平成16年度 世帯の金融資産及び金融機関の選択等に関する調査研究概要紹介

 


☆ 研究目的 ☆

 

郵政総合研究所では、「家計と貯蓄に関する調査」及び「金融機関利用に関する意識調査」の個票データをもとにしたデータベース(※)を活用して、世帯における金融資産の保有状況や金融機関の利用動向等について、部外有識者の参加を得て、より専門的見地から多角的に研究・分析を行っています。

これにあわせて、当該データベースの活用に際しての問題点等を検証し、データベースや今後実施する調査の改善に資する研究・分析も行っています。

※ プライバシーの保護等の観点からサブサンプル(オリジナルの9割程度のサンプル数)を利用。

 

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☆ 所外研究参加者(五十音順)・研究テーマ ☆

 (所外研究参加者は全員当所客員研究員です。)

 

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平成16年8月10日現在

奥井 めぐみ
 金沢学院大学経営情報学部助教授

[研究1]金融資産に関する年齢効果とコーホート効果
[研究2]家計の危険資産選択行動の変遷
[研究3]ライフステージ別貯蓄目的に関する分析

春日 教測
 長崎大学経済学部助教授
大倉 真人
 長崎大学経済学部助教授

我が国家計世帯における生命保険の加入状況に関する研究

小原 美紀
 大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授

世帯主の失業と不平等の拡大−マクロショックが家計に与えた影響

鈴木 亘
 大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授
周 燕飛
 独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働経済分析部門研究員

[研究1]国民年金未加入者の経済分析
[研究2]年金改革に対する家計行動(貯蓄率、消費水準、資産選択、労働供給行動、遺贈行動)の変化に関する分析
[研究3]個票データを用いた貨幣需要の利子弾力性、所得弾力性の計測及び安定性の検証

[研究4]利子課税制度、証券課税制度変更の情報を利用した貯蓄の利子弾力性及びポートフォリオ選択への影響の計測
[研究5]リバースモーゲージの利用可能性に対する試算と分配上の効果
[研究6]住宅ローン及び住宅デフレによる消費抑制効果の定量的評価

チャールズ・ユウジ・ホリオカ
 大阪大学社会経済研究所教授
若林 緑
 大阪府立大学経済学部専任講師

[研究1]親子関係の分析
[研究2]高齢者の貯蓄行動・消費行動・就業行動の分析
[研究3]老後目的のための貯蓄・退職予定の決定要因に関する分析
[研究4]借り入れ制約に関する分析

松浦 克巳
 広島大学大学院社会科学研究科教授

金融機関の破綻が家計の金融機関・金融商品の選択に与える影響

宮原 勝一
 青山学院大学経済学部助教授

[研究1]家計の借入金(負債)に関する研究
[研究2]地域別にみた金融機関の選択等に関する研究
[研究3]老後の生活と公的年金に関する研究

村田 磨理子
 財団法人 統計情報研究開発センター研究員

部分標本データの安定性について

渡部 和孝
 大阪大学社会経済研究所講師

[研究1]人口の高齢化と不平等度の拡大
[研究2]予備的貯蓄と所得の不確実性の関係

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☆ テーマ概要 ☆

奥井 めぐみ 金沢学院大学経営情報学部助教授

 

[研究1]金融資産に関する年齢効果とコーホート効果

高齢化に伴う人口構成の変化により、国全体の貯蓄がどのように変化するのかを明らかにするためには、年齢による貯蓄額の変化とコーホートによる貯蓄額の違いとを明らかにする必要がある。本研究では、複数年の「家計と貯蓄に関する調査」を利用して擬似パネルデータを作成し、コーホート別に年齢に伴う金融資産の変化を概観する。そして、コーホート効果はどれくらい存在するのか、また、コーホート効果が存在するとすればその原因は何かについても分析することを試みる。

[研究2]家計の危険資産選択行動の変遷

日本はアメリカに比べ、危険資産である株式の保有が少ないことが指摘されている。しかし、近年の低金利やペイオフ解禁に伴う金融機関破綻に対する不安から、家計はリスクとリターンを考慮した合理的な金融資産の選択を行うようになってきたと予想される。そこで、「家計と貯蓄に関する調査」を利用し、近年における家計の危険資産保有の決定要因について分析を行う。近年のペイオフ解禁や証券税制改正の影響も合わせて考える。

[研究3]ライフステージ別貯蓄目的に関する分析

ライフサイクル仮説に基づけば、家計は生涯所得と消費とのバランスを考えて、貯蓄額を決定している。ただし、ライフステージ毎に特に重視する貯蓄目的は異なってくるため、ライフステージに応じて当初の計画を修正することも十分考えられる。そこで、「家計と貯蓄に関する調査」の複数年のデータを利用し、同一コーホートの年齢に伴う主な貯蓄目的の有無の変化を追うことにより、ライフステージに応じてどのように貯蓄目的が修正されていくのかを検討する。

