郵政研究所研究叢書



                                       第18号(日本評論社・1997.4.発行)

『有料放送市場の今後の展望』

                                     通信経済研究部
 放送のデジタル化により安いコストでの多チャンネル化が可能となり、既存の放送事業者は複数の番組を提供する機会が与えられると同時に、だれでも意欲さえあれば新しく放送事業に容易に参入することができるようになる。

 一方、デジタル化によって、通信市場と放送市場の垣根が低くなり、それぞれの市場内における競争だけでなく、双方の事業者にとって厳しい競争状況が生まれることが予想されるなど、放送市場を取巻く環境が大きく変わりつつある。

 既に放送市場においては、従来の地上波による公共放送(受信料)や広告放送に加え、最近では都市型CATVの普及やデジタル衛星放送の開始により、有料放送という新しい市場が将来に向け大きく育ちつつある。

 ところで、これまで放送市場に関する研究は、放送の財政基盤が、NHKにおいては受信料に、地上波民放では広告収入におかれており、放送の対価として視聴者から料金を直接徴収していないため、従来、ほとんどの研究が供給サイドの分析にとどまっていたのが現状である。

 今後の我が国における放送市場の将来動向は、デジタル技術等の進展によって生み出された多メディア・多チャンネル化、マルチメディア化といった流れを背景に、その不透明感を増しつつある。そこで、放送市場が、将来的に健全に発展し、国民のニーズに応えていくために、放送市場の課題や将来動向等について多様な視座から検討するとともに、有料放送を含めた放送市場全体の市場構造をマクロ的に再構築する必要がある。

 本叢書は、このような問題意識のもと、郵政研究所において開催された「有料放送市場の在り方に関する調査研究会」において討議・検討された内容を踏まえ、学識者からなる各委員が、有料放送市場に関し法制度や経済学などの専門的視点から分析・考察したものである。本叢書は、2部構成となっており、第1部では、放送の制度的枠組みに関して、今後のあるべき姿等について多様な視点から考察している。第2部では、放送産業について、経済学的な切り口から分析しているところである。