郵政研究所研究叢書

22号(日本評論社 1999.6 発行)

 

『電気通信事業の経済分析─日米の比較分析─』

 

                    元主任研究官・客員研究官   浅井 澄子

 

 本書は、米国の分析に焦点をあてた『電気通信事業の経済分析─米国の競争政策』(1997年3月)に、新たに我が国の電気通信政策を検討対象に加え、日米の比較分析の視点で書き改めたものである。本書は、規制の枠組みについて、効率性と公平性の視点から評価するとともに、日米両国がほぼ同時期に産業構造の変化を迎える中、規制方式の理論的枠組みが、現実の日米の電気通信政策にどのように反映されているのかについて分析したものである。

 本書は5章から構成され、第1章は、これまでの日米の規制の推移、規制決定過程を分析するとともに、日米双方で地域通信市場においても競争政策が支持されることを計量分析で提示することによって、競争を促進するための政策を検討する本書の序論としての役割を有する。第2章では、競争政策を導入した際、どの事業者の規制が必要とされ、どの事業者の規制は緩和され得るのかという非対称規制の問題を取り扱っている。第3章は、非対称規              制を適用した際の支配的事業者に対する料金規制としてのインセンティブ規制を取り上げ、その理論と日米における現実への適用の問題を検討した。第2章及び第3章が最終財に対する価格規制を取り上げているのに対し、第4章は、中間財に対する価格規制に相当する接続料金規制の問題を取り扱っており、接続料金規制の意義について論じている。第2章から第4章で主要な行動規制についての分析を踏まえ、第5章では、構造規制と行動規制の選択の問題を検討した。具体的には、米国1996年電気通信法におけるベル系地域電話会社の長距離通信サービ スの提供問題と我が国のNTT再編成問題を取り上げ、垂直統合の問題点と垂直統合形態を認めるに際しての行 動規制の実効性について検討した。おわりにでは、日米比 較を総括し、NTT再編成の意義を述べることで本書の結びとした。