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☆ テーマ概要 ☆

春日 教測 長崎大学経済学部助教授    大倉 真人 長崎大学経済学部助教授

 

我が国家計世帯における生命保険の加入状況に関する研究

本研究の目的は主として以下の2点である。

第1点目は、家計における生命保険の加入状況を把握・分析した上で、近年指摘されている死亡保障商品から生活保障商品へのシフト要因を実証的に明らかにすることである。

第2点目は、保険種類や保険会社の選択に関する家計の意思決定要因について検討することで、マクロ的なデータでは必ずしも明らかになってこなかった生命保険に関する家計の行動パターンを実証的・統計的に裏付けることである。

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☆ テーマ概要 ☆

小原 美紀 大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授

 

世帯主の失業と不平等の拡大−マクロショックが家計に与えた影響

過去10数年におよぶ不況で失業率は急上昇した。同時に、平等社会の崩壊が言わ れるようになった。かつて日本の特徴とも言われた低失業率と平等社会は消滅し たのだろうか。90年代の失業の増加は不平等を拡大させたのだろうか。本研究で は、『家計と貯蓄に関する調査』の世帯および単身票のデータを用いて、所得・ 消費・資産の側面から不平等を包括的に計測し、世帯主が無職である世帯の増加 がそれぞれの格差に与えた影響について分析する。また、失業と不平等の関係に 家計の貯蓄が果たした役割を明らかにする。

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☆ テーマ概要 ☆

鈴木 亘  大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授    周 燕飛 独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働経済分析部門研究員

 

[研究1]国民年金未加入者の経済分析

現在、国民年金は未納者と未加入者を合わせて4割近い人々が保険料を払っておらず、空洞化が叫ばれている。未加入者がどのような人々なのか、どのような動機で加入していないのかという点を解明することは、今後の空洞化対策に不可欠であり、本分析では、空洞化対策への知見をえることを目的とする。具体的には、鈴木・周(2001)「国民年金未加入者の経済分析」『日本経済研究』42号,pp.44-60で行った分析を拡張し、コホート効果を見れるような形で、未加入者の未加入動機を分析する。

[研究2]年金改革に対する家計行動(貯蓄率、消費水準、資産選択、労働供給行動、遺贈行動)の変化に関する分析

この研究では、過去の年金改革に対する家計行動がどれほど反応しているのかを定量的に分析する。5年に1度行われる年金財政計算では、こうした改正に対して、人々の反応を行わないという前提で計画が立てられるが、公的年金の収益率が低ければ、当然、自衛措置として貯蓄率を高めたり、労働供給を高めたり、資産選択、遺贈行動を変更して個人年金を増やすなどの対抗措置をとるはずである。その反応は年金改正にも反映されなければならない。

[研究3]個票データを用いた貨幣需要の利子弾力性、所得弾力性の計測及び安定性の検証

金融政策の運営にとって、貨幣需要の利子弾力性及び所得弾力性の計測は不可欠な情報である。その利子弾力性が長期的に安定していれば、安定的な金融政策運営が設計可能であり、そうした問題意識からマクロデータを使った貨幣需要関数の安定性の研究が数多くなされてきた。しかしながら、近年、個票データを用いたベースでは、マクロデータとは異なる計測結果が現われてくるなど、今後の金融政策運営の帰趨を握る情報が個票データから得られ始めている。金融政策のレジームが変わった1996年までとそれ以降の個票データをプールして用いることにより、貨幣需要関数の安定性やそれぞれの弾力性を計測し、金融政策への知見を得る。

[研究4]利子課税制度、証券課税制度変更の情報を利用した貯蓄の利子弾力性及びポートフォリオ選択への影響の計測

平成18年から行われるマル優廃止による貯蓄や資産選択行動への影響を見るために、過去のマル優変更や証券税制の影響を定量的に評価する。また、この推定によりマクロデータでは得られない、歪みのない利子弾力性が計測されるが、利子弾力性の情報はマクロ経済運営、特に金融政策運営にとって不可欠な情報であり、政策的に有用な知見を得ることができる。資産選択や貯蓄率の変数を特定化した上で、課税制度変更の前後年を比較し、差分の差(Difference in Difference)推定と呼ばれる方法により、その効果を定量的にみる。

[研究5]リバースモーゲージの利用可能性に対する試算と分配上の効果

前回(1999年)及び今回(2004年)の年金改正では年金給付の削減が打ち出され、2回にわたって2割ずつの年金給付水準の引下げが行われた。それに伴い、公的年金受給者の持っている資産、特に住宅資産を流動化して老後の所得を補うリバースモーゲージの価値が見直されている。しかしながら、住宅資産の時価評価額がわかる統計がほとんど存在しないため、リバースモーゲージによる効果がどれほどのものか、定量的な評価をすることが難しくなっている。この研究では、時価評価がわかる「家計における金融資産選択等に関する調査結果」の2000年、1998年の調査を利用し、リバースモーゲージ市場を作った場合の効果について試算し、分配上の効果も評価を行う。

