本稿では、「家計における金融資産選択に関する調査」の個票データを用いて、遺産を相続したことがある人(以下、「相続経験者」という。)の意識について分析した結果を報告する。この調査は、昭和63年以来2年に1度全国の一般世帯を対象として遺産についての意識と実態を把握しており、そのデータを分析することで日本人の近年の遺産に対する意識とその変化を捉えることが出来ると考えられる。
遺産をキーワードとした先行研究は数少なく1)、その結果からは、日
本人はライフ・サイクル・モデル2)に基づいた遺産行動をとる傾向が強く、また、遺産を相続する場合には不動産を相続する割合が多いことが知られている。本稿の分析でも、同様の結果が得られた。しかし、遺産行動のすべてがライフ・サイクル・モデルで説明出来るかについては疑問が残る。例えば、相続経験者と遺産を相続したことがない人(以下、「相続未経験者」という。)では経済的な側面からみた場合、明らかに相続経験者の方が経済的な優位(資産が多いという意味で)にあると考えるのは自然である。
そこで本稿では、まず第一に遺産相続による経済的優位性を論点のスタートポイントとして、相続経験者と未経験者の間における意識の比較分析を行ってみた。
特徴的な分析結果として、相続経験者と相続未経験者では遺産についての意識が大きく異なることが明らかになり、(1)遺産を残すことに対する積極的な意識の有無、(2)残したい資産の金額、(3)残したい資産の種類、(4)遺産の分け方、などに関し、様々な面で顕著な相違が見られた。この傾向は過去ほぼ10年間一貫しており日本人の遺産に対する意識構造の特色を形成していることが推測される。
第二に、時系列的に意識構造の変化を追ってみると、バブル崩壊の1990年以降、(1)相続経験者、未経験者に関わらず保有資産の減少に伴い残したい資産額も減少傾向にある、(2)残したい資産額が2,000万円以下の階層が大きく伸びている、ことなどから、バブル崩壊以後の不動産を始めとする保有資産額の下落傾向が、残したい資産金額の意識形成に大きく影響していることが見て取れた。 |