わが国における電気通信産業の
生産性分析


                         特別研究官(武蔵大学助教授) 伊藤 成康
                             通信経済研究部研究官 今川 拓郎
 本稿では、1953年度から1990年度までの期間における、NTT(旧電電公社)の経営効率
の推移を把握し、また、その規定要因を解明することを目的として、以下のような分析を行っている。
まずはじめに、Theil-Tonqvist全要素生産性指数を計測し、続いて、生産性の規定要因を説明変数と
する対数線形モデルの回帰分析を行っている。理論的には、生産性上昇率は、規模の経済性を反映す
る成分、技術進歩に起因する成分、及び、競争条件や操業特性を反映する成分に要因分解されると考
えて、要因分析モデルの説明変数に集計生産指数、研究開発ストック指標、民営化・競争導入ダミー
変数等を採用している。第二に、NTTのトランスログ型費用関数の推定結果に基づき、当初の全要
素生産性指数の計測結果及び要因分析と対照する形で計測結果の頑健性の検証を行っている。
 実証分析の結果は、大略、次のように要約することができる。

 (1) NTTの全要素生産性(TFP)は、1953年度から1990年度までの37年間で平均変
  化率にして4.09%の成長を記録した。観測期間を、第1期:1953〜1977年度、第2
  期:1978〜1982年度、第3期:1983〜1990年度の3期間に分割したときの平均
  成長率は、第1期4.45%、第2期0.01%、第3期5.04%であった。

 (2) このTFPはNTT民営化により成長率が高まっているが、これは、堅調な需要の伸びとこれ
  を下回る投入の伸び、特に労働合理化による労働生産性の伸びにより支えられてきたといえる。

 (3) 対数線形モデルの推定結果に基づくTFP変動の要因分解によれば、観測期間平均で、産出量
  拡大効果が2.5%程度、技術進歩効果が1%弱寄与している。さらに、1985年の競争導入
  以降、NTTのTFP上昇率は、年率3.6%ポイント増加を示している。

 (4) トランスログ費用関数の推定結果に基づくTFP変動の要因分解では、観測期間平均で、産出
  量拡大効果が2.1%程度、技術進歩効果が1.9 %程度寄与している。