景に1970年以降、金融取引の重要なツールとして取引が開始され整備されてきた。
 デリバティブの基礎を構成しているものは、金利(預金、債券)、通貨、株式が主要なものであるが、2つ以上の商品を複合した商品もある。また、デリバティブの取引種類で分類してみると、先物、先渡し、スワップ、オプションの4つに分けることができるが、先物にオプション機能を付加した複合商品もある。下記の表はこれらをまとめたものである。


図表1 デリバティブの主な種類
原商品 先物 先渡し スワップ オプション 複合
金利
(預金)
金利先物 FRA
(金利先渡し)
金利
スワップ
  金利先物オプション
債権先物オプション
スワップオプション
(債権) 債権先物     債権現物
オプション
債権先物オプション
通貨 通貨先物   通貨
スワップ
通貨
オプション
通貨先物オプション
株式 株価指数先物     株価指数
オプション
株価指数先物
オプション
複合     エクイティ
スワップ
   


 具体的には、短期金融商品である預金関連をみると金利先物、FRA(金利先渡し)、金利スワップのほかに、先物にオプション機能の付いた金利先物オプションや債券先物オプションに加え、スワップにオプション機能の付いたスワップションなどがある。長期金利商品である債券関連では、債券先物、債券現物オプションが代表的である。通貨関連では、通貨先物、通貨スワップ、通貨オプションに加え、複合商品である通貨先物オプションなどがある。更に、株式関連では、株価指数先物、株価指数オプションに加え、複合商品である株価指数先物オプションなどがある。更に金利と株価指数等をスワップするエクィティ・スワップなどもある。このようにデリバティブ商品は原資産ごとや取引種類ごとに多種多様であり、それぞれ利用者のニーズにあった商品が金融機関により提供されている。

(2)デリバティブ利用上のメリット

 デリバティブには多種多様な商品が存在するが、従来の金融商品になかった様々な特徴を持っている。主な特徴点を列挙すると以下の通りとなる。
@取引の多様化
 デリバティブは、従来までになかった新しい取引である。例えば、為替相場において、ドルの上昇メリットを享受する一方でドルの下落リスクを回避することや、債券相場において将来の金利を確定することなどは、従来のツールでは対応が不可能であったが、デリバティブの導入によって可能となったのである。デリバティブの導入により金融、財務手法は高度化し、顧客のニーズに多面的に対応することが可能となった。
Aリスク・ヘッジ機能
 デリバティブにより様々な金融リスクを軽減することが可能となり、リスクの回避には有益である。将来の金利リスクの回避には、短期では金利先物、中長期では金利スワップなどが利用されるが、これらのデリバティブは利便性に優れていることに加え、リスク・ヘッジのコストが従来の取引と比較して低いことなども利点である。
Bオフバランス取引
 デリバティブは原則として元本に相当する資金の授受は行われず、貸借対照表にのらないオフバランス取引である。従って、元本に相当する資金が不要であるため投下資本に対する利益の割合が、元本を必要とする従来の取引(オンバランス取引)と比較して大幅に向上することになる。
 更に自己資本比率規制の観点からみると、自己資本比率を計算するベースとなる資産のリスク率は、オフバランス取引については従来のオンバランス取引と比較すると低くみなされている。具体的には、すべてのオフバランス取引に対して、その想定元本に掛目を乗じて信用リスク相当額に転換した後、この信用リスク相当額に取引相手方当事者の信用力に応じてウェイト付けすることになっている。
 以上から、デリバティブ取引は従来の取引と比べて、自己資本比率規制の影響が限定的であり、限られた資本を効率的に利用する上で重要である。
Cレバレッジ効果
 オフバランス取引で言及したように、デリバティブ取引では元本に相当する資金が不要なため、投下資本に対する損益の比率が従来のオンバランス取引と比較して拡大することになる。デリバティブ取引で必要とされる金額は、オプションであればオプション料、スワップであれば金利、先物であれば証拠金のみで、これらは元本と比較すればごく僅かである。この結果、デリバティブ取引で得られる損益は、必要な元手と比較して大きなものとなる。これをテコの原理になぞらえてレバレッジ効果と呼ぶ。
D流動性の向上
 従来の現物取引にデリバティブ取引が加わることによって、市場間相互に裁定が働くようになる。裁定とは、異なる市場が相互に影響しあって、相場や価格がほぼ同じレベルに均衡することを意味する。従って、現物市場に流動性不足などの問題が生じたときにも、デリバティブ市場が現物市場の代替市場として働くことにより、両市場間において相互補完作用が生じることになる。このようにデリバティブ取引の発展は、現物取引を含めた金融市場全体の規模の拡大や流動性の増加に貢献するものである。


(3)デリバティブ利用上のデメリット

 デリバティブ取引は上記のようなメリットがある反面、必ずしも利益が得られないというデメリットも存在する。オフバランス性やレバレッジ効果はプラスに働けば有益であるが、これらの効果は損失発生時にも働くため、デリバティブはリスク率の高い投機性の取引にもなりうるのである。更に5章でみるように、リスク管理が複雑になることにも注意する必要がある。

(4)デリバティブ取引の成長要因

 デリバティブ取引の急速な拡大をもたらした背景として需給要因や規制要因などが考えられる。
@需要要因
 世界的な金融の自由化、国際化の進展に伴い、金利、為替、株価のボラティリティが高まり、その結果、それに対するヘッジニーズが高まった。
A供給要因
 通信技術やコンピューターによる数理処理の発達が考えられる。こうした技術進歩を背景として金融テクノロジーが急速に進歩し、様々な需要にマッチするデリバティブの供給が可能となった。
B規制要因
 金融機関は国際決済銀行(BIS)の自己資本比率規制導入により、限られた資本をいかに効率的に利用するかが重要になっているが、デリバティブ取引はオフバランス取引であり、資本の効率的活用といった面で注目されている。
 上記の要因を踏まえ金融機関は、デリバティブ取引に力を注ぎ残高を拡大している。実際、金融機関は、従来の金融業務にデリバティブを組み込むことにより付加価値を付けて顧客のニーズにあった商品を提供したり、また、資金の運用や調達の手段として利用している。

図表2 デリバティブ取引の成長要因
要因 内容
需要要因 金融の自由化・国際化 ボラティリティの上昇による
ヘッジニーズの増加
供給要因 コンピュータ−・通信技術
の発達
顧客ニーズに対する商品
提供力の向上、リスク管理
能力の向上
規制要因 BIS規制 オフバランス取引による資
本効率上のメリット


