第一経営経済研究部長 安住 透 主任研究官 朝倉 徳治 研究官 北島 光泰 研究官 宮尾 好明
I アメリカの書類・小型物品送達市場 1 サービス供給構造 アメリカにおける書類・小型物品送達市場は早くから発達し、技術面、システム面において、国際 的に最も進んだ市場を構成している。 同市場が発達した要因としては、1.広大な国土にわたる経済活動の活発化、2.企業活動におけるロジ スティクス戦略の推進、3.一般消費者の購買活動における通信販売利用の多さ、4.運輸業に関する規 制緩和の進行、5.輸送技術や通信技術の発達による提供サービスの高度化、なとが挙げられる。 郵便小包を除いた書類・小型物品送達の市場規模は、1988年で輸送個数が約31億個、売上高 が約210億ドルと推定されている。そのうち、幹線輸送がトラック輸送によるものが、個数ベース では約80%、売上高ベースでは約45%となっており、残りはほとんどが航空輸送によっている。 書類・小型物品送達サービスを提供する事業者は、数千社あると推定されているが、そのうちの急 送便サービスでは約10社で80%以上のシェアを占めており、その他の一般送達サービスでは大部 分をUPS社が占めている。従って、急送便サービスについては寡占体制、一般送達サービスについ てはガリバー型寡占体制が定着していることになる。 2 主要事業者の概要 (1)フェデラル・エクスプレス 同社は1973年に航空機を利用した急送便サービスを開始、ハブ・アンド・スポーク.システ ムによる効率的な輸送、情報ネットワークの高度化による顧客サービスの充実などにより、アメリ カ国内の急送便市場では第一位の取扱シェアを維持している。同社は、89年に世界最大の航空貨 物業者であったフライング・タイガー社を買収、書類・小型物品だけでなく一般貨物も取り扱うよ うになり、その経営規模は急拡大した。 (2)UPS 同社は1907年にシアトルにおいて、市内を対象にしたメッセンジャー・カンパニーとして設 立され、大手デパートの急送便配送を主に行っていた。その後、取扱地域を徐々に広げ、75年に トラック運送業者としては初めて、国内48州に営業範囲を広げた。また、同社は、53年陸上小 型貨物送達サービスの本格的展開と同時期に、フォワーダーとして西海岸と東海岸、中西部主要都 市間航空送達サービスを開始した。その後、送達地域は急速に拡大し、85年に米国本土全域に翌 日配達サービスを提供できるようになり、88年に自社航空機による幹線輸送を開始、統合化輸送 業者となった。 (3) DHL 同社は1969年に、船積み書類を航空機によって送達するクーリエ会社・として設立され、当 初は主にサンフランシスコとハワイの間で業務を行っていた。このサービスは、海上貨物の通関時 間の短縮、ボート・チャージの節約をもたらすものであったため、急速に成長を遂げた。 II 欧州主要先進国における書類・小型物品送達市場 1 欧州市場の概況 欧州各国における国内の小型物品送達市場の市場規模については、制度面の違いなどから、アメリ カ、日本の状況と同条件で比較できる既存の統計はないが、複数の資料からおよその姿を浮き上がら せることができる。 これらの資料によると、郵便小包と民間企業の取扱個数の合計では、イギリスが約5.1億個(1 989)、旧西ドイツが約5.5億個(1989年)である。アメリカが約38.5億個(1989 年)、日本が11.5億個(1988年度)に比べれば欧州各国は、人口や経済規模の違いを反映し て、その市場規模は小さい。しかし、1人当たりの利用個数をみると、アメリカが15.5個と断然 多いが、日本、イギリス、旧西ドイツとも9個となっているのが注目される。 欧州において小型物品送達サービスを行う事業者は、その取扱規模、事業の広がりなどの観点から 3つのグループに大別される。第一のグループは事業展開がワールド・ワイドであるインテグレイテ ッド・キャリア(営業から集荷、幹線輸送、配達まで1社で行う事業者)である。このグループに属 する企業は、書類・小型物品の送達を中心に行ってきているが、最近は大型航空貨物の輸送にいたる までの幅広いサーヒスを提供する事業者も現れている。このような企業は外国資本の企業であり、具 体的にはDHL(本部アメリカ)、フェデラル・エクスプレス(本部アメリカ)、TNT(本部オー ストラリア)、UPS(本部アメリカ)などである。第二のグループは欧州地域を中心に急送便サー ビスを提供する企業である。このグループでは欧州各国の複数の企業が提携して業務を行っているケ ースもある。事業展開の中心は国内であるが、顧客ニーズに対応するために国際輸送も行うようにな ったというケースであり、具体的にはイギリスのシーボンエクスプレス、フランスのジェット・サー ビスがそれに当たる。第三のグループは国内市場に限定して、国内全域あるいは特定の地方のみにつ いてサービス提供を行っている企業である。 2 主要先進各国における小型物品送達サービス業者 (1)イギリスの状況 民間調査機関ILDM社のレポートによると、イギリスにおける国際急送便サービスの市場は年 平均40%、国内におけるドア・ツウ・ドアの小型物品送達サービスは年平均25%で成長すると されており、MSI社のレポートにおいても航空急送サービスは年平均25〜40%、国内急送便 サービスは年平均10%程度で成長しているとされている。それらのレポートによると、イギリス における小型物品送達市場は年間売上高で21〜22億ポンド(約4,800〜5,100億円) 程度と推定されている。 (2)フランスの状況 フランスにおける小型物品送達市場の市場規模に関しては、はっきりした数値がつかめていない。 経済・輸送統計研究所によると、積み合わせ輸送市場を、発送ロット(単位量)と送達速度の2つ の基準によって、5つのセグメントに分けており、その中に小荷物急送、書類メッセンジャーとい うセグメントがつくられている。フランスの急送便市場においては、1989年の段階ではフラン ス国鉄系トラック輸送会社のセルナム、カル・エクスプレス、フランス・エクスプレスが上位を占 めている。これに続いて、クーリエ業者のジェット・サービス、郵便事業の子会社であるクロノポ スト、航空輸送業者のTAT・エクスプレスとなっており、これらで全体の4分の3以上のシェア を占めている。 (3)ドイツの状況 ドイツでは、慣例的に国際小型貨物の範囲と同様に70ポンド(31.5kg)以下の貨物を小 型貨物とするのが通常である。その取扱量については、小型物品送達のみを対象とした統計がなく 公の数値は明らかではないが、ドイツ通信科学研究所によれば、旧西独内の民間企業による小型物 品送達数は約3億個であるという。また民間の調査会社CRESAP TELESIS社によると、1988年の 民間企業による小型物品送達数は約3億個(旧西独内)で、内訳はDPD(Deutsche Paket Dienst) が6,100万個、ドイツUPSが5・300万個、ハームスが4,300万個、トランス−O− フレックスが4,000万個、その他企業が1億300万個としている。