郵政研究所研究叢書



                                       第17号(日本評論社・1997.3.発行)

『電気通信事業の経済分析―米国の競争政策―』

                          通信経済研究部研究官  浅井 澄子
 本書は、我が国の今後の電気通信事業の規制を設計する上での示唆を得るため、競争政策の歴史が長く、かつ、規制決定過程における実務者と研究者のフィードバックがある米国の電気通信事業における連邦政府の規制と競争政策を検討したものである。

 ここでは、規制を構造規制と行動規制に分け、さらに、後者については最終利用者向けの行為に対する規制と事業者間の行為に対する規制とに分けて分析を行った。具体的に取り上げた項目は、長距離通信市場における非対称規制、インセンティブ規制、ヤードスティック競争、内部補助とそのテスト、接続料金及びオープン・ネットワーク・アーキテクチャに代表される非構造分離要件の問題である。各章とも概ね、個別の問題の概要、理論的枠組みを提示し、その上で規制機関である連邦通信委員会の運用実態を整理し、これを評価するという方法をとっている。

 これらの分析を通じて、構造規制を伴わない行動規制による競争条件整備の実効性には制約があること、行動規制においては、従来の最終利用者向けの行為に対する規制から事業者の行為に対する規制に規制機関がその業務の比重を移していることが示された。但し、構造規制の適用には時間と費用を要すること、構造規制を実施した場合でも、競争条件整備には一定の行動規制の組み合わせが必要であることも提示された。

 なお、本研究では、結語として我が国の電気通信産業構造の変遷と我が国へのインプリケーション、補論として我が国の地域通信事業の費用構造に関する計量分析の結果も併せて取り上げた。