わが国電気通信産業の供給予測:1996−2025年
−−BISDN建設の経済的基盤


                   客員研究官(大阪大学社会経済研究所所長) 鬼木  甫
                             日本経済研究センター 河村  真
                              情報通信総合研究所 野口 正人
 この論文は、1996−2025年の30年間について行ったわが国電気通信産業の供給予測作業
の報告である。予測の重点を「広帯域総合サービス・ディジタル通信網(BISDN)におき、わが
国においてBISDNを建設する場合に必要となる投資額及びそれに伴う電気通信事業者の加入者数
・必要投資額・営業費用・収入・資金収支・経常利益などの指標について予測値を計算した。

 まず、BISDNへの加入者数について、以下のように想定した。1996年からBISDNへの
加入が始まり、2015年において、住宅用及び事業用加入者のそれぞれ75%に当たる加入者が電
話網からBISDNへ移行し、また2025年には総加入者数の97%がBISDNへ移行するもの
と想定した。ただし、住宅用加入者のうち3分の2はビデオ・テレビ配信を主とする簡易型ディジタ
ルシステム(「N−Vシステム」)に移行し、3分の1が双方向型広帯域通信システム(「Hシステ
ム」)に移行するとした。また、事業用加入者はすべてHシステムに移行するものとした。

 これらの加入者が1990年における電話網加入者と同一の頻度で市内・中継網を使用するとした
場合、BISDN建設に必要な粗投資額の累計は、1996年−2015年で38兆円、1996年
−2025年で72兆円(いずれも1990年価格、電話網用投資を除く)に上る。

 次に、上記加入者のそれぞれが、N−Vシステムについては現行電話網の1.5倍の基本料と同額
の使用料(端末・番組料金等は除く)を支払い、Hシステム加入者は基本料については2倍、使用料
については住宅用加入者は2.5倍、事業用加入者は3.5倍の額を支払うものとする。このとき電
気通信事業者の総収入は、予測期間30年間において平均年率3.1%で増加する。

 事業者の人件費及び物件費について、それぞれ1980年−1990年のトレンドを延長し、20
25年までの人件費・物件費を予測した。また、BISDN建設に必要な資金は、すべて社債発行に
より調達するものとしており、電話網及びBISDN両事業から生ずる必要資金額は、ピーク(20
11年)において年6500億円程度であるが、2025年においては年8700億円程度の資金余
剰を生ずるので、2025年には約1.2兆円の社債発行残高となる。

 以上を要するに、BISDNの建設は当初相当額の資金投入を必要とし、また予測期間末において
依然1.2兆円に近い長期負債を残すが、この傾向を延長すれば2027年までに長期負債を完済で
きることになる。結論として、BISDNプロジェクトは長期的には巨大な資金需要を生ずるが、十
分に長期を前提とした産業政策をとれば達成可能な事業である。