郵政研究所ディスカッション・ペーパー・シリーズ No.1998-10

 

 

  借入資金の選択メカニズム:日本における社債発行のケース*

 

 

福田慎一**

計 聡***

中村彰宏****

 

1998.7.10

 

*本稿は、筆者たちが郵政研究所第二経営経済研究部で行った研究プロジェクトの成果の一部をまとめたものである。本稿をまとめるにあたっては、第10回郵政研究所研究発表会のコメンテーターである三井清先生に大変有益なコメントをいただいた。なお、言うまでもなく。本稿の内容は筆者たち個人の見解を示したものであり、不備が残されているとすれば筆者たち個人の責任である。
** 東京大学大学院経済学研究科・経済学部
*** 敬愛大学経済学部
****郵政研究所第二経営経済研究部

 

 


1 はじめに

 戦後の日本においては長い間、ほぼすべての企業にとって銀行借入が主要な外部資金の調達手段であり、社債発行による資金調達のウエイトはきわめて小さかった。これは、社債の発行に関しては、有担保原則や適債基準が存在し、企業規模や財務内容によって社債発行の適格性や発行条件が厳しく限定されていたからである。しかしながら、金融の自由化に伴い、わが国の社債の発行市場でも徐々に規制の緩和が行われた。特に、表1からもわかるように、1980年代後半以降その規制緩和のスピードは速まり、1995年末にはついに社債を発行する企業の資格を入口で制限してきた適債基準が撤廃され、発行市場がほぼ完全に自由化されることとなった。

 本稿の目的は、日本の金融市場において社債の発行市場における自由化が進展する中で、社債発行による長期資金をどのようなタイプの日本企業が需要してきたかを考察することにある。本稿における分析の大きな特徴は、資金調達の際の社債発行と銀行借入の間の選択問題を流動化(liquidation)のコストという観点から提示し、1980年代後半以降の日本企業を対象として理論的に導かれたインプリケーションの妥当性を実証的に検討する点にある。一般に、市場メカニズムが理想的な形で機能する場合、金融の自由化は資源配分上望ましい効果を経済に及ぼす。しかしながら、実際には情報の非対称性や不完備契約の存在によって、金融自由化後の金融市場においてもさまざまな非効率は残る。本稿で考察する問題もそのような不完備な金融市場での資金選択の問題であり、それらを検討することによって、それまで制度的な制約から不完備であった日本の金融市場が、自由化後もいかなる不完備性を残すことになったのかが間接的ではあるが検証されることになる。

 ところで、これまでに短期資金と長期資金の選択問題を流動化コストという観点から理論的に考察した代表的な研究の1つは、Diamond(1991a,1993)である。1)そこでは、貸し手と借り手の間でプロジェクトの成功確率に関する事前情報に非対称性が存在するケースが考察され、逆選択(adverse selection)の存在によって、企業は長期資金を選択することもあれば、短期資金を選択することもあることが明らかにされた。一般にプロジェクトの成功確率に関して情報の非対称性が存在する場合、企業の経営者には短期資金を選択するインセンティブが生まれる。これは、短期を借り入れた場合、企業は逐次的に入ってくる情報を織り込みながら資金の再借り入れをすることができるからである。2)しかし、かりに株主に立証する(verify)ことのできない利益が経営者に存在する場合、経営者にとって長期プロジェクトが途中で流動化されてしまうことは非常に大きなコストとなる。したがって、この場合、経営者は逆に長期資金を選択するインセンティブが生まれるのである。Diamondは、これら2つのタイプの効果を取り込み、企業経営者の融資期間の選択問題を定式化した。

 これまでの日本の実証研究では、福田・河原・小原・計(1997)やFukuda-Ji-Nakamura(1997)が、このDiamondと同様の観点から、どのような特性をもつ企業に長期の資金調達が多かったかを実証的に検討した。その結果、長期資金を金融機関からの長期借入金に限定した場合、おおむねDiamondタイプの理論仮説と整合的であることを明らかにした。特に、Fukuda-Ji-Nakamuraは、Diamondタイプの理論仮説が、日本では情報の非対称性が大きい2部上場企業や金融自由化が進んだ1980年代以降により顕著に支持されることを示した。しかし、福田・河原・小原・計は、長期資金として社債を考慮した場合には、1980年代以降においても日本における実証結果がDiamondタイプの理論仮説と整合的ではないことも明らかにした。

