第8号(日本評論社・1994.3.発行)

「ネットワーク産業の展望」


          編著: 南 部 鶴彦(*1)、 伊 藤 成康(*2)、 木 全 紀元(*3) 
          執筆: 木 全 紀元(*3)、 林   敏彦(*4)、 佐 久間 隆(*5)、    
              中 条  潮(*6)、 外 川 洋子(*7)、 石 崎  隆(*8)、    
              伊 藤 成康(*2)、 鬼 木  甫(*9)、 南 部 鶴彦(*1) 
 ネットワークという言葉が、情報化と関連して使われだしてから久しい。情報通信システムの導入により、従来と違う何か新しい企業関係、人間関係が生み出される可能性があるという文脈で使われる場合が多い。

 しかし、翻ってネットワークの意味はというと、いまだ確たるものがないようである。ある要素と他の要素を結合するというネットワーク現象が、あまりにもありきたりであるため、焦点が絞り切れないためではなかろうか。ちなみに、英語の語源としては、netとworkの結合したものである。ネットとは、網のことであり、ここから網状のもの一般をさすこととなる。さらに、ネットは、網ですくい上げた正味という意味でも用いられる。

 郵政研究所は、郵政省のシンクタンクとして発足して以来、このネットワークという言葉を、研究所全体の活動を象徴するキー・ワードとしてきた。物流・金融・通信という郵政省に関係する産業は、アルビン・トフラー流にいえば、モノ・カネ・情報のネットワークといい換えることが可能である。

 研究所は、研究所の各部署を横断する研究プロジェクトとして、ネットワーク研究を開始し、平成2年度の研究においては、主として文献調査により各種のネットワーク概念の整理を実施した。さらに、3年度においては、ネットワークの外部性(ネットワーク効果)を考慮したファクシミリ端末の普及の計量分析、およびネットワーク形態(メッシュ対ハブ・アンド・スポーク)の経済性比較に関する研究を行った。また、この間、平成2年には、「ネットワークと社会」と題した国際コンファランスを開催している。

 以上の研究成果をふまえ、研究所では、平成4年度の研究においては、「ネットワーク産業」という概念をたて、その鳥瞰を試みることとした。

 ネットワーク産業の概念については、具体的には、流通、金融、電気通信、交通・運輸、電力などの産業であり、直観的にもネットワークと密接に関連していることが理解できる産業である。

 研究は、ネットワーク産業の各側面及び個別産業分野の専門家を講師に招き、研究会方式で実施した。本書は、その概要をとりまとめたものである。

 本書の構成は、第1章で、ネットワーク産業の概念を説明したのち、第2章から第3章までで、ネットワーク産業の産業構造、産業特性、ネットワーク財の特徴といった総論をまとめている。第4章から第8章までは、ネットワーク産業の各論であり、個別のネットワーク産業の現況を紹介している。ここでの問題意識は、その産業を深く分析することではなく、ネットワークの視点からその産業を概観することである。最後に、第9章においては、ネットワーク産業の研究について、総括的議論を行った。

 冒頭述べたように、ネットワーク現象は、多様かつ普遍的に存在しており、その定義や研究のアングルも多様なものが考えられる。極言すれば、この世のありとあらゆるものが、特定の要素と要素の結合からなっている。ヒューマン・ネットワーク、経済ネットワーク、ネットワーク社会などの造語の多様性は、その反映といえる。

*1 特別研究官(学習院大学教授) *2 特別研究官(武蔵大学助教授) *3 主席研究官
*4 大阪大学教授 *5 経済企画庁 *6 慶応義塾大学教授 *7 流通産業研究所調査部長
*8 日本銀行 *9 大阪大学社会経済研究所所長

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