(5)デリバティブ取引の機能

 デリバティブ取引は、金融の自由化、国際化の進展を背景として飛躍的に発達してきた。現在デリバティブ取引は金融ビジネスの中で重要な位置を占めており、デリバティブ取引の機能を正確に把握し、積極的に取り組み活用していくことはデリバティブ自体の健全な発展ばかりでなく、我が国の金融市場が国際金融センターとしての役割を果たしていくためにも必要である。
 金融の自由化、国際化の進展の中で、顧客が金融機関に求めるニーズは年々高まり、金融機関では伝統的な経営スタンスを変革し、新しい情勢にあった経営展開が必要となってきている。実際、金融機関は伝統的な金融機能に加え、デリバティブを活用することによって付加価値を付けて顧客に新しいサービスを提供することが可能になる。金融機関が持つコンピューター等のシステムやマンパワーを有効に使い、デリバティブを金融機関のビジネスの根幹とする戦略が重要となっている。
 デリバティブは上記の通りオフバランス取引であるため、金融機関の顧客である企業等は、融資シェア等既存の取引関係を意識することなく、各金融機関が提供する商品特性や価格を比較して、どの金融機関と取引をするとメリットがあるかをふまえて選別することができる。つまり、金融機関サイドからみると、これまでの融資関係におけるメインバンク制のもとでは、デリバティブ取引を優先的に行うことが難しくなっており、企業ニーズにあった商品をいかに迅速に提供できるかどうかが勝負の分かれめとなっている。
 デリバティブ取引が持つ重要な機能としてリスク配分機能や公正な価格の発見・形成といった2つの機能が上げられる。
@ヘッジ機能
 ヘッジ取引とは、現在、または将来的に予定されているポジションが、金利や為替など相場変動によって被る損失を防ぐため、先物で反対ポジションを作ることにより対応する取引である。ヘッジ対象の価格がどちらの方向に変動しても、一方のポジションの損失が他方のポジションの利益で相殺されるのがヘッジ取引の基本である。このように、デリバティブは、ヘッジ取引により、リスク選好の異なる経済主体にリスクを再配分する機能を有している。つまり、デリバティブ取引は原資産が持つ金利や為替などのリスクを分解して、価格を付け、リスクを引き受ける意志と能力のある経済主体に移転する機能を持つのである。その結果、リスクから開放された経済主体は、本来の業務に専念できるといった経済的効果が生じることになる。
 例えば、製造業はデリバティブを使ったヘッジにより、金融に絡む諸々のリスクを他業態に移転し、物を作るといった本来の仕事に専念できることになる。一方、リスクを選好して取る投機筋は、自己の資本を背景に、リスクを積極的に引き受けることにより一層大きいリターンを期待することが可能となる。
 ところで、ヘッジが期待された機能を十分に発揮するためには、ヘッジ対象の現物と、ヘッジに利用された先物の価格が同じ方向に動くことが必要となる。現物市場も先物市場も市場に対して与えられる情報は基本的には同じであり、両市場とも同じように動くのが原則であるが、実際は、現物と先物の各市場の参加者の構成比が違うことや、両市場が持つ流動性の違い等により、現物価格や先物価格が必ずしも同じタイミング、同じ方向、同じ幅で動くとは限らない。現物価格から先物価格を差し引いた値をベーシスというが、こうしたことからヘッジ取引はベーシスリスクを負うものである。
A価格形成機能
 市場は、様々な情報を吸収して価格形成を行っている。経済活動の各主体は、こうした価格情報を利用して各々が最も合理的と考える経済活動を行い、これが効率的な生産や販売や消費行動を促し、結果として適正な資源配分をもたらす。
 先物市場では、低コストで潤沢な流動性を使って取引することが可能なため、多数の市場参加者を集めることが可能となる。参加者各自が、それぞれの持つ情報をもとに、将来の価格を予想しながら取引をする過程で市場が形成される。このように先物市場は、各種情報を用いながら現物価格の変動を予想して将来価格を形成するという面で効率的な市場といえる。
 一方、市場参加者は、現物市場では現物価格に影響を与える需給要因の情報収集や分析を実施する必要があるが、上記の先物価格の価格形成機能により、こうした情報の入手・分析等に必要なコストを節約することが可能となる。
 もちろん、現物市場においても、将来の価格を予測する際に必要な各種情報が利用されることによって現物価格が形成されている。但し、デリバティブ取引は、取引コストが低いことに加え、先物市場では商品が標準化された規格商品のため需給が合致しやすいなどのメリットを有している。このため、様々の情報を持った多くの投資家を先物市場に集めることが可能となり、取引量を増加させることができる。その結果、先物市場では流動性が潤沢となり公正な価格形成という取引所の機能が発揮されることになる。このように、先物市場に対して何らかの情報が与えられた場合、先物価格は、市場参加者の価格予測値を集約することになり、商品の将来価格情報を迅速かつ正確に提供することが可能となる。
 こうした価格形成機能の根拠として効率的市場仮説がある。効率的市場では、価格が全ての利用可能な情報を取り込んで形成される結果、だれでも継続して他より優れた投資成果を挙げることが不可能となる。効率的市場仮説の検証方法は以下の点を踏まえて行われる。
@市場が効率的であるとすると、過去及び現在の全ての情報が価格に正確に反映される。
A将来の価格変化は、現在入手不可能な新しい情報によってもたらされる。
B新しい情報は、アトランダムに発生すると予想されるので、価格変化もアトランダムになる。
C市場平均を上回る収益を継続的に獲得することは不可能となる。
Dこのため、仮説の検証には価格変化がアトランダムか、または市場平均を上回る収益を得ることが不可能かという観点から行われる。要約すると、「価格変化がアトランダムに変動する」、「市場平均以上の収益を得ることは不可能」な場合は市場は効率的であるとされる。現実的には、全ての情報が完全に把握され価格に反映されているとは考えられないが、逆に現在の情報化社会において一個人が情報を独占することも難しいと考えられる。


2.金融先物取引

(1)金融先物取引とは

 金融先物取引とは預金や債券に加え、通貨や株価指数などを対象として、ある商品をある期日に売買する契約を、現時点で実施するもので、契約時点で売買する価格と量の決定を行う。つまり、預金や債券の将来の価格や金利を事前に確定する取引である。但し、実際には決済の期日までに売買の反対取引を行い、売買価格の差額のみの決済を行うのが一般的である。
 金融先物取引の対象となる金融商品は多種多様に存在するが、主として次の3つに分類することができる。一つは、金利先物で、対象となる現物取引がユーロ・ダラー預金やポンド預金などの金利そのものである金利先物と、日本国債や米国国債など債券取引を対象とする債券先物に分けることができる。更に日本円やドイツ・マルクやスイスフランなどの通貨を対象とした通貨先物や、日経先物、米国S&P500などを対象とした株価指数先物に分類できる。

(2)金融先物取引の特徴

 金融先物取引は、必ず取引所を通して取引が行われるため、取引所が定めた下記のようないくつかの取引ルールが定められている。
@取引を円滑に進めるため、様々な取引条件の中から代表的な条件を選んで取引商品を定型化、標準化する。例えば、預金を対象とする取引を実施する場合には、預金の期間や1件の取引金額に加え決済期日等を決める必要がある。
A将来の一時点に売買を約束する取引であるが、実際の取引では期日を待たずに反対取引を行って決済する場合が多い。このときの決済では、価格変動分の差額のみを受け渡しする差金決済で行う。
B将来の決済を保証するために、信用証拠金として当初証拠金の積立が義務づけられている。また、市場価格が予想に反して動いて証拠金が目減りした場合には、価格変動に見合った変動証拠金の追加積み立てが必要になる。証拠金には、顧客が会員に差し入れる委託証拠金と会員が取引所に差し入れる売買証拠金の2種類がある。
C取引の履行、決済を確実かつ円滑にするため清算機関が設けられている。清算機関は、毎日、各会員の建玉(まだ決済していない取引)の値洗い(それぞれの建玉の変動証拠金を計算するための時価評価)を実施して、会員間の値洗い差金の授受を実施する。
D取引所を経由して取引が一旦成立すれば、取引相手は常に取引所として処理される。

