わが国電気通信産業の経済性分析


                       特別研究官(慶応義塾大学助教授) 中島 隆信
                             通信経済研究部研究官 八田 恵子

 本稿は、日本の電気通信産業の費用構造を規模の経済性と範囲の経済性の両面から明らかにしよう
とする試みである。これまでわが国では、データの不備も原因して当該産業を対象とする実証分析は
ほとんどなされていない。ここでは、NTTの地域支社別クロスセクション資料を用いて、規模弾性、
費用補完性、範囲の経済性の程度を計測し、まず費用構造を論ずるに最低限必要となる基礎的指標を
求めることを第1の目的とする。第2の目的は、範囲の経済性に関して、従来の自然独占性の検証に
用いられてきた複数生産物トランスログ費用関数を推定し、それとともに、NTTが将来的に通話サ
ービスに加えて新規サービスを行っていく上での、多角的なサービス生産の経済性を検証することで
ある。

 分析の結果は、以下のとおりであった。

 ・規模弾性の推定値は1を有意に超えており、規模の経済性が確認された。

 ・NTTのサービスを通話サービスとその他サービスとに分けて範囲の経済性を計測したところ、
 前者は後者に対してマイナスの影響、後者は前者に対してプラスの影響を与え、全体としては範囲
 の経済性は有意に存在することが明らかになった。

 ・通話サービスの中をさまざまな距離段階で長距離通話及び短距離通話に区切り、両者間の経済性
 の計測を行ったところ、ほとんどの距離区分で費用補完性は存在しなかった。また、トランスログ
 関数の近似点での範囲の経済性の存在も棄却された。