[研究6]住宅ローン及び住宅デフレによる消費抑制効果の定量的評価

長期の景気低迷の大きな原因の一つとして、住宅資産の価格下落によるキャピタルロスが住宅ローンに重くのしかかり、消費不振を招いているといわれる。しかしながら、その効果に関する実証的・定量的評価は皆無である。この点、「家計における金融資産選択等に関する調査結果」は住宅ローン及び住宅資産の時価評価額が尋ねられており、住宅資産の効果をいれた消費関数を推定することにより、定量化が可能であると考えられる。バブル期の88年―92年の時代とその後の期間を比較分析することにより、より厳密な消費抑制効果の試算が可能である。

周客員研究員は、年金改革に対する家計の労働供給行動の変化や国民年金未加入者の問題について研究を行う。まず、過去の年金改革に対する家計の労働供給行動がどれほど反応しているのか、反応しているとすれば今後どの程度まで年金政策に織り込むべきなのかを明らかにする。そして、国民年金の空洞化問題に対する懸念がますます高まる中、未加入者がどのような人々なのか、どのような動機によって加入していないのかという問題点について、擬似パネルデータを作り、世代効果と年齢効果を考慮した分析を行う。

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☆ テーマ概要 ☆

チャールズ・ユウジ・ホリオカ 大阪大学社会経済研究所教授    若林 緑 大阪府立大学経済学部専任講師

 

[研究1]親子関係の分析

親から子への生前贈与・遺産、子から親への経済的援助(仕送り)・世話・介護、親子同居などの間の相互関連の分析

[研究2]高齢者の貯蓄行動・消費行動・就業行動の分析

[研究3]老後目的のための貯蓄・退職予定の決定要因に関する分析

特に老後リス ク(費用リスク、健康リスクなど)の影響

[研究4]借り入れ制約に関する分析

どういった家計が借り入れ制約に直面しており、借り入れ制約に直面している家計の行動が他の家計の行動がどう異なるかに関する分析

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☆ テーマ概要 ☆

松浦 克巳  広島大学大学院社会科学研究科教授

 

金融機関の破綻が家計の金融機関・金融商品の選択に与える影響

生保会社の破綻と保険金削減、マイカル社債のデフォルト、銀行の相次ぐ倒産とペイオフ解禁など、家計の資産選択にとって厳しい状況が続いている。
 家計は何を基準に資産選択を行えばよいのか、厳しい判断を迫られている。より豊かで安定した生活を送るための資産選択の実情と今後の家計の選択肢を考察する。
 1,400兆円といわれる家計の金融資産であるが、その金融資産は偏在している。約3割が1年間貯蓄をせず。15%の家計は現金以外の金融資産を全く保有していない。この資産分布の実情を明らかにし、今後の家計の生活の安定に必要な要因を考察する。。

 

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☆ テーマ概要 ☆

村田 磨理子  財団法人 統計情報研究開発センター研究員

 

部分標本データの安定性について

個票データの公開において、秘密の保護の観点から、標本の一部を抽出する方法をとることがあるが、もとの標本と比較して、推定の誤差が大きくなることや分析結果が異なる場合があることが指摘されている。本研究は、「家計における金融資産選択等に関する調査」、「金融機関利用に関する意識調査」のデータについて、部分標本の抽出方法や抽出率の違いによる分析結果の安定性を検討することを目的とする。
  具体的な分析方法は、以下のとおりである。まず、郵政総合研究所DBのデータから、抽出方法、抽出率の異なる部分標本を作成する。部分標本のデータに多重クロス表、対数線形モデル、回帰モデルによる分析を適用し、推定値の安定性や誤差をおもにブートストラップ法により評価する。

 

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☆ テーマ概要 ☆

渡部 和孝 大阪大学社会経済研究所講師

 

[研究1]人口の高齢化と不平等度の拡大

本研究においては、所得の不平等度の大きさ(分散の大きさ)に起因する資産保有額の不平等度と加齢の関係について検証、所得税、資産課税等、ミクロ経済政策についてのインプリケーションを導くことを目的とする。分析にあたっては、金融資産保有額に加え、実物資産保有額についても詳細な調査が行われている「家計における金融資産選択に関する調査」(以下、「金融資産選択調査」という)の各回調査のミクロ・データを用いる。

[研究2]予備的貯蓄と所得の不確実性の関係

本研究は、Christopher Carroll等により提唱されたバッファー・(緩衝)ストック貯蓄理論の妥当性の検証を通じた家計の貯蓄行動の解明を目的とする。分析にあたっては、「金融資産選択調査」の各回調査のミクロ・データを用い、年齢、職業等、家計の特性を考慮しつつ、失業、所得の予期せぬ変化等、家計が直面する不確実性の程度を推計、「金融資産選択調査」の調査項目となっている予備的目的での貯蓄額との統計的関係を検証する。

 

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