郵政研究所月報

1998.10


調査・研究

リメーリング


第一経営経済研究部研究官  延原 泰生 

[要約]

1 リメーリングとは

 本来、差出人の居住する国の郵便局に差し出されるべき通常郵便物を、外国において適用される一層有利な郵便料金の利益を受けるために、一旦まとめて外国に運送するなどして、その外国から名あて国に差し出す行為をいう。

 リメーリングの形態としては、@ABAリメーリング(例、日本―外国―日本)、AABCリメーリング(例、外国A―外国B―日本)、BABBリメーリング(例、外国―日本―日本)がある。

2 リメーリングが発生する理由

(1) 全世界均一の低額の到着料率

 国際郵便物の交換に関しては、差出郵政庁が配達郵政庁に配達手数料に当たる「到着料」を支払うことになっている。しかしこの到着料は、開発途上国の人々が大きな経済的負担なしに国際郵便を差し出すことができるように、到着国の配達コストは考慮することなく、政策的に全世界均一の低い金額に抑えられている。このため、開発途上国では国際郵便の料金を比較的低く設定することが可能になっている。

(2) 物価水準、人件費等を反映する内国郵便料金

 郵便事業の費用の多くは人件費で占められているため、内国郵便料金は、各国の人件費や物価水準などのコストを反映して設定されることになる。その結果、差出人の居住する国の内国郵便料金よりも、ある外国の国際郵便料金の方が安い場合ができる。このようなときに、ABAリメーリングが発生しやすくなる。

3 我が国の国際通常郵便物数の推移

 平成8年度の国際通常郵便物数をみると、日本から差し出す郵便物が約1億2,000万通であるのに対し、日本に到着する郵便物が約2億9,400万通であり、1:2.45の比率になっている。大幅な入超が続いている原因の一つがリメーリングにあると考えられる。

4 リメーリングに関する国際規定

 ABAリメーリングが発生すると、本来、内国郵便料金として得られる収入が失われ、結果的に配達などに要するコストを賄えない低い到着料しか得られないこととなり、配達を行う郵政庁は著しい経済的不利益を被る結果になる。こうしたことから、万国郵便条約第25条では、到着郵政庁は、リメール郵便物を配達する義務を負わず、差出人又は差出郵政庁から料金を徴収し配達するか、差出郵政庁に返送できる旨規定している。

5 国際的リメーリング防止策

 1999年8月に中国北京市で開催される第22回万国郵便大会議への提案提出のため、新たな到着料制度の在り方について検討を進めている。

6 おわりに

 我が国としては、到着料制度の見直しや顧客ニーズに合った郵便サービスの提供を通じてリメーリングの発生要因を除去することに重点を置き、万国郵便連合などを通じ、国際郵便サービスの品質の向上と国際郵便ネットワークの充実・強化を図っていくことが望まれる。

 

1 はじめに

 リメーリングの歴史は意外に古くからあり、1924年の万国郵便連合(Universal Postal Union,以下「UPU」という。)ストックホルム大会議において「外国ニ於ケル通常郵便物ノ差出」という規定が導入されており、すでにその頃からリメーリングが発生していたことがわかる。

 我が国では、昭和60年度まで外国あて郵便物と外国から到着する郵便物の比率が概ね均衡していたが、現在は国際郵便物入超の状況が続いており、この原因の一つがリメーリングにあると考えられている。

 リメーリングは、各国郵政庁の財政基盤に深刻な影響を与える問題であることから、現在、UPUにおいてその対応策が検討されている。そこで、本稿ではリメーリングの形態及び仕組みを明らかにし、その対策について考察する。

 

2 リメーリングとは

 リメーリングとは、本来、差出人の居住する国の郵便局に差し出されるべき通常郵便物を、外国において適用される一層有利な郵便料金の利益を受けるために、一旦まとめて外国に運送するなどして、その外国から名あて国に差し出す行為をいう。例えば、日本に居住する差出人が、日本に居住する受取人に郵便物を送る場合に、通例であれば日本の内国郵便を利用することになるが、外国の中で日本あて国際郵便料金が日本での内国郵便料金に比べて安い国がある場合、日本→(国際貨物など)→外国→(国際郵便)→日本のように、これらの郵便物を貨物などにより外国に運送して、その国から国際郵便を利用して日本あてに差し出す行為をいう。

 

図表1 リメーリングの例(ABAリメーリング)

 