 一方、Hoshi, Kashyap and Scharfstein (1993)は、本稿とは異なる観点から日本企業の社債と銀行借入の選択問題を検討し、適債基準を考慮した後でも自己資本比率が社債発行に大きなプラスの効果があること、および社債は優良なグループ企業と業績の良くないオーナー経営の企業で発行される傾向にあったことを明らかにした。また、Horiuchi (1996)は、社債発行の問題を1980年代後半の転換社債発行に限定し、その時期に転換社債を発行した企業は相対的にその後の利益率が低かったことを実証的に示した。3)

 本稿の分析目的は、1995年末まで社債発行に関して適債基準が存在していたことを考慮した場合に、社債を長期資金に含めた日本の実証結果が流動化コストに関する理論仮説と整合的となるかどうかを実証的に検討することにある。具体的には、(i)適債基準が主として自己資本比率の大小によって決定されていたこと、(ii)自己資本比率は負債比率と負の相関を持つこと、(iii)適債基準が1980年代後半から毎年のように緩和されたことの3点を考慮して推計式を修正し、そのもとで社債が長期資金としてDiamondタイプの理論仮説と整合的に選択されてきたかどうかを実証的に検討する。

 論文は、まず、簡単に流動化コストを取り入れたモデルの概要を説明し、そこから導かれる理論仮説として、(1)平均収益が大きい企業ほど長期資金を選択する傾向にある、(2)経営者固有の利益が大きい企業ほど長期融資を選択する傾向にある、(3)債務額が多い企業ほど長期融資を選択する傾向にある、という3つの仮説を提示する。次に、以上の3つの仮説をもとに、1980年後半以降の日本企業のデータを用いて、どのような特性をもつ企業に長期資金としての社債発行が多かったかを実証的に検討する。

 分析の結果、まず、長期資金を社債発行に限定した場合、平均収益が高いが株価は低い企業で長期資金として社債発行を選択する傾向があることが明らかにされる。これらの実証結果はおおむねモデルから導かれる理論仮説と整合的であり、この点では日本企業の社債発行が流動化コストを小さくするという企業行動で表現できることが示される。次に、実証結果では、負債比率が低い企業においても、長期資金として社債発行が選択される傾向にあることが示される。この実証結果は理論仮説と一見矛盾するものである。しかし、適債基準が主として自己資本比率の大小によって決定されていたこと、および自己資本比率は負債比率と負の相関を持つことの2点を考えた場合、この結果はある意味で予想される結果である。実際、適債基準が1980年代後半から毎年のように緩和された点を考慮して推計式を修正した場合、近年では負債比率の観点からも日本企業の社債発行が流動化コストを小さくするという企業行動に近づいたことが示される。

 本稿の構成は、以下の通りである。まず、2節において理論モデルの前提条件を説明したのち、3節では長期資金が選択されるための条件を示し、それがどのような要因によって影響を受けるかに関する理論仮説を明らかにする。4節以降では、それまでの理論モデルの結果の妥当性が実証的に検証される。まず4節では実証分析に用いる推計式とデータを説明し、5節と6節では長期借入金比率に関してその実証結果を提示する。また、7節では、実証結果の若干の拡張を試みる。最後に、8節では、分析の主要な結果をまとめ、残された問題点について議論する。

 

2 簡単な長期資金の選択問題

 この節では、長期プロジェクトが流動化(liquidation)される可能性がある場合に、資金を借り入れる企業が短期資金と長期資金のどちらを選択するかの問題を簡単に考察する。一般にプロジェクトの成功確率に関して情報の非対称性が存在する場合、企業の経営者には短期資金を選択するインセンティブが生まれる。これは、短期借入の場合、企業は逐次的に入ってくる情報を織り込みながら資金の再借入ができるからである。しかし、経営者にとって長期プロジェクトが途中で流動化されることは非常に大きなコストとなる。特に、株主に立証する(verify)ことのできない利益が経営者に存在する場合、そのコストは大きくなる。したがって、長期プロジェクトが途中で流動化される可能性がある場合、経営者は長期資金を選択するインセンティブが生まれる。 

