1994年8月:調―94―I―06

『宅配便市場の分析に関する調査研究報告書』

                          特別研究官(神奈川大学教授) 中田 信哉
                               慶応義塾大学助教授 小澤 太郎
                              第一経営経済研究部長 安住  透
                                     研究官 宮尾 好明
                                     研究官 梅村  研
第1章 宅配便の推移
 宅配便の誕生は昭和51年にヤマト運輸が「宅急便」を開始したときである。その時点から現在までの宅配便事業の推移について、取扱い個数の増加状況などから、宅配便サービスの誕生期(昭和51年〜56年)、宅配便を含めた小型物品輸送市場の発展期(昭和57年〜平成元年)、宅配便の安定成長期(平成2年〜現在)に分けることができると考えられる。先発企業のヤマト運輸は輸送ネットワークを拡大することにより取扱個数を伸ばし、既に全国に路線を持っていた日本通運は既存の輸送システムを小型物品送達に適する輸送システムに再編成していった。フットワークは産直品を開発することにより新たな市場を開拓し、西濃運輸は産業貨物の小口化の状況に適応することと同時に宅配便貨物を取り込んでいった。物流サービスをフローとストックに分けると、従来の宅配便サービスはフローに特化していたといえる。しかし、今後は物流拠点を活用してストックの部分も付加したサービスの提供も考えられていくのではないだろうか。

第2章 宅配便の市場類型
 本章では、平成5年に行ったアンケート調査の結果を基に、宅配便の利用主体の特性、利用実態、サービスの内容、サービスに対する認知度や満足度等から宅配便市場の現状についてまとめ、類型化を行っている。内容的には、アンケートからみた利用構造の特徴、業者選定基準からみた宅配便市場、利用業者別宅配便の利用実態、利用業者パターンからみた選定基準特性の分析などを扱っている。

第3章 宅配便の市場構造
 本章では、アンケート調査の結果を基に、利用者の属性、利用の仕方、求めるサービス内容の3つの視点から、宅配便の市場構造について分析している。結果としては、世帯に関連する宅配便市場は、利用の仕方は多様化しているものの、それぞれ求めるサービス内容や業者選定基準があいまいであり、そのために利用者側のニーズや宅配便への評価・要望、宅配便業者側の対応が、それぞれうまく反映しあわず、市場全体の深化・拡大が限定的なものになってしまっているといえる。一方企業に関連する宅配便市場は、利用の仕方の多様化に対応し、それぞれの求めるサービス内容、業者選定基準が細分化しつつある傾向がみられ、市場の成熟段階に入りつつあるとみられる。

第4章 宅配便の個人市場における規模の経済性
 宅配便市場においては寡占化の傾向が著しいが、市場を個人市場と法人市場とに分けて捉えると、個人市場における寡占化は法人市場より顕著である。この原因として、個人市場に特有な規模の経済性が働いていることが推論される。本章では、その規模の経済性が引受部門にあり、そしてその具体的なファクターが消費者のアクセシビリティ(取次店の数)やサービス認知といった需要側のコスト要因であることを述べている。また、宅配便企業のサービス生産モデルを構築し、時系列データに基づいて需要の弾力性を計測し、引受部門の規模の経済性について考察したところ、アクセシビリティに規模の経済性が働いていることを支持する結果を得た。

第5章 宅配便市場における市場行動
 本章では応用ミクロ分析の観点から、宅配便の市場構造・行動に検討を加えている。具体的には、全く異なる行動目的を持つ2つの事業者(ヤマト運輸と日本通運を想定)が存在し、かつ事業者のマーケティング活動の水準が料金設定と対に決定されると考える事によって、製品差別化が存在するにも関わらず、事業者間で料金格差の無い市場において、各事業者の費用条件や宅配便に対する需要の動向が、料金や取扱い個数にどのような影響を与えるかについて分析している。ここでは、ヤマトの行動目的を「サービス供給量の最大化」、日通の行動目的を「宅配便市場で獲得する利潤が、ある下限を下回らないこと」と仮定している。主要な結論は以下の通りである。

 宅配便市場で獲得すべき下限利潤の上昇、固定・限界費用の上昇といった、日通の供給面の条件悪化は、日通の供給量を増加させ、ヤマトの供給量を減少させる。またその時、価格が上昇するのに対して、ヤマトのマーケティング活動の規模は減少する。

 次に、宅配便の密接な代替財である郵便小包の値上げにより宅配便への需要シフトが生じれば、価格は変化せず、需要の増加分はすべてヤマトの供給増加に吸収されてしまい、日通の供給増加には一切結びつかない。この点に関しては、昭和63年度以降、ヤマトがシェアを着実に伸ばしているのに対して、日通のシェアはほぼ横ばいである事から、以上の非対称的分析結果は、需要変動一般に対して現実に支持されていると考えられる。

第6章 宅配便市場の今後の発展方向
 本章では、今後の宅配便の市場及びサービスの進化の発展方向について、マーケティングの見地から検討している。宅配便の市場は成長を続けてきたが、今後は成熟段階に入ると予想される。このため、宅配便企業の市場対応も、「マス・マーケット対応」から「セグメンテッド・マーケット対応」に変わってくると考えられる。宅配便企業は、顧客のニーズの軸と属性の軸をクロスさせることによってすべての宅配便市場を細分化し、細分それぞれを一つの市場として見て、それぞれに対してサービスと付加価値を決めることになる。この細分化は、基本サービスに各細分ごとの付加サービスが付くというものになるであろう。市場細分化政策がとられることによって宅配便市場はまだ成長をすると考えたい。

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