(3)金融先物取引の利用法

@ ヘッジ取引
 ヘッジ取引とは、現在、または将来に発生が予定されているポジションが、金利や為替などの相場の変動によって被る損失を防ぐために、先物で反対ポジションを作ることにより対応する取引をいう。先物取引は定型商品の取引のため、現物取引とのヘッジの度合に限界があるが、活用方法を工夫することにより、かなりのヘッジ効果が期待できる。
 ヘッジ取引にはショートヘッジとロングヘッジがある。ショートヘッジは、原資産を保有する者が、先行きの原資産価格の下落を予想した時に先物を売り建て、現実に価格が下落した場合に原資産の損失を先物の利益で相殺する取引である。一方、ロングヘッジは、先行き原資産を保有する予定のある者が、先行きの原資産価格の上昇を予想した時に先物を買い建て、現実に価格が上昇した場合に、原資産購入のコスト高を先物の利益で相殺することができる。
A アウトライト取引
 アウトライト取引とは、利鞘を目的として先物市場で売買を行い、価格の上昇または下落により利益を追求する取引をいう。先物商品の先行きの価格変動について予測を行い、それに基づいて買いまたは売りの一方だけの取引を行うことによって、利益を獲得しようとする取引である。
 例えば、先行きの相場の上昇(下落)を予想した当事者が、先物を買い建て(売り建て)、現実に相場が上昇(下落)した時に反対売買を行うことにより、利益を得ることができる。しかしこのような投機取引(スペキュレーション)では、予想に反して逆の方向に相場が動いた時には無限大の損失が発生することになる。このようにアウトライト取引は、約定時の保証金のみで大きな額の取引が行われるという、いわゆるデリバティブの持つレバレッジ効果を利用したものであるため、投資効果が大きい半面、リスクも大きい。
B 裁定取引(アービトラージ取引)
 現物取引と先物取引間、または異なる先物取引間には、市場間や時間差で相場の乖離が生じることがある。裁定取引とは、この僅かな相場のずれを利用して鞘を抜く取引である。この取引の代表的なものには、ベーシス取引やスプレッド取引がある。
 ベーシス取引は、先物価格が理論値より安い場合に、現物を売って、先物を買うことによって資金調達を行うなどの形で利用されている。一方、スプレッド取引は、異なる決済月間の価格差を利用して行われている。


(4)主な金融先物取引

@ 金利先物取引
 金利先物取引は、将来の一定期日に標準化された金融商品を取引所を通じて、一定の価格で現時点で購入あるいは売却する取引である。金利先物取引には、ユーロドル預金等があり、先物価格は、現物市場の金利水準から得られる金利水準をベースに、市場参加者の金利予想が反映されて決まる。
A 通貨先物取引
 通貨先物取引は、特定の通貨を将来の一時点に一定の価格で売買を約束する取引である。
B 債券先物取引
 債券先物取引は、将来の特定の日に特定の債券を予め決めた価格で取引する契約である。この取引は不特定多数の参加者を対象にし、取引所で定型化された取引条件のもとで行われる。
C 株価指数先物
 株価指数先物取引は、売買の対象商品を株価指数とする金融先物取引である。株価指数は多数の株価を集計したポートフォリオの指数で、具体的な対象物は存在しない。我が国で取引されている株価指数先物取引の対象は、東京証券取引所のTOPIX(東証株価指数)のほか、大阪証券取引所の日経平均株価指数(日経225)や日経株価指数300(日経300)がある。

(5)先渡し取引との相違点

 先物取引について簡単に概略をみてきたが、同じような機能を持った取引に先渡し取引がある。
 英語では、先物取引をFutures、先渡し取引をForwardと呼んでいる。先渡し取引には、金利を取引するFRA、為替を取引するFXAなどがある。先物取引と先渡し取引の相違点は以下の通りである。


図表3 先物取引と先渡し取引の相違点
先物取引 先渡し取引
取引方法 取引所取引 店頭取引
取引単位 標準化 自由
反対売買 期日前に反対売買をして取
引を解消する場合が多い
期日に契約の決済
信用リスク 基本的にはない ある
証拠金 必要 不要



3.スワップ取引

(1)スワップの歴史

 我が国では、80年の外為改正後の82年にユーロドル債の発行に合せて初めて通貨スワップが組成されたが、その後、90年代初頭から円の固定金利と変動金利を交換する、円−円スワップ市場が急速な発展をみて今日に至っている。

(2)スワップの種類と仕組み

 スワップは資金の受取りや支払いを交換する取引で、将来の複数の日に資産を交換する先渡し契約である。スワップは対象になる通貨が同じか、そうでないかによって大きく2つに分けることができる。円と円、ドルとドルといった同じ通貨同士でスワップする場合は金利スワップ、円とドル、円とドイツマルクなどのように異なる通貨の間で行う場合は通貨スワップという。

(3)金利スワップ

 金利スワップは、同一通貨間で異なる金利同士の交換である。スワップ取引を利用する当事者のメリット、デメリットは以下の通りである。これらのメリット、デメリットについては、通貨スワップについても概ね同一である。
@ メリット
A.資金調達コストの削減及び運用利益の増大。
B.オフバランス取引のため資本収益率の悪化がない。
C.資金調達時における選択肢の拡大。
 例えば、変動利付債市場で起債できない企業が固定利付債市場で起債し、金利スワップによってその目的を達成できる。
D.事務手続が通常の債券発行や銀行借入れと比較して容易である。
E.キャッシュフローに柔軟性があり、組み合わせで多くの顧客を満足させることが可能。
F.為替や金利動向に対応し、企業はその時々の最適なスワップを繰り返すことにより収益を上げることが可能となる。
A デメリット
A.スワップ取引の相手方の債務不履行により、予定されていた金利が保証されなくなる。損害額については、スワップの残存期間、契約時と途中解約時の金利の変化の関係で決まる。
B.スワップ取引を行う際に、契約期間中、資金の受け渡しが必要となる。スワップの相手方の存在する国がクーデター等により資金決済に支障がきたすことも考えられることから、相手方がどこの国の企業であるかが重要となる。
C.相手方の倒産によりスワップ契約の継続が不可能となれば、当方は当初の支払いをする必要がないが、入金もなくなる。スワップ当時者が、この時点で為替・金利リスクを回避するためには、解約されたスワップと同じ内容のスワップを取り組む必要があるが、時間の経過とともに為替・金利の水準が変化しているため、新たなスワップを締結するために相当のコストが必要となる。

(4)通貨スワップ

 通貨スワップは、金利スワップと異なり金利部分のみの交換ではなく、元本も交換する取引である。ドルと円など異なる通貨の元本や利息の、受取りと支払いを交換する取引である。
 通貨スワップは、通貨の種類によって借り入れ人の調達能力の格差が発生する場合に利用される。つまり、より安い金利で調達できる債務者が、それぞれの有利な通貨での調達を行い相互に交換することによって活用される。通貨スワップのメリットやデメリットについては金利スワップの項を参照。
 通貨スワップの活用のポイントとして以下の点が挙げられる。第1に通貨スワップは、外国為替取引に類似しているが、キャシュフローが債務の特性を持つ点で異なっている。第2に通貨スワップのプライシングは、金利差を反映するほか、流動性、需給関係、当事者の信用力等により異なる。第3に通貨スワップは金利スワップと比較すると、リスクアセットが大きいことから、流動性に欠けるため、取組み時期の見極めが大切となる。
 通貨スワップの手順は以下の通り行う。
@ スワップのスタート時点で元本の交換を行い、A 期中は、金利の交換を行い、Bスワップ終了時点に元本、利子の交換を行う。その場合の元本はスワップ契約時と同一の為替レートで交換する、といった手順となる。
 例えば、発行条件として発行額を100万ドル、債券発行時の為替相場を1ドル=100円、ドルの金利を4%、円の金利を2%とする場合、A社がドル建ての債券を発行し、そのドルを円に交換する仕組みをみると以下のようになる。
 債券を発行した時の取引が@ で、A社は100万ドルを円にして使用するため、通貨スワップを使って100万ドルの支払いと代わりの円の受取りといった取引を行う。受け取る円は1ドル=100円で換算すると1億円となる。
 また、債券の償還期日には100万ドルの債券償還資金が必要となるが、この通貨スワップの期日を債券の償還時と同じにしておけば、@と逆の取引を行えばよい。つまり、Bでは、1億円を支払う代わりに、債券償還に必要な100万ドルを受け取ることになる。
 次に、A は債券の利息支払いのための取引である。発行した債券に対してA社は年に1回ないし2回の利息の支払いをドルで行う必要がある。このため、この通貨スワップではドル金利4%を受け取り、代わりに円金利2%を支払う取引を行う。
 このようにA社は通貨スワップを使うことによって、ドルの資金の流れ(キャッシュ・フロー)を全て円のキャッシュ・フローに変更することができた。つまり、通貨スワップの円のキャッシュフローをみると、@円の受取り1億円、A利息の支払2%、B円の返済1億円ということになる。これは、A社が元本1億円、金利2%の円の債券を発行したのと同じ効果となる。このように、通貨スワップはドルなどの通貨取引を円などの異なる通貨に変換し、為替リスクを回避するのに有効な手段といえる。