 たとえば、各企業が長期プロジェクトを実行する上で必要な資金を、短期資金のロール・オーバーによって借り入れるか、それとも長期の資金によって借り入れるかの問題として考えてみよう。議論を簡単にするため企業の長期プロジェクトは、2期間にわたる(すなわち、第0期にプロジェクトを開始し、第2期に終了する)ものとする。また、この長期プロジェクトは、2期間継続して資金を投入できた場合にのみ、第2期の終わりに一定の収益を一定の確率で生み出すことができるものとする。

 この場合、各プロジェクトに対する借入期間が1期間のみの借入を「短期資金」、借入期間が2期間にわたる借入を「長期資金」と呼ぶとすると、長期プロジェクトの継続性に関して、長期資金と短期資金は異なる含意を持つ。なぜなら、長期資金が選ばれた場合には資金供給は通常は第2期の終わりまで継続されるが、短期借入の場合には第1期に再び貸出すべきかどうかの見直しが行われ、場合によっては貸出のロールオーバーが行われない可能性があるからである。したがって、短期借入を選択した場合には、企業の経営者は、長期プロジェクトが続行不可能となり、第2期にはなんらの収益を生み出すことができないという流動化のコストを負うことになる。4)

 このような流動化のコストは、他の条件を一定とした場合、長期プロジェクトが第2期の終わりに生み出すことのできる収益が多ければ多いほど大きくなる。したがって、長期プロジェクトを通じて得ることのできる会計上の利益(以下では、Xと表す)が、企業に長期資金を選択させる1つの指標となる。しかし、それに加えて、会計上は利益として計上されなくとも、長期プロジェクトを成功させた企業の経営者に価値があるものも流動化コストの指標となると考えられる。なぜなら、会計上は利益として計上されなくとも、長期プロジェクトを成功させた経営者に価値があるものである限り、経営者はそれを流動化コストと考え、長期資金の選択を考えるからである。

 そのような経営者にとっては価値があるが債権者や株主にとっては価値ないレント(以下では、Cと表す)としては、たとえば、経営者の名声などがあげられる。すなわち、経営者はその長期プロジェクトに成功することによってその経営者としての名声を高めることができるが、そのような名声は経営者に固有のものであり、債権者や株主がそれに対して金銭的な請求契約を結ぶことができない。しかし、仮に債権者や株主にとっては回収することができないレントであったとしても、経営者にとっては価値がある限り、それを失う可能性があることは経営者にとって流動化コストとなる。したがって、このようなレントCも、その大小が企業に長期資金を選択させる1つの指標となる。

 企業の長期資金の選択に影響を与えるこれらXやCといった指標を、具体的にどのような企業の特性によってとらえることができるかは議論の余地があるかもしれない。しかし、営業利益を総資産で割った[営業利益率]の平均値は、長期プロジェクトの平均収益 X にほぼ対応しているものと考えられる。一方、株主には分配されない経営者固有のレントCは、少なくとも部分的には株価の動きに反映されると考えられる。なぜなら、このようなレントが大きい企業ほど、そのエージェンシー・コストは株価の下落という形で評価されるからである。したがって、各年度末の株価をその企業の純資産で割った「株価純資産倍率」は、C に反比例する代理変数として考えることができる。

 

3 借入額の効果

 多くの場合、企業が長期プロジェクトを実行するためには、自らが保有する自己資金だけでは十分ではない。したがって、この場合、企業は初期時点で資金を外部から調達し、それを短期資金のロール・オーバーまたは長期資金によって継続して投入し続ける必要がある。

