主席研究官 武内 信博
1 はじめに 放送産業については、従来経済学的見地からの分析はほとんどなされてこなかっ た。しかしながら現在、放送産業を取り巻く経済環境は目まぐるしく変化してきて おり、放送産業を経済的観点から分析することの意義は大きいと思われる。 本小論では、主としていわゆる民間テレビ放送会社の経営環境について述べる。 とくにローカル局について焦点を当てる。 2 放送ネットワーク 放送産業の産業組織的特色としてネットワークがある。これは、放送事業者が自 ら番組を制作する以外に、別の者から恒常的に番組の供給を受けるという形態であ る。 この結果、ネットワークに参加したローカル局は番組制作・販売の両面でキー局 に依存することが出来るようになったわけである。 以上から、放送会社を取り巻く経済環境、経営状況を分析するに当たっては、地 域経済に基盤を置く独立の経営体という側面と、ネットワークの一部として、その 各社の経営への影響という側面の両方を併せて考慮しなければならない。 3ネットワークと番組流通 ネットワークによる番組の流通状況を見てみると、ローカル局では、自主制作番 組の割合は11.6%となっており、政策の成果はそれなりに上がっているといえ よう。しかしローカル局へのキー局からの番組供給は70%近く、準キー局分を加 えると80%近くに達する。番組供給面から見たローカル局のネットワーク依存 は、きわめて深刻な課題であるといわざるを得ない。 4ネットワークと経営 ローカル局では県域を基本として設立されているが、ローカル局の収入の大半は キー局を経由するか否かは別として、東京等の大都市圏の広告主に依存している。 ローカル局の位置づけを検証してみると、支社収入とキー局加入を加えたものと、 区域内世帯数(というより県民所得)はかなり高い相関関係がある。 次に、ローカル局とその本来的経営基盤である地域との関係について検証してみ ると、ローカル局の地域での収入は、やはり当該地域の経済力との相関が高い。 またいずれの場合にも、ネットワークへの依存の側面が検証される。 5終わりに 総括的にいえば、地域に立脚した放送事業者としての民間放送会社という理念 は、必ずしも所期の目的を達成したとはいえず、ネットワークの発展とともにその 一部としての性格を有するようになってきたこと、しかしその一方で、地域の情報 流通を担当する機関としてある程度の役割を果たしてきていることが分かった