図表4 通貨スワップの取引例

@ 債券発行時(元本の動き)
ドル100万ドル
債券発行 発行代り金
--------→
100万ドル
A社 -----------→

←−−−−−−
銀行
円1億円
(1ドル=100円)


A 金利支払い時(利息の動き)
ドル金利4%
債券発行 債券利払
←--------
ドル4%
A社 ←-----------

−−−−−−→
銀行
円金利2%


B 債券償還時(元本の動き)
ドル100万ドル
債券発行 償還金
←--------
100万ドル
A社 ←-----------

−−−−−−→
銀行
円1億円
(1ドル=100円)


4.オプション取引

(1)オプションの歴史

 オプションは、満期日あるいは決められた期間内に商品を当初に取り決めた価格で購入または売却する権利である。
 オプションは、先物やスワップなどと同じように、金融取引が自由化され、高度化、複雑化する中で、リスクを回避するための手法として発達してきた。現在のように整備された形になったのは、73年に始まった米国のシカゴ・オプション取引所での個別株式のオプション取引が最初である。その後、米国や欧州で金利、通貨、株式の各分野で様々な商品が誕生している。また、先物やスワップと組み合わせた複合商品も数多く登場している。我が国においては、外為の実需原則撤廃を受けて、84年に通貨オプション取引が開始されたのが最初である。その後、89年には、債券店頭オプション、株価指数オプション(日経平均株価オプション、TOPIXオプション、オプション25)が上場され、90年に国債先物オプションが続いた。91年には、東京金融先物取引所で日本円短期金利先物オプションが上場されている。また、97年には、個別株を対象とした株券オプションが上場された。

(2)オプションの種類

 オプションは、原資産を現物か先物かにより、現物オプションと先物オプションに、また、取引所に上場されているか店頭取引かなどにより細分化されている。我が国の場合についてみると、現物オプションに該当するものが債券店頭オプション、通貨オプション、株価指数オプションであり、先物オプションには日本円短期金利先物オプション、国債先物オプションがある。
 また、取引所に上場されているオプションと店頭取引とに分類すると、取引所取引オプションは、株価指数オプション、日本円短期金利先物オプション、国債先物オプションがあり、店頭取引オプションには、債券店頭オプション、通貨オプションがある。

(3)オプションの仕組み

 オプション取引は、ある対象物(これを原資産という)を一定期間内に、または将来の一定期日に、最初に決められた価格(権利行使価格)で買う権利(コールオプション)、や売る権利(プットオプション)を売買する取引である。オプションには、コール(買う権利)とプット(売る権利)が存在し、各々が売り買いされる。買う権利、売る権利として最初に設定した価格を権利行使価格という。
 オプション期間中であればいつでも権利行使できるタイプをアメリカンタイプオプション、期の途中では権利行使が不可能で満期日だけ権利行使できるタイプをヨーロピアンタイプオプションという。
 先物取引は、売買双方とも契約履行義務を有するが、オプション取引では売却者だけが履行義務を負う。オプション取引では、購入者は、売却者にオプションプレミアムと呼ばれるオプション料を支払う必要がある。その結果、購入者は原資産の購入(コールオプションの購入者)または売却(プットオプションの購入者)の権利を有することになる。売却者は、オプションプレミアムを得ることによって、購入者に対して原資産の売却(コールオプションの売却者)または購入(プットオプションの売却者)の義務を有する。オプションの購入者は、市場価格の動向次第で権利を行使するかしないかの選択権(オプション)を持つ。従って仮に損失を被ったとしても、損失は支払ったオプションプレミアムに限定される。一方、オプションの売却者はプレミアム収入を得る反面、市場価格の動向次第で無限の損失を被るリスクを持つことになる。
 オプションは、このように将来の変動によってもたらされる利益の機会と、一定金額であるオプションプレミアムの収入のいずれかを選ぶ売買取引となる。オプションの購入者は、オプションプレミアムを支払うことで、無限の利益を得たいと考え、逆にオプションの売却者は、オプションプレミアムという一定の金額を受け取ることで無限のリスクを受ける用意があることを表明することになる。
 我が国の取引所で取引される金融オプションは、TOPIXオプション、国債先物オプション、日本円短期金利先物オプション、株券オプションの4種類がある。これらのオプションのうち東京証券取引所に上場されている主なものの概要は以下の通りである

図表5 オプションプレミアムの仕組み
オプションの売却者 オプションの購入者
プレミアム 受取り 支払い
権利行使 義務 権利
収益 プレミアム 無限
損失 無限 プレミアム


図表6 東京証券取引所における各種オプションの概要
取引開始 原資産 取引単位 権利行使価格
の設定
限月 権利行使期間
TOPIX
オプション
1989年10月 TOPIX TOPIX×
10,000円
25ポイント刻み 直近4か月 ヨーロピアンタイプ
国債先物
オプション
1990年5月 10年国債先物 1億円 1円刻み 2限月 アメリカンタイプ
日本円短期金利先物
オプション
1991年7月 日本円短期
金利先物
1億円 0.25刻み 5限月 アメリカンタイプ
株券オプション 1997年7月 個別株30種 対象株券の売買
単位に係る数量
権利行使価格
水準により25
円〜1百万円
直近2か月
とそれ以外
の3、6、9、
12月のうち
直近2か月
の4限月
ヨーロピアンタイプ
(出所)デリバティブ取引の基礎、日経新聞他


5.デリバティブとリスク管理

(1)デリバティブ取引に伴うリスク

 デリバティブはリスク対策として有効な手段であるが、レバレッジ効果の利用や複雑なキャッシュフローの創出が可能なことに加え、オフバランス取引であること等からデリバティブ自体にも利用の仕方によってリスクが生じることになる。但し、このデリバティブが持つリスクは、デリバティブが原資産から派生したものであるため、原資産が持つリスクとほとんど違いはなく、伝統的な金融ビジネスにおけるリスクと同種のものである。デリバティブのリスクは以下の6種類に分類することができる。これらのうち@からBが定量的リスク、C〜Eが定性的リスクである。

<定量的リスク>
@ 信用リスク、A 市場リスク、B 流動性リスク
<定性的リスク>
C システムリスク、D システミックリスク、E リーガルリスク
 上記のようにデリバティブも原資産と共通のリスクを持っているが、デリバティブはコンピューターによる情報処理技術を用いて商品設計が行われることが多いため、デリバティブ商品が持つリスクは複雑かつ多様である。従って、リスクの正確な把握については注意して取り組む必要があり、自己責任原則のもとで常にリスク管理に相当な注意を払っていくことが要求される。
 さて、上記で取り上げた6つのリスクについて特徴点を上げると以下の通りとなる。
@ 信用リスク
 信用リスクは、貸出先企業が倒産などによって契約が履行出来なくなるリスクである。但し、デリバティブ取引では、通常、元本に相当する金額の受け渡しが行われない為、取引相手が契約を履行出来なくても元本相当額が全額損失になるわけではない。
 信用リスクは金融先物取引、スワップ取引、オプション取引ではそれぞれ効果が違うため順に特徴をみていくと下記の通りとなる。

