特集・変革する社会の中の郵便


郵便需要の現状と将来予測



第一経営経済研究部長    井筒 郁夫


【要約】

(郵便需要の現状)
 我が国の郵便物数は、堅調に伸びてきている。最近の傾向として、郵便物数の伸びは、金銭関係郵便物やダイレクトメールの大きな伸びに支えられてきている。
 しかし、郵便物数を諸外国と比較すると、総郵便物数では、我が国は米国に続き世界第2位であるものの、国民1人当たり郵便物数では、16位となっている。我が国の郵便物数は、相対的には、諸外国と比べ、まだ、少ない。
 特に米国と比較すると、米国は、我が国と比べ、国民1人当たり物数のみならず、総物数も、大変大きい。その結果、米国の郵便市場の規模は、GDPの規模と比較して、日本の市場よりかなり大きい。米国では、各戸の郵便受け箱は郵便事業(USPS)しか使用できないという法律規制があることや、個人が小切手を広く利用していることなど国情の差が、郵便物数が大きいことの一因になっていると考えられるが、日本の郵便需要は、米国と比べ、このような国情の差を考慮しても、まだ小さく、郵便事業の努力次第で、将来一層増加する可能性の余地がある。しかも、通常郵便物は、大きく規模の経済性が働くため、郵便需要の増加は望ましい。
(郵便需要の将来予測)
 郵便は、現物性・証拠性・儀礼性などの電気通信にはない優れたメディア特性を持っている。したがって、郵便需要のうち、電気通信により代替されていく部分もあるが、郵便事業が、郵便の特性を活かし、低廉な料金で、郵便サービスを提供し続けるなど適切な対応をしていく限り、郵便全体でみると、ダイレクトメール・金銭関係郵便物などの増加が牽引し、当面は、情報通信が高度化していっても、郵便の大きな減少をもたらすような影響を与えないものと考えられる。郵政研究所で行った2001年と2010年の郵便の将来需要予測では、郵便事業が情報通信の高度化に柔軟に対応し、新規需要を拡大できれば、郵便物数は、21世紀初頭まで安定的に拡大(年平均約3%の伸び)することが可能である。

1 はじめに

 我が国社会は、現在、情報通信の高度化、少子・高齢化、国際化など大きく変革しつつある。別稿1)では、電気通信が郵便に与える影響について分析したが、それも踏まえ、本稿では、2において、我が国の郵便需要の現状を、諸外国、特に米国と比較しながら述べた上で、3において、郵便需要の将来予測について、述べることとする。

2 郵便需要の現状2)

2.1 郵便物数の推移

 総郵便物数は、平成8年度は、約255億通であった。前年度(約248億通)と比較すると、2.8%の伸びであった。特に通常郵便物は、約250億通と、前年度(約243億通)と比べ、好調な伸び(2.9%)であった。
 過去10年間でみると、総郵便物数は、平成6年1月の通常郵便物の料金値上げの影響の出た平成6年度を除き、堅調に伸びてきている。(図1)
 昭和60年以降、利用目的別に郵便物数の推移をみると、金銭関係郵便物(請求書・領収書等)・ダイレクトメール(DM)が著しく増加し、また、郵便物数の中でのウェイトが大きくなってきている。(図2)
 このように、最近の傾向として、郵便物数の伸びは、金銭関係郵便物やダイレクトメールの大きな伸びに支えられてきていることが伺える。


(図1) 過去10年間の総郵便物数の伸び
(対前年度比)

(出所)国民経済計算年報(経済企画庁)、郵便の統計(郵政省)から作成。平成8年度データについては、郵便物数は、平成9年5月15日付郵政省報道発表、実質GDP奄、平成9年6月13日付経済企画庁発表の国民所得統計速報による。


2.2 諸外国との比較

 郵便物数を諸外国と比較すると、総郵便物数では、我が国は米国に続き世界第2位であるものの、国民1人当たり郵便物数では、16位となっている。(図3、4)我が国の郵便物数は、相対的には、諸外国と比べ、まだ、少ないことがわかる。


1)井筒、山浦[1997](郵政研究所月報今月号「電気通信の郵便に与える影響」)。
2)井筒、山浦[1997]2.2及び3も参照されたい。


(図2) 利用目的別郵便物数の推移

(出所)郵便の統計(郵政省)、最近における郵便の利用構造(郵政省)により推計。


(図3) 総郵便物数比較 (1995年)

(出所)PostalStatistics(1995)(UPU)等により作成。但し、カナダは1993年、スイスは1992年、オランダは1989年の資料による。


(図4) 国民1人当たり郵便物数比較 (1995年)

(出所)PostalStatistics(1995)(UPU)等により作成。但し、カナダは1993年、スイスは1992年、オランダは1989年の資料による。


2.3 米国との比較

 我が国の郵便需要を、特に米国と比較してみる。米国は、我が国と比べ、国民1人当たり物数のみならず、総物数も、大変大きい3)。(図5)
 しかも、米国の郵便物数は、最近、堅調に伸びており、特に、ダイレクトメールの伸びが大きい。(図6)
 種類別に、全体の郵便物数の中に占める割合をみると、米国では、特に、ダイレクトメールと金銭関係郵便物の割合が著しく大きくなっている。(図7)
 その結果、米国の郵便市場の規模は、GDP奄規模と比較して、日本の市場よりかなり大きい(図8)。
 米国では、日本と異なり、各戸の郵便受け箱は郵便事業(USPS)しか使用できないという法律規制4)があるため、日本と異なり、各種チラシの各戸配布を民間事業者が簡単にはできなくなっていることや、個人が小切手を広く利用していることなど、国情の差が、郵便物数が大きいことの一因になっていると考えられる。
 しかし、日本の郵便需要は、米国と比べ、このような国情の差を考慮しても、まだ小さく、郵便事業の努力次第で、将来一層増加する可能性の余地があるといえる。しかも、通常郵便物は、大きく規模の経済性が働く7)ため、米国のこのような郵便物数の多さが、米国の郵便料金が先進諸国の中では、最も割安となっている主要な理由と考えられることから、郵便需要の増加は望ましいものとなる。