 リメーリングの形態としては、以下のものがある。

(1) ABAリメーリング

 日本に居住する差出人が同じ日本に居住する受取人に郵便物を差し出す場合に、日本の内国郵便を利用すべきところを、日本(A国)→(国際貨物など)→外国(B国)→(国際郵便)→日本(A国)のように、一度海外に郵便物を持ち出して、別の国(B国)から日本あてに差し出す形態をいう。

(2) ABCリメーリング

 例えば、外国(A国)から日本(C国)に居住する受取人あてに国際郵便物を差し出す場合に、A国の国際郵便を利用すべきところを、外国(A国)→(国際貨物など)→外国(B国)→(国際郵便)→日本(C国)のように、一度A国以外の第三国(B国)に郵便物を持ち出して、そこから郵便物を日本あてに差し出す形態をいう。

(3) ABBリメーリング

 A国からB国に差し出される国際郵便物を、郵便以外の方法によりB国に運送するなどして、外国(A国)→(国際貨物など)→外国(B国)→(内国郵便)→外国(B国)のように、B国の内国郵便物として差し出す形態をいう。ダイレクト・エントリー、ダイレクト・インサートと呼ぶこともある。

 

3 リメーリングが発生する理由

3.1 全世界均一の低額の到着料率

 国際郵便では、A国とB国との間の郵便物の交換において、例えばA国からB国にあてられる郵便物の量が、B国からA国にあてられる郵便物より多い場合、A国の郵政庁は、B国の郵政庁に対し、超過郵便物の重量に応じて「到着料」と呼ばれる配達手数料を支払うことになる。

 この到着料は、開発途上国の人々が大きな経済的負担なしに郵便物を差し出すことができるように、政策的に全世界均一の低い金額に抑えられている。

 そのため、先進国では到着料で配達コストを賄うことはできず、差出郵政庁では、比較的低い料金で郵便物を引き受けることができるため、ABAリメーリングが発生しやすくなる。一方、開発途上国では政策的に内国郵便料金が低く抑えられており、到着料よりも内国郵便料金が低くなってしまう場合があり、ABBリメーリングが発生しやすくなり、経済的損失を受けることとなる。

 

図表2 到着料の仕組み

 

3.2 物価水準、人件費等を反映する内国郵便料金

 郵便事業の費用の多くは人件費で占められているため、内国郵便料金は、各国の人件費や物価水準などのコストを反映して設定されることになる。さらに、為替レートの変動により、各国の国際郵便料金の間、また、国際郵便料金と内国郵便料金の間に格差が生じ、その結果、差出人の居住する国の内国郵便料金よりも、ある外国の国際郵便料金の方が安い場合ができる。このようなときに、ABAリメーリングが発生しやすくなる。

 

4 リメーリングが与える郵政庁への経済的影響

(1) ABAリメーリング 

 ア 発生要件
(ア) 有形リメーリング
A国の内国郵便料金>B国からA国への国際郵便料金+国際貨物運送費
(イ) 無形リメーリング
A国の内国郵便料金+印刷費等>B国からA国への国際郵便料金+データ送信費+印刷費等
 イ 郵政庁の経済的損得
(ア) A国
内国郵便収入の減少
(イ) B国
国際郵便収入の増加

 

図表3 ABAリメーリングによる経済的影響

 

(2) ABCリメーリング

 ア 発生要件
(ア) 有形リメーリング
A国からC国あて国際郵便料金>B国からC国あて国際郵便料金+国際貨物運送費
(イ) 無形リメーリング
A国からC国あて国際郵便料金+印刷費等>B国からC国あて国際郵便料金+データ送信費+印刷費等
 イ 郵政庁の経済的損得
(ア) A国
国際郵便収入の減少
(イ) B国
国際郵便収入の増加
(ウ) C国
収入への影響なし

 

図表4 ABCリメーリングによる経済的影響

 

(3) ABBリメーリング

 ア 発生要件
(ア) 有形リメーリング
A国からB国への国際郵便料金>B国の内国郵便料金+国際貨物の運送費
(イ) 無形リメーリング
A国からB国への国際郵便料金+印刷費等>B国の内国郵便料金+データ送信費+印刷費等
 イ 郵政庁の経済的損得
(ア) A国
国際郵便収入の減少
(イ) B国
開発途上国の場合、政策的に内国郵便料金が低く抑えられているため、到着料収入の減少+内国郵便収支の赤字拡大

 

図表5 ABBリメーリングによる経済的影響

 

