(第7号 1996.7.発行)
特別研究官(大阪大学教授) 本多 佑三 研究官 河原 史和 研究官 小原 弘嗣問題の所在
分析の枠組み
第一の問題については、すでに植田他(1993)、吉川他(1994)および経済企画庁(1994)が単年度の個別銀行に関するクロス・セクション・データを用いて回帰分析を行っているが、これらの結論は異なる。そこで、その後に利用可能となった情報をパネル・データとして有効に使い、より頑健な結論を目指した。また、いろいろな角度から問題を分析したほうが、問題の本質により迫れると考え、マクロ四半期データをも分析した。
第二の問題については、利用可能なデータが限られている等の制約から、必ずしも満足のいく分析はできなかったが、ひとつの試論として報告する。地域別のマクロ・パネル・データを利用し、金融機関の自己資本比率が各地域別鉱工業生産に与える影響を調べた。
結 論
解 釈
マクロ四半期データの分析結果と、個別銀行に関するパネル・データの分析結果は、ふたつの点で共通している。第一に、自己資本比率や不良債権比率といった金融機関側の問題が、貸出の伸び率を低く抑えた可能性を示唆した。第二に、こうした貸出の供給側の要因による貸出伸び率への影響は、必ずしも強いものではない。この後者の結果はさらに、貸出の供給側の要因が鉱工業生産に与えた影響はほとんどなかった、という第3の結論とも整合的にみえる。
インプリケーション
貸し渋りの存在は、一般的にいって金融政策の運営を難しくする。こうした一般的な問題とは別に、現行の自己資本比率規制には次の問題がある。
株価(TOPIX)および鉱工業生産指数の時差相関係数を計算すると、トレンドを除去した場合で0.29、トレンドを含めた単純な場合で0.84という高い正の相関があることが分る。この正の相関のために、現在のように景気が悪いときには、株価も低下傾向を示す。株価が低いと株式含み益が小さくなり、銀行の自己資本比率が下がる。(現行制度においては、有価証券含み益の45%が自己資本の補完的項目(Tier2)として認められている。)自己資本比率の低下は、既述の通り、貸出を抑制するので景気をさらに悪化させる。逆に、景気が良い時には、株価も高くなる傾向があるため、含み益が増大し、自己資本比率が高まる。したがって、より多くの貸出を誘発し景気をさらに過熱する恐れもある。つまり、現行制度のように、株式含み益を自己資本比率規制に組込むことが、実物経済の変動を増幅する効果をもちうる。同様の指摘は、例えば翁(1992)、Hellwig(1996)、にもみられる。こうした増幅効果は好ましくないので、機会をとらえてこの点を改善することが望まれる。
用いた手法
単位根検定、共和分検定、時差相関係数、パネル・データ分析、ブートストラップ法