3)米国の1996年度の総郵便物数は、約1,827億通。
4)18United States Code Sec.1725
7)通常郵便物には、規模の経済性が働くことについては、井筒[1997]、角田・和田・根本[1997]参照。


(図5) 日米郵便物数比較(米国(1996年度5)) /日本(平成7年度))T
(日本を1とした時の米国の倍数)

*平成7年10月現在の人口で計算
(出所)日本の郵便1996(郵政省)、最近における郵便の利用構造(郵政省)、平成7年国勢調査(総務庁)、1996 Annual Report of the USPS (USPS)、National Monthly Population Estimates (U.S.CensusBureau)等 により推計。


(図6) 米国郵便物数推移 (指数‐92年度:100)

*ファーストクラス:我が国の第1種、第2種郵便物に相当。(但し、ダイレクトメール(米国ではファーストクラスとは別に、Standard Mail (A)として分類)を除く。)
(出所)1996 Annual Report of the USPS (USPS)により作成。


5)米国の会計年度は、10月‐9月(年度末の属する年をもって年度名となる)。


(図7) 日米種類別郵便物数構成割合比較

(出所)1996 Annual Report of the USPS (USPS)、日本の郵便1996(郵政省)、最近における郵便の利用構造(郵政省)等により推計。


(図8) 日米郵便市場規模比較6)
(日本の規模=1とした時の米国の倍数)

(出所)1996 Annual Report of the USPS (USPS)、日本の郵便1996(郵政省)、国際比較統計1996(日本銀行国際局)により作成。


6)米国:USPS総収益(1996年度)56,544百万ドル。名目GDP(1995年)7,245,800百万ドル。日本:郵便事業総収益(平成7年度)2,287十億円。名目GDP(1995年)480,693十億円。


3 将来予測

3.1 将来の郵便需要の傾向と郵便の特性

 それでは、郵便の将来についてはどうだろうか。別稿8)で論じたとおり、郵便需要の中で大きな割合を占めるダイレクトメールと金銭関係郵便物については、電気通信に代替される部分もあるが、ダイレクトマーケティングの発展や金融の自由化などにより、当面は、今後とも増加傾向にあると予想される。
 もちろん、企業間通信については、EDI・CALS・電子メール等の進展により業務用通信の形態に大きな影響が及ぶものと考えられる。また、個人間通信については、若者を中心としたメンタリティの変化がコミュニケーション手段としての電気通信への選好を一層加速化することも考えられる。そのため、これらの分野では、電気通信と郵便との間接的競争は激しくなり、郵便から電気通信に代替していく可能性が高い。
 しかし、郵便は、現物性・証拠性・儀礼性などの電気通信にはない優れたメディア特性を持っている9)。(図9)したがって、郵便需要のうち、電気通信により代替されていく部分もあるが、郵便事業が、郵便の特性を活かし、低廉な料金で、郵便サービスを提供し続けるなど適切な対応をしていく限り、郵便全体でみると、ダイレクトメール・金銭関係郵便物などの増加が牽引し、当面は、情報通信が高度化していっても、郵便の大きな減少をもたらすような影響を与えないものと考えられる。


(図9) 通信メディアの特性

8)井筒、山浦[1997]6.3参照。
9)井筒、山浦[1997]6.2参照。


3.2 総物数予測

 郵政研究所では、3.1のような将来の郵便需要の傾向を踏まえ、郵便需要へ影響を与える主要要因を整理し、分析をした上で、2001年と2010年の郵便の将来需要予測を行った。
 その結果、郵便事業が情報通信の高度化等の環境変化に柔軟に対応し、新規需要を拡大できれば、郵便物数は、21世紀初頭まで安定的に拡大(年平均約3%の伸び)することが可能であると考えられる。


(図10) 郵便物数の将来予測結果

(参考文献)


1 井筒郁夫[1997]「信書独占の合理性‐経済学的視点から‐」『郵政研究所月報』1997年2月号101
2 井筒郁夫、山浦家久[1997]「電気通信の郵便に与える影響」『郵政研究所月報』1997年9月号108
3 角田千枝子、和田哲夫、根本二郎[1997]「郵便事業における規模の経済性・範囲の経済性・費用の劣加法性の検証」『郵政研究所ディスカッ^ ションペーパーシリーズ』1997年8月1997-08
4 経済企画庁編『国民経済計算年報』
5 総務庁統計局編『平成7年国勢調査』
6 日本銀行国際局『国際比較統計1996』
7 郵政省郵務局編[1986、1989、1992、1995]『最近における郵便の利用構造‐郵便利用構造調査結果報告書‐』
8 郵政省郵務局編[1997]『郵便の統計』
9 郵政省郵務局『日本の郵便1996』
10 the United States Postal Service "1996 Annual Report of the USPS"
11 U.S.Census Bureau"National Monthly Population Estimates"
12 Universal Postal Union"Postal Statistics"(1995)


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