 一般には、このような初期時点での総負債額の大小、あるいは内部資金の大小が、企業の借入形態にどのような影響を与えるかは必ずしも明らかではない。そこで、福田・河原・小原・計(1997)やFukuda-Ji-Nakamura(1997)は、初期時点での総負債額や内部資金の大小が長期資金と短期資金の選択問題に与える効果を理論的に分析し、その結果、総負債額が大きい企業ほど、あるいは内部資金が小さい企業ほど、長期資金を選択する傾向にあることを示した。そこでの議論で重要となったのが、長期プロジェクトが途中で流動化された場合に発生するスクラップ・バリューの存在である。このスクラップ・バリューは、長期プロジェクトが最後まで継続された場合に生み出される収益よりは小さい。しかしながら、貸し手にとってスクラップ・バリューは貸出を中断した場合に回収できる唯一の価値であるので、その大小は初期時点での短期の利子率に影響を与える。

 具体的には、総負債額に対するスクラップ・バリューの値が大きければ大きいほど、短期の利子率が低くなり、それだけ企業が短期資金を選択するインセンティブを高めることになるのである。これを換言すれば、スクラップ・バリューの値を一定とした場合、総負債額が大きければ大きいほど、短期の利子率が高くなり、それだけ企業が長期資金を選択する傾向が高まることになるのである。

 以下では、これらの理論モデルの結果をもとに、どのような特性をもつ企業において社債という長期資金が選択される傾向にあったかを実証的に検討していくことにする。具体的には、われわれは、上記の結果をもとに、以下の3つの仮説を検討することにする。すなわち、

仮説1:長期プロジェクトから得ることのできる平均収益 X が大きい企業ほど、長期資金を選択する傾向にある。

仮説2:経営者のエージェンシー・コスト C が大きい企業ほど、長期資金を選択する傾向にある。

仮説3:総負債額が大きい企業ほど、長期資金を選択する傾向にある。

という3つの仮説を設定し、その妥当性を1980年代後半以降の日本企業を対象としたパネル分析を用いて検討する。

 なお、これまでの実証研究では、福田・河原・小原・計(1997)やFukuda-Ji-Nakamura(1997)が、1970年以降の日本企業を対象としたパネル分析を用いてこれらの仮説を検証し、長期資金を金融機関からの長期借入金に限定した場合、おおむね理論仮説と整合的であることを明らかにしている。特に、Fukuda-Ji-Nakamuraは、Diamondタイプの理論仮説が、日本では情報の非対称性が大きい2部上場企業や金融自由化が進んだ1980年代以降により顕著に支持されることを示している。以下の分析の関心は、同様の結果が社債発行を長期資金に含めた場合にもやはり成立するかどうかを検討することにある。

 

4 実証分析:推計式と予備的推計結果

 以下では、前節で提示した3つの理論仮説をもとに、どのような特性をもつ企業において社債発行による長期資金調達が選択される傾向にあったかを、1980年代後半以降の日本企業を対象として検討していくことにする。以下の分析では、資金の流れを長期資金と短期資金という観点からとらえるため、各企業の負債のうち、社債を「長期資金」、その他の借り入れを「短期資金」とする。この分類では、金融機関からの長期借入金も短期資金に分類されてしまうという問題点がある。しかしながら、金融機関の借入金は満期が1年未満のものと1年を超えるものに分類されるのみであるというデーター制約がある。また、通常、金融機関からの借り入れは長期借入であってもその満期が社債のそれよりもずっと短い。したがって、社債発行残高がその企業の負債総額のなかでどれくらいのウエイトを占めているかで「社債比率」を計算し、この比率を使って長期資金比率に影響を与えるのはどのような企業特性であるかを分析する。

 以下の分析に用いた企業特性は、[営業利益率]の平均値、[株価純資産倍率]、[負債比率]の3つである。具体的には、各企業の前年度の営業利益を総資産でわった「営業利益率」を計算し、その過去3年度の平均が長期プロジェクトの平均収益 X にほぼ対応しているものとして利用した。また、株主には分配されない経営者固有の利益が大きい企業ほど、そのエージェンシー・コストは株価の下落という形で評価されるものと考え、各年度末の株価をその企業の純資産でわった「株価純資産倍率」を C に反比例する代理変数として計算し、その前年度の値を変数として用いた。さらに、負債額の大小をとらえるため、各企業の負債総額を総資産で割った「負債比率」を計算し、その前年度の値を用いた。