5 我が国の国際通常郵便物数の推移

 我が国からどれくらいの郵便物がリメーリングを目的として国外に持ち出されているかは明らかではないが、平成8年度の国際通常郵便物数をみると、日本から差し出す郵便物が約1億2,000万通であるのに対し、日本に到着する郵便物が約2億9,400万通であり、1:2.45の比率になっている。昭和60年度までは日本へ到着する郵便物数と外国へ差し出す郵便物数の比率が概ね均衡していたことを考えると、大幅な入超が続いている原因の一つがリメーリングにあることも考えられる。

 

図表6 我が国の国際通常郵便物数の推移

単位:百万通

(出所)郵政行政統計データに基づき作成

 

6 リメーリングに関する規定

6.1 万国郵便条約におけるリメーリングに関する規定

 国際郵便は、郵便物が国際間にまたがるため、関係諸国間の合意、約束が必要である。この国際間の合意が文書の形でまとめられたものが条約である。万国郵便条約はリメーリングについてもその取扱を規定しているが、最初にその規定が導入されたのは、1924年のUPUのストックホルム大会議であった。

 ABAリメーリングが発生すると、本来、内国郵便料金として得られる収入が失われ、結果的に配達などに要するコストを賄えない低い到着料しか得られないこととなり、配達を行う郵政庁は著しい経済的不利益を被る結果になる。

 こうしたことから、万国郵便条約第25条では、到着郵政庁は、リメール郵便物を配達する義務を負わず、差出人又は差出郵政庁から料金を徴収し配達するか、差出郵政庁に返送できる旨規定している。

6.2 我が国におけるリメーリングに関する規定

 リメーリングは、世界の郵便秩序を乱し、究極的には郵便の一般利用者の利益に反することとなることから、我が国としては、リメール郵便物に対し万国郵便条約第25条の規定を受けて、国際郵便規則(郵政省令第3号 昭和34年3月27日)により、リメーリング郵便物の取扱方を規定している。

 

7 UPUにおけるリメーリング防止策

7.1 第21回万国郵便大会議(ソウル)のリメーリング防止策

 1994年8月、韓国のソウルで開催されたUPUの第21回万国郵便大会議において、リメーリングに関する差出郵政庁の責任を明確化するため、図表7のとおり万国郵便条約の改正が行われたほか、到着料率についても通常郵便物についてその重量1kgにつき2.940SDR/kgを3.427SDR/kgへ引き上げた。

 

図表7 万国郵便条約におけるリメーリングに対する規定

区別

到着国が配達する場合

到着国から差出郵政庁に返送する場合

ABAリメーリング
(万国郵便条約第25条第3項)  

差出人、それができない場合には差出郵政庁(B国)に内国料金を請求

差出郵政庁(B国)に、返送に係る経費(航空運送料など)を請求

ABCリメーリング
(万国郵便条約第25条第4項)  

差出郵政庁(B国)に内国料金の80%を超えない金額を請求

差出郵政庁(B国)に、返送に係る経費(航空運送料など)を請求

 

7.2 第22回万国郵便大会議(北京)に向けての取組み

 UPUの常設機関である郵便業務理事会の到着料作業部会において、1999年8月に中国北京市で開催される第22回万国郵便大会議への提案提出のため、新たな到着料制度の在り方について検討を進めている。

 

8 おわりに

 我が国としては、リメール郵便物に対し万国郵便条約の規定に従い、厳正に対処できるよう基盤整備を図っていくとともに、到着料制度の見直しや顧客ニーズに合った郵便サービスの提供を通じてリメーリングの発生要因を除去することに重点を置き、UPUの場などを通じて、国際郵便サービスの品質の向上と国際郵便ネットワークの充実・強化を図っていくことが望まれる。

 

脚注

国際貨物により郵便物を物理的に国外に持ち出す代わりに、電気通信回線により書状データを外国へ送信し、郵便物のあて名書きから封入を含む発送作業を当該外国に所在する企業に発注し、当該外国の郵政庁から郵便物を受取人に配送する形態がある。これを「電子リメーリング」、「無形リメーリング」などどいい、郵便物を物理的に国外に持ち出す「有形リメーリング」と区別する。

Return

万国郵便条約第49条第2項により通常郵便物については、重量1キログラムにつき3.427SDR(SDRとはspecial drawing rightsの略、国際通貨基金(IMF)の特別引出権)と定められている。これは20g当たりの郵便物に換算すると10数円程度にしかならないことになる。

Return

万国郵便条約第25条では、「外国における通常郵便物の差出し」という見出しで、リメール郵便物の取扱に関する基本的事項を定めている。同条第1項から第3項でABAリメーリングを、第4項でABCリメーリングを規定している。

Return

1968年7月1日からリメール郵便物の取扱に関する規定を国際郵便規則に設け、リメーリングに対処してきている。

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