A.金融先物取引
 金融先物取引は、必ず先物取引所などの取引所を経由して取引される。取引が成立した後は、取引の相手方は取引所となる。取引所は厳格な審査をクリアした会員で構成されているため、万一一部の会員が倒産などによって契約が履行できなくなっても、取引所自体が与信上問題が起る可能性は低いと考えられる。こうしたことから金融先物取引には信用リスクはないとするのが一般的な見方である。

B.スワップ取引
 スワップ取引の特徴は、元本や利息を当事者が相互に交換する双務契約である。したがって、スワップ取引においては、契約の相手方が契約不履行に陥った場合、契約は無効となり、以後の支払いの交換は行われないことになる。つまり、将来受け取る予定の元本や利息が、一方的に全額損失になることはない。
 但し、契約が無効になれば、以後予定していた取引が不可能となるため期待していた収益を確保できなくなる。従って、期待していた収益を確保するためには残りの期間について新たにスワップを取り組む必要が生じる。しかしながら、市場の状況によっては、前回のスワップと同じ条件で新しいスワップを締結することができないため、新しいスワップを取り組むことによって、むしろ従来のスワップより余分なコストが発生する可能性が生じる。
 このように、解約になったスワップを市場で改めて組み直すためのコストを再構築コストという。再構築コストは解約になった場合発生するものであり、これがスワップ取引の信用リスクといえる。このため、あるスワップに信用リスクがどれだけ存在するかは、そのスワップをその時の市場価格で時価評価を行えば分かることになる。時価評価の結果、利益の出ているスワップはその分信用リスクがあり、逆に、損失が出ているスワップには信用リスクは存在しない。このように、スワップによる信用リスクは市場相場次第といえよう。


図表7 再構築コスト
再構築コスト 対象取引の時価 信用リスク
再構築に費用
を要する
プラス(取引で利益を
上げている)
時価のプラス分の信用
リスクあり
再構築に費用
を要しない
マイナス(取引で損失
を出している)
信用リスク無し


C.オプション取引
 オプション取引は、オプションの購入者になる場合と売却者になる場合とでは立場が異なる。オプションを購入した者は権利を保有し、オプションを売却した者は義務を負うことになる。オプション取引から生じる信用リスクもオプションを購入した場合と売却した場合とで分けてみる必要がある。

a.オプションの買い
 オプションを購入した者は行使する権利を持つ。したがって、取引相手が倒産すれば権利行使が不可能となるため、権利行使をすれば得られたはずの利益を失うことになる。この得られるはずの利益の損失分が信用リスクである。但し、購入したオプションが常に利益を生むわけではなく、市場の動向によっては利益が生じないオプションも存在する。この場合は権利行使をすることなくオプションを放棄することになる。すなわち、相手が倒産しても信用リスクは生じないことになる。
b.オプションの売り
 逆にオプションを売却した場合は、相手に権利行使の権利があるため、売却者は義務を負うことになる。このような場合は取引相手であるオプションの購入者が倒産すれば、そのオプションがいくら利益を生む状態であっても、権利が行使されなくなり、売り手の義務は消滅する。このようにオプションを売った場合は信用リスクは存在しなくなる。
A 市場リスク
 市場リスクは、市場の変動によって影響を受けて被るリスクで、価格や金利や為替などの変動リスクを指す。従来の金融商品は、元本の受け渡しを行うため、市場価格の変化と金融商品の損益変化とはかなり連動性が高いと考えられる。
 これに対して、デリバティブでは、元本は単なる計算のための基準であって受け渡しは行われない。現金が必要とされるのは、金融先物であれば証拠金、スワップであれば金利、オプションであればオプション料のみである。これらは、全て元本に対して数パーセントでしかないため、この投資資金に対する損益の比率は、対象商品の価格変動とは一致することはなく、従来の金融商品と比較すると相当変動の激しいものとなる。
 このようにデリバティブ取引は、元本に相当する現金を用意することなく、取引を容易に始めことができるため、市場リスクについては特に注視していく必要がある。取引に当っては、市場の変化に迅速に対応し、常時損益が把握出来る体制が要求されよう。
B 流動性リスク
 流動性リスクには次の2種類がある。一つは、自己が希望する取引量をどれだけ迅速かつ容易に、相場に大きな影響を与えることなく取引することが可能か、あるいはすでに保有しているポジションをいかに容易に手仕舞う(建玉を期の途中で決済すること)ことができるかという市場の厚みに関する狭義の流動性リスクである。
 もう一つは、デリバティブの値洗い差金や証拠金の支払いなどの資金が調達出来ないため、資金繰りに支障をきたすことからくるファンディングリスクである。

A.狭義の流動性リスク
 狭義の流動性リスクは、もともと対象商品の市場における流動性が薄いため、あるいは市場が混乱して流動性が不十分になったため、自己のポートフォリオのポジションを妥当な価格で取引もしくは手仕舞いできないリスクをいう。
 特にデリバティブ取引によって建玉(反対売買により手仕舞いされずに残っている未決済契約)を保有する市場参加者が損益を確定・実現させるためには、反対取引を行って建玉を手仕舞うことが多いが、実際に手仕舞いのための注文を市場に出しても流動性が薄いため出会いがつかない、あるいは非常に不利な価格でしか取引ができない場合がある。

B.ファンディングリスク
 ファンディングリスクとは、デリバティブ取引に係る値洗い差金の支払いや証拠金の差し入れ等の資金調達ができないため、自己の本意でないタイミングで建玉を手仕舞いせざるを得ない事態に陥り、損失を被るリスクである。なお、東京金融先物取引所のルールでは、金融先物業者の会員は、顧客から委託証拠金を所定の時刻までに預託を受けない場合には、その顧客の建玉を任意に手仕舞いする権利を有している。


図表8 デリバティブリスク一覧
リスクの種類 リスクの内容
信用リスク @ 取引相手の倒産に伴うリスク
A 契約日から受渡し日までの時間経過に伴うリスク
市場リスク @価格や金利の変動リスク
Aボラティリティー(変動率)の拡大・縮小リスク
B 時間価値が減少するリスク
C ヘッジ効率が低下するリスク
D 金利など持ち越しコストが変わるリスク
流動性リスク @調達リスク
Aファンディングリスク
システムリスク @人為的リスク
A内部管理システムが不適切なことに伴うリスク
システミック・リスク @相場の変動が金融システムを不安定にするリスク
A有力金融機関の倒産が金融システムを不安定にするリスク
リーガル・リスク @契約書類の不備に伴うリスク
A商品等の説明不足のため取引相手に提訴されるリスク
B商品の法的位置づけが不明確なため発生するリスク
C取引相手の倒産時などに整然と債権回収ができないリスク


C システム・リスク
 システム・リスクは、コンピューターのプログラム上の問題でデータが欠落したり、変化してしまうなどソフトの事故、あるいはコンピューターそのものの故障により業務管理が出来なくなるリスクなど、事務システムに伴って発生するリスクである。また、デリバティブ取引の係る事務処理が、故意または過失により不当に実施されることにより生じる損失もシステムリスクである。
 こうしたシステムリスクを未然に回避するためには、取引に係る基本動作の確実な遵守、つまり、事務フローの明確な区分や責任体制の確立等を常にチェックして取引量や取引内容に適合した事務処理を行っていくことが必要となる。
D システミック・リスク
 システミック・リスクは、ある1つの問題が連鎖して金融システム全体に波及し、問題が生じるリスクである。デリバティブ取引は、貸借対照表にのらないオフバランス取引であるため、取引残高などの取引実態を把握することが困難な点がある。最近は、デリバティブ取引の規模が急拡大していることから、一旦市場に債務不履行や未決済などの問題が生じると、システミック・リスクにつながる可能性がある。
E リーガル・リスク
 リーガル・リスクは、法律上の問題が生じるリスクで2種類ある。一つは、デリバティブ商品そのものの適法性が不透明であり、違法、無効であると認定される恐れのあるリスクである。もう一つは、取引の相手がデリバティブ取引を行う資格、権利がないと認定される恐れのあるリスクである。
 デリバティブ取引は複雑なため、法律的な問題が生じる可能性が高いと考えられる。デリバティブの契約書は整備されつつあるが、内容が複雑であり、間違いや誤解も生じやすい。

