『郵便物数の動向に関する分析と将来予測(中間報告書)』


                             第一経営経済研究部長 安住  透
                                  主任研究官 稲葉  茂
                                    研究官 北島 光泰
                                    研究官 丸山 昭治

 本研究は、1980年代を通じて郵便物数が電気通信などの分野での代替手段の普及にもかかわら
ず当初の予想をはるかに上回る伸びを示したことなどから、従来の郵便物需要推計とは異なったミク
ロベースでの推計方法の確立き目指した研究であり、本書はその中間報告である。

 調査研究の方法としては、郵便物需要推計に関する調査研究会(座長:林周二明治学院大学教授)
を設置し、次のような方針の下に研究を行っている。

 1.郵便物利用の約8割を占める企業に重点を置き、かつ郵便需要の発生するメカニズムにさかの
  ぼった業種ごとのミクロ・ベースの企業行動の分析を基礎として分析する。

 2.郵便の利用構造には、月別の違いが認められることから、月次ベースの予測とする。

 3.初年度は、企業から個人に差し出される郵便物を中心に分析する。

 本中間報告書は、郵便物需要推計編、郵便物利用動向分析編、データ整理編の3編からなる本文と、
付属資料により構成しており、各編の概要は以下のとおりである。

 なお、本書は中間報告書であり、実際の予測を行うよりは、その基礎となる手法の研究と利用可能
なデータの調査・収集が主体となっている。

I 郵便物需要確計編

 企業一生活者間の郵便物利用構造は、企業が有するリストの範囲及びリスト利用のパターンを分析
することにより把握できると考えられる。

 企業が有するリストは、顧客リスト(ハウスリスト)と顧客外リスト(戦略的ターゲットリスト)
に分類できる。顧客リストは各社の業務活動による情報蓄積により形成されるが、業務活動による情
報蓄積パターンは業種により大きく異なることが予想されるため業種ごとの業務分析が必要となる。
業務分析を通じて各業種ごとの自社顧客に関する情報蓄積パターンを把握し、情報蓄積に関する業務
関連指標を抽出できれば、その企業に関するリストの範囲を間接的に推計することが可能となる。業
務関連指標の代表的なものとしては、通信事業における電話加入数、自動車ディーラーにおける自動
車保有台数等が考えられる。

 顧客外リストは、他社作成リストの収集、自社マーケット情報の収集の2通りの収集形態が考えら
れ、それは、各企業の戦略・戦術の変化により大きく左右される。したがって、顧客外リストを考え
る場合には、企業の戦略動向を把握する必受がある。

 企業におけるリストの利用パターンは、業務における利用、マーケティングにおける利用に分類で
きる。業務におけるリストの利用形態は、企業と生活者間の何らかの契約に基づく、業務連絡、物品
の移動力が考えられるが、これらは各企業により定められている定型業務として行われる性格のもの
で、業種ごとに特徴が類型化されるものと考えられる。業務におけるリストの利用は、企業と生活者
間の何らかの契約に基づき発生するため、利用されるリストは顧客リストに限定されるが、その利用
においては郵便から他のメディアへの代替性も考慮する必要がある。マーケティングにおける利用パ
ターンは、定期的マーケティングパターンと不定期的マーケティングパターンに分類できる。定期的
マーケティングパターンは、業種ごとにその特徴を類型化することが可能と考えられる。この場合、
利用されるリストは顧客リスト内の戦略的ターゲット部分及び顧客外リストとなる。不定期的マーケ
ティングは企業個別の判断によりなされるため、業種ごとでの特性は現れにくい。したがって予測体
系の中では定数項として扱うか、リストの範囲の関係する項に吸収させることが必要となる。

2 郵便物利用動向分析編

 8業界20社を対象に、(1)郵便物の利用目的、(2)利用目的ごとの郵便物需要、(3)各種
メディアの利用パターン、(4)郵便との代替関係、についてヒアリング調査を実施した。

 (1) 郵便物の利用目的として各業界で共通に挙げられていることは、1.押印が必要な正式書類
    を送付すること、2.急ぎでなく情報の多いものを大量に低コストで送付すること、3.一方通
    行の確実な伝達をすること、などである。

 (2) 利用目的ごとの郵便物需要の動向については、1.正式書類は今後も現在と同程度の需要が
    ある、2.DMは増加傾向にある、3.儀礼的文書は減らない、4.荷物は制約の解除・サービス
    向上があれば需要は増える、ことなどが挙げられた。

 (3) 各種メディアの利用パターンについては、業務内容により業界ごとに格差があるがメディ
    ア特性には次のような共通認識があった。

     電話:リアルタイムのコミュニケーションが可能。コストが安い。簡便性が高い。正確さ
    を要するもの、公式の伝達には向かない。

     ファクス:図面等が送れる。郵便より速い。コストが高い。送る情報が限られる。正式文
    書にはならない。

     宅配便:確実に配送される。サービスが良い。荷物の制限が少ない。拠点数が少ない。取
    りに行くのに不便。

     社内便:コストが安い。機密上安全である。通常は時間がかかる。社内間に限定される。

     データ通信:処理能力が高い。膨大な情報を送れる。通信網構築コストが高い。

 (4) 郵便との代替関係については、

    電話:簡便性、スピード等で郵便より優れており、現在電話で伝達している内容が郵便で伝
   えられるようにはならない。

    ファクス:現在ファクスで伝えられている内容が郵便で伝えられることはない。ファクスの
   機能拡大で郵便より電話を代替している。ファクスの個人化で郵便よりさらに魅力的になって
   いる。

    宅配便:郵便はコスト優位はあるが、形状、サービスで劣る。これが改善されれば代替もあ
   る。

    社内便:コスト引下げ、サービス改善があれば代替する。(社内便も通常は業務委託である
   。)

    データ通信:伝達情報の質、量から考えて郵便に代替することはない。

3 データ整理編

 郵便物需要は、各企業等が保有するリストの範囲とその利用パターンにより規定されると考えられ
る。

  リストの範囲は、顧客リストと顧客外リストの2者に大別され、前者は業務による情報蓄積により
、形成されるため、業務(事業)形態ごとの顧客数、契約件数、売上等により間接的に把握されるも
のと考えられる。

 後者に関しては、業務形態からの把握は困難であり、各業界の戦略・戦術動向から類型する必要が
ある。