(2)デリバティブ取引による損失事例

 デリバティブ取引には上記のようなリスクが内在するため、デリバティブ取引の拡大に伴いデリバティブ取引に関する損失事例が多発している。そのような損失事例は、一般企業や金融機関のほか、地方自治体など多岐に亘っている。これらの損失事例は必ずしも投機を目的とした取引ばかりではなく、リスクヘッジを目的とした取引からも発生している。デリバティブ取引に関する損失事例は多岐に亘るが、主なものは以下の表の通りである。


図表9 デリバティブ取引による主な損失事例

会社名 発覚時期 取引の種類 損失額(概算) その他
昭和シェル 93/2 為替先物予約 1653億円 投機的なドル買い・円売り
鹿島石油 94/4 為替先物予約 1525億円 同上
プロクター・アンド・ギャンブル
(P&G)
94/4 金利スワップ 1億5700万ドル レバレッジの効いたスワップ取引
相手のバンカース・トラストに対し
て、リスクの説明が不十分だった
として損害倍賞を求める訴訟を提
ギブソン・グリーティングス 94/4 金利スワップ 約2300万ドル 取引相手のバンカース・トラストに
対して、リスクの説明が不十分だ
ったとして損害倍賞を求める訴訟
を提起
東京証券 94/11 米国債オプション取引 320億円 債券部長が権限を逸脱した取引
カリフォルニア州
オレンジ郡
94/12 仕組み債 15億ドル 市場金利が上昇するとクーポンが
低下する仕組み債(インバース・
フローター債)の投資
英ベアリングス 95/2 日経平均先物等 約8.6億ポンド この結果、ベアリングスしゃはING
グループに買収された
日本酵素 95/3 金利・通貨スワップ 119億円 レバレッジの効いたスワップ
大和銀行
ニューヨーク支店
95/9 米国債取引 約1100億円
債券の無断売買
(出所)デリバティブ取引の基礎、日経新聞他


 先物やスワップやオプションなどのデリバティブは、債券、通貨、株式といった現物取引と比較して、少ない元手で大口の取引が可能となる(レバレッジ効果)。当初の予想通りになれば大きな利益を獲得することが可能となるが、逆に予想が外れ取引が失敗すれば、損失が雪だるま式に膨れ上がり自己資本が少ない取引機関は簡単に倒産する事態に陥ることになる。このようにデリバティブ取引は両刃の剣であり、利用の仕方には注意が必要である。
 デリバティブの成功はある意味で過大なレバレッジの産物である。損失を回避するためには、自己資本など経営体力以上の投資や金融取引をしていないか、内部の管理システムは正常に機能しているか、これらを常に判断する機能を持つ必要がある。
 上記のようにいくつかの具体例をみてみたが、各事例の損失の要因は共通する事項が多い。そうした要因をまとめると以下のようになる。@取引が、当初はヘッジを目的としたものであったが、投機を目的とした取引へ変更された、Aオフ・バランス取引のために取引内容の把握が困難であった、取引が実質的に担当者単独で行われており、上司への報告が不十分であった、C顧客に対する説明が不十分であった。
 こうした失敗事例を糧に、今後損失防止の対策として下記のような項目が考えられる。
@ 経営幹部によるリスクの認識・把握
 経営幹部自らがリスクの所在を常に認識し、リスク管理の基本方針を作成する。同時に、日々のリスク量の変化や損益動向について、適宜把握することが必要となる。
A 時価ベースでのリスク管理
 信用リスクや市場リスクなどの基本的なリスクの計測の前提として、時価ベースによるリスクの管理が必要となる。
B リスクの総合的・統一的な計測・管理
 デリバティブにより発生するリスクを特別なものと捉えるのではなく、他の取引が有するリスクと併せて総合的かつ、統一的な尺度により計測・管理することが必要となる。
C リスク許容力に見合った適切なリスク負担
 金融機関が取引に際し、あらかじめ許容できるリスク量を決定し、許容範囲内で部門やディーラーごとの持ち高や損きりルールなどを適切に設定・管理していく必要がある。
D 顧客への適切な説明
 顧客への個別商品のプレゼンテーション資料や解説書の工夫が必要となる。顧客毎にデリバティブ取引とはどういうものか、リスクの主体的判断がいかに大切かを理解してもらえるよう資料を作成し、注意喚起を図る必要がある。


6.銀行に与える影響

(1)デリバティブ取引を取り巻く環境

 金融の自由化・国際化の進展により、金利や為替相場が大きく変動するようになった。資金の流れは国境を越え、企業など資金の需要者は調達・運用手段として多様な取引の利用が可能となっている。デリバティブは、こうした運用・調達の自由度を高める上で必須の手段となって発展してきた。つまり、金利や為替などのリスクをデリバティブを利用し、自在に変換することによって自由な資金の移動が可能となっている。
 企業経営についてみると、デリバティブ取引が主として利用されるのは、通常、企業が財務活動によって生じた現実のポジションを、将来被る可能性のある金利や為替の変動による損失から回避するためである。
 デリバティブ取引の進展と共に企業の財務活動は大きく変化してきている。主な要因を列挙すると以下のようになる。
@ デリバティブの利用を通して金利や為替の変動が自由にヘッジできるようになり、その結果、金融収支を安定化することが可能となった。
A 資金の調達や運用に際し、取引の構成内容を自由に変更することが可能となった。
B 資金の調達や運用を自由に確定することになったことに加え、既に確定した資金調達や運用を修正して新たに確定することが可能となった。
C オーダメイドの資金の調達や運用が可能となった。このようにデリバティブ取引は、企業の財務内容を大きく変更させたといえる。

(2)デリバティブ取引のメリットとデメリット

 一方、銀行経営についてみても、デリバティブ取引は、企業経営同様影響を及ぼしている。銀行の場合は、その業務が全て資金の運用・調達に依存しているため、影響は企業業務以上に及びインパクトは甚大である。デリバティブ取引が銀行に及ぼす影響をメリット・デメリット両面からみてみると、まず、メリットは以下の通りとなる。
@ 銀行へのメリット
A.金利リスクの相殺
 デリバティブ取引により金利リスクの相殺が可能となる。金利リスクを詳細にみると、先行きの金利の上昇や低下に伴いリスクが生じる。金利上昇に対するリスクとしては次の2つがあり、一つは、既に運用している資産の価値が低下するリスクで、もう一つは、将来資金を調達する際にコストがかさむリスクである。一方、金利低下に伴うリスクも2つあり、既に高いコストで調達してしまった資金調達の損失リスクと、将来資金を運用する場合に被る低金利の損失リスクである。これらのリスクは、ALM(資産負債総合管理)で適切に把握されているならば、デリバティブ取引を利用することによってヘッジが可能となる。つまり、デリバティブ市場において、現物のポジションと正反対のポジションを構築することによって金利リスクを相殺することが可能となる。

B.金融商品開発の拡大
 デリバティブ取引は従来の現物取引から派生してできた取引のため、金融商品開発の可能性が飛躍的に高まった。これまでみてきたように、先物、オプション、スワップを使った商品が多種多様に開発されている。例えば、顧客が従来の固定金利の借り入れを金利低下時には変動金利に切り替えたり、また、金利上昇時には、変動金利の借り入れを固定金利の借り入れに変更することが可能になる。また、資金を調達する場合には、顧客は金利上昇時において、市場金利の上昇より低い上昇に抑制したり、また資金を運用する場合には、金利低下時において、市場金利の低下より少ない低下に抑制することも可能になる。このようにデリバティブ取引を利用することによって顧客が要望する商品を自由に構築することが可能となる。

C.収益機会のチャンス
 デリバティブ取引を仲介することによって、プレミアムなどの売買収益や手数料収益を確保することが可能となる。 また、デリバティブが持つリスクヘッジの利点を重視しつつも、収益力の強化を図るために、その反対に位置する投機的な側面も重要視されよう。ビッグバンを控え、益々競争が激しくなる中で、コスト競争力と収益力の強化の両立が重要となってくる。他行と一線を画し新しい経営環境で勝者になるために収益基盤の確立が求められる。収益基盤の一角として積極的にリスクを取り、収益を計上するデリバティブ取引のノウハウの確立が求められよう。


A 銀行のデメリット
A.不利なポジションの引受け
 デリバティブ取引では、顧客も銀行も金利変動に関係なく、両方が利益を享受することは不可能である。例えば、先行き金利上昇が予想される場合、顧客はそれをヘッジするために、先物の売却や、プットオプションの購入に加え、固定支払・変動受取りのスワップを需要する。これに対し、銀行は顧客と反対の立場でポジションを組む必要性が出てくる。このポジションは当然金利上昇に対して不利なポジションであるため、これを相殺するために銀行は新たなヘッジをかける必要がある。このようにデリバティブ取引は顧客と利益が相反するため注意が必要である。

B.投機による損失
 デリバティブ取引はオフバランス取引であることに加え、小額のコストでス額の取引を実施でき、満期日までの期間中随時売買が可能なため、通常のキャッシュ取引と比較すると、はるかに流動性に富んでいる。このため、こうした流動性をヘッジ取引に利用する場合は問題はないが、投機に活用すると問題が生じる。例えば、相場が予想に反して展開した場合、デリバティブ取引は取引単位が大きいため甚大な損失を被ることになる。

C.損失リスク
 デリバティブ取引は収益機会を増大させるというメリットがある反面、損失をもたらす確率も高まる。第5章でみた通り、デリバティブ取引に伴うリスクは、信用リスクや市場リスクなど6種類が存在する。通常の取引でもこれらのリスクは存在するが、デリバティブ取引の場合はこうした6種類のリスクが一度に顕在化する可能性が高いため注意する必要がある。
 このようにデリバティブ取引はメリットとデメリットが混在化しているが、銀行はデリバティブ取引を積極的に利用することにより他行と差別化を図ることが可能になる。それでは、デリバティブ取引を利用することにより、銀行は経営面、対顧客に対していかに比較優位を保つことができるのであろうか。以下の点が挙げられよう。
 まず、経営面については、第1に、損益に対する金利抵抗力が強まると考えられる。デリバティブ取引は、金利変動による利益の変動を抑制するため、デリバティブ取引を利用することによって損益は安定化するものと考えられる。第2に、収益機会の増大が考えられる。デリバティブ取引は金利が予想と逆に動いた場合損失をもたらすが、管理を徹底し、日々金利や相場の動きをモニターし分析すれば、デリバティブ取引から多大な収益を獲得することが可能となる。
 次に、顧客に対してであるが、融商品の提供能力が高まり、顧客ごとの親密度・深厚度合を深めることが可能になると考えられる。顧客ごとにニーズのあった商品を提供することにより信頼を勝ち取り顧客基盤を確立することができる。
 このように、デリバティブ取引の積極的な利用は、経営面の安定に加え、顧客に多大なメリットを享受することになる。その結果、他行に対し比較優位を確保することが可能となろう。

(3)今後の課題

 これまでみてきたデリバティブ取引のメリットを踏まえ、今後、銀行はどのようにデリバティブ取引に取り組んでいく必要があるか考えてみたい。
@ ALM体制の強化
 金融自由化の中で、金利リスクや為替リスクを被る確率が高まっている。資産や負債を総合的に管理して、その金融機関が多様な金融リスクから受ける損失を最小限に留め、利益を最大限に享受するのがALMの目的である。リスク管理の精緻化をベースにデリバティブをどのように利用してALMを行うかが重要であり、そのための基盤作りが必要である。
A ディスクロージャー制度の確立
 金融機関の経営健全化を確保するための一環として、デリバティブ取引を行っていく上で金融機関が基本的に管理すべきリスクに関する情報を適切に開示する必要がある。
B 管理体制の確立
 デリバティブ取引は第5章でみたように潜在的なリスクが多い。そのため絶えず、リスクに対し注視し、残高の現在価値、ヘッジ残高などが常時把握できる体制の構築が必要となる。
C 顧客発掘調査
 顧客が、現在の経済環境に対しどのような商品を望んでいるかを常に把握し、顧客ニーズにあった商品を提供する。デリバティブを駆使することによって、商品開発が可能かどうかの見極めが必要となる。
D 収益機会のチャンス
 デリバティブ取引の持つヘッジ機能を重視しつつも、その反対にある投機性にも注目する必要がある。経済が成熟化する中で、収益機会のチャンスが減少しており、収益増強のための戦略が必要となる。今後の収益の柱として、リテール部門の強化に加え、リスクを積極的に取ることによってハイリターンを狙う戦略も必要とされよう。こういった状況下、デリバティブを積極的に活用した取引が重要視されてこよう。その結果、デリバティブ取引は収益追求手段のツールとして、収益全体に占めるデリバティブ取引による収益の比率が高まってくると予想される。


7.市場規模とディスクロージャー

(1)市場規模

 デリバティブ市場、特に店頭デリバティブ取引の市場については、市場全体を網羅する包括的な調査データーがなかったため、95年4月、BIS(国際決済銀行)と世界26か国・地域の中央銀行等が、「金融派生商品売買高等調査」(派生商品サーベイ)を行ったが、これにより市場規模を正確に把握することが可能となった。
 派生商品サーベイは、市場または拠点ごとの調査として実施され、市場参加者はそれぞれの拠点の所在地ごとに現地の中央銀行に調査票を提出した。
 我が国では、全外国為替公認銀行(345行庫)及び証券会社(10社)が調査に参加している。全体をみると約2400先が参加している。本サーベイは派生商品市場全体の90%以上をカバーしていると推定され、拡大している金融派生商品市場において初めて実施された網羅的・国際的な計数調査と位置付けられている。
 「想定元本」は、派生商品契約に基づいて受け払いが生じる金銭を計算する時に前提となる名目上の元本である。バランスシート上の金融資産の額とそのまま比較できる概念ではないが、市場の規模に関する情報を得ることは可能である。
 95年3月時点の全体の派生商品のうち、店頭取引の残高を想定元本ベースでみると、40兆7140億ドルとなっている。一方、各市場の残高をみると、日本市場の残高は8兆3266億ドル、米国市場が11兆40億ドル、英国市場が12兆2200億ドルとなっており、英国が世界最大の市場となっている。
 ところで、市場価値ベースの残高をみると、全体で1兆7450億ドルとなっており、想定元本ベースの残高の約4.3%にすぎない。因みに日本の市場価値ベースの残高は6213億ドルとなっており、想定元本ベースの約7.5%となっている。
 また、派生商品取引をその原資産から外国為替や金利等に分けてみると、金利関連取引の比率が最も大きく、全体で65%となっており、日本市場も61%を占めている。これに外国為替関連取引が続き、両者で残高のほとんどを占める形となっている。
 想定元本ベースの1日の平均取引高をみると、日本市場の取引高が1386億ドル、米国市場が1620億ドル、英国市場が3510億ドルとなっており、日本市場が世界の主要市場の一角を占めていることが確認されている。日本市場の特色を挙げると、取引通貨面でドル・円ないし円金利関連取引のウエイトが高いこと、活発に取引されているのは金利スワップや上場金利先物のような定型的商品が中心であることなどである。相手先別内訳をみると、海外の相手先との取引が55%と過半数を占めており、派生商品のグローバル性が示されている。
 次に取引所取引の残高をみると、全体で16兆5810億ドルで、このうち日本市場の残高が4兆2640億ドル、米国市場が4兆2977億ドル、英国市場が4兆2810億ドルと店頭取引同様、この3市場が主要な取引となっている。また、想定元本ベースの1日平均取引高をみると、全体で1兆1360億ドル、日本市場で4507億ドルと特に日本市場でそのウエイトが高いことが確認されている。
 我が国におけるデリバティブ取引の市場規模はこのように急速に拡大しており、市場規模は米国市場や英国市場に匹敵する程までになっている。こうした状況下、デリバティブ取引は金融取引や財務のリスク管理に効果を発揮する一方、投機的な利用による取引事故も多発してる。
 デリバティブ取引の多くはオフバランス取引となっているため、投資家サイドからみて財務の実態が分かりにくくなっている。こうしたことから、投資家の思わぬ損失を回避するため、投資リスクの判断のための投資家への情報提供等情報開示強化の必要性が高まっており、我が国でも平成9年3月1日より有価証券及びデリバティブ取引に関する時価等のディスクロージャー(有価証券報告書の財務諸表の注記)が導入される運びとなった。


図表10 店頭取引と取引所取引の残高(想定元本ベース)
全体 日本 米国 英国
店頭取引 40,714(100) 8,327(100) 11,044(100) 12,220
  外国為替関連取引 13,153(32) 3,211(39) 2,664(24) 1,429
  先物アウトライト・スワップ
通貨スワップ
通貨オプション
8,742(21)
1,974(5)
2,375(6)
2,474(30)
540(7)
192(2)
1,264(11)
258(2)
1,114(10)

822
596
  金利関連取引 26,645(65) 5,100(61) 8,147(74) 10,382
  FRA
金利スワップ
金利関連オプション
4,597(11)
18,283(45)
3,548(9)
174(2)
4,516(54)
378(5)
874(8)
5,558(50)
1,595(14)
2,590
6,692
1,036
取引所取引
    金利関連取引
16,581
15,674
4,264
4,212
4,298
4,057
4,281
4,074
(出所)日本銀行月報96年3月号              (単位10億ドル、( )内シェア%)


図表11 店頭市場の規模(想定元本ベースの残高)


図表12 店頭取引と取引所取引の1日平均取引高(想定元本ベース)
全体 日本 米国 英国
店頭取引 839(100) 139(100) 162(100) 351(100)
  外国為替関連取引 688(82) 112(81) 130(80) 292(83)
  先物アウトライト・スワップ
通貨スワップ
通貨オプショ
643(77)
4(0)
40(5)
106(76)
1(0)
6(4)
110(68)
0(0)
20(12)
278(79)
1(0)
14(4)
  金利関連取引 151(18) 26(19) 32(20) 59(17)
  FRA
金利スワップ
金利関連オプション
66(8)
63(8)
21(3)
2(2)
13(9)
11(8)
10(6)
14(9)
7(4)
35(10)
19(5)
5(1)
取引所取引
    金利関連取引
1,136
1,121
451
451
196
191
246
238
(出所)日本銀行月報96年3月号              (単位10億ドル、( )内シェア%)


図表13 通貨別内訳(想定元本ベースの1日平均の店頭取引高)


(2)ディスクロージャーの概要

@ 対象先
 有価証券報告書作成企業は全て対象
A対象商品
 従来から財務諸表の注記以外のところで開示されていた上場物の先物・オプション取引、為替予約取引等すべてのデリバティブ取引が対象
B開示内容
A.定性的事項
 取引内容、取組方針、利用目的、取引にかかるリスクの内容、取引にかかるリスク管理体制等を文章で記載する。取引内容についてはデリバティブ取引を実施してなくてもその旨記載することとされており、期末残高がなくても期中取引について記載する必要がある。

B.定量的事項
 期末日の契約額、時価、評価損益相当額、時価算定根拠。

C問題点
A.ヘッジの会計的対応の不十分
 例えば、ローンの変動金利のヘッジのために固定金利のスワップ取引を行った場合は、金利スワップ取引の時価だけが開示されることになる。ローン等のリスクについては従来同様開示されず、定性的記載事項としてデリバティブ取引のヘッジ効果について記載することとなっている。一方、同様の経済効果を表す金利スワップ取引と契約書上一体化されている固定金利のローンについては、デリバティブについては何も開示しなくてもよい。

B.通貨スワップは対象外
 金利スワップはディスクロージャーの対象であるが、通貨スワップは対象外である。

C.ヘッジとトレーディングの区分表示の不要
 開示対象となったデリバティブ取引のうち、どれがヘッジでどれがトレーディングで利用されているかの区分をすることは、企業の判断に任せられている。そのため、区分されない場合は、内訳は分からない。

D.オンバランス商品は対象外
 デリバティブ的な仕組みを持つ有価証券以外のオンバランス商品はディスクロージャーの対象外である。
 このように時価ディスクロージャーには上記のような問題点が残されている。米国の動きをみると、デリバティブの会計処理に時価ディスクロージャーだけでなく、時価会計にまで踏み込んだ会計基準作りが進められている。実際、FASB(米財務会計基準審議会)は、世界的にリスクの高まりが懸念されているデリバティブの取引実態を開示させるため、この分野に99年6月から時価会計制度を導入することを97年12月に決定した。
 FASBの新しいルールは事実上の米国統一基準であり、その原則はすべてのデリバティブ取引にかかわる評価損益を期間損益に算入するとしている。対象企業はまず、デリバティブの価値を決算期を迎えた時の市場価格を参考に再評価する。それを脚注などでの注記で記載する方法ではなく、バランスシート上に明記することが必要となる。加えて、将来決済する予定の約定価格との差額である含み損益もその時点で決済したと仮定し、期間損益に反映させなくてはならない。このように、デリバティブ市場の動きを迅速に反映した財務状況が開示されることになる。
 米国では時価会計に踏み込んだ会計基準作りが進んでいるが、時価会計は、国際的な流れであり、我が国でも含み損益に依存した経営から脱却するためにも対応を図る必要があろう。リスク管理の方針や体制などの定性的な情報や取引量に加え、その事業体が潜在的に負っている市場リスクや信用リスクにかかる定量的な情報が開示されるよう、ディスクロージャーのルールが確立されることが求められている。

図表14 デリバティブ取引に係る従来の規定と改正後の規定の比較
従来の規定 改正後の規定
契約額等の開示対象取引 先物取引、オプション取引、
先物為替予約
同左、先渡取引、スワップ取引
取引の説明   取引の内容、取組方針、利用目的、
リスク管理体制、時価情報捕捉説明等
記載箇所 財務諸表以外の箇所 財務諸表の注記



(参考文献)

・可児滋『デリバティブズその活用とリスク管理』(1997年)、ときわ総合サービス
・福島良治『デリバティブ取引の法務とリスク管理』(1997年)、金融財政事情研究会
・三宅輝幸『デリバティブ取引の基礎』(1997年)、経済法令研究会
・『銀行経理の実務』(1997年)、金融財政事情研究会
・『デリバティブ』(1996年)、銀行研修社
・『デリバティブ百科』(1997年)、東京教育情報センター
・『デリバティブの常識』(1995年)、日本経済新聞社
・『デリバティブリスクコントロール』(1994年)、近代セールス社
・『金融ハイテクの経済学』(1991年)、東洋経済
・『新銀行実務総合講座 国際金融』
・『月間金融ジャーナル ザ・デリバティブ』(1995年4月)
・『日本銀行月報』(各号)
・『金融』(各号)
・『エコノミスト』(各号)
・『金融財政事情』(各号)
・『東洋経済』(各号)
・日本経済新聞(各号)
・ロイター電(各号)