 そして、これらの変数を用いて、定数項を含む次のような式をパネル分析によって推計した。

(1) 社債比率 = a*[営業利益率] + b*[株価純資産倍率]

              + c*[負債比率]

 仮説2が成立するもとでは係数"b"の推計値は正となる一方、仮説1および仮説3が成立するもとでは係数"a"および"c"の推計値はいずれもマイナスとなることが期待される。

 以下の推計で使用するデータは、いずれも日本経済新聞社のNEEDS-COMPANYに収録されている企業別データであり、そのオリジナルは各企業の財務データである。分析期間は、社債発行基準が比較的緩和したと考えられる1986年度から適債基準が完全に自由化される直前の95年度まである。また、分析の対象とした企業は、鉄鋼、化学、非鉄金属、輸送機器(ただし、造船、自動車を含む)、電気機器のいずれかに属する一部および二部上場企業である。ただし、分析期間中、使用するデータのいずれかが入手できない企業は分析の対象からはずした。さらに、分析の期間中、総負債額がゼロとなる企業や純資産額がマイナスとなる企業も分析の対象からはずした。

 そして、これらの企業を対象として、長期借入金比率の決定要因に関するパネル分析を、5つの産業のデータをプールした推計(ただし、産業ダミーは含む)と、個別の産業ごとの推計の両方を行った。ただし、実際に社債を発行した企業の割合を具体的にみてみると、その数は特に1980年代では企業数全体からみて決して多いとはいえず、はじめはごく一部の企業の間で金融機関からの借り入れから社債の発行へという長期資金の調達方法の変化が進んだといえる。そこで、推定では、パネル分析をトービット・モデルを用いて行った。また、推計は、説明変数に被説明変数のラグ付き内生変数を含めないケースと含めたケースの両方を推計した。

 表2は、ラグ付き内生変数を含めないケースと含めたケースそれぞれについて、トービット・モデルの推計結果をまとめたものである。まず、いずれの推計においても、[営業利益率]の係数"a"の推計値は正で、理論仮説を支持するものとなっていた。また、そのt値は非鉄金属や輸送機械のように統計的に有意ではないケースもあったが、鉄鋼、電機機械、それに5つの産業のデータをプールした推計(ただし、産業ダミーは含む)ではすべて統計的に有意にゼロとは異なっていた。

 一方、[株価純資産倍率]の係数"b"の推計値は、ラグ付き内生変数を含めるか否かに関わらず、輸送機械を除いてすべて負で、おおむねわれわれの仮説を支持するものとなった。特に、符号条件を満たさない輸送機械を除けば、t値もすべてのケースで統計的に有意にゼロとは異なっており、結果の当てはまり具合は良好であった。

 これに対して、[負債比率]の係数"c"の推計値は、ラグ付き内生変数を含めないケースでは、すべてのケースで負で、しかもt値はすべてが統計的に有意にゼロとは異なっていた。したがって、これら[負債比率]の推計値は、仮説3と全く矛盾する結果であったといえる。ただし、ラグ付き内生変数を含めた場合には、輸送機械を例外として[負債比率]のマイナスの推計値は統計的に有意ではなくなり、化学では有意ではないが符号も正となった。

 

5 実証分析:適債基準を考慮した推計結果

 以上のように、表2に示された(1)式の推計結果は、[営業利益率]と[株価純資産倍率]の係数については、おおむねわれわれの仮説を支持するものといえる。ただし、全体としては、特にラグ付き内生変数を含めないケースで、[負債比率]の符号条件が逆であり、仮説と矛盾する結果であった。

 もっとも、[負債比率]の係数がマイナスと推計された結果は、社債発行に関する適債基準が主として自己資本比率の大小によって決定されていたことを考慮した場合、それほど不思議なものではない。なぜなら、データの定義から、各企業の[負債比率]と[自己資本比率]の合計は常に1となり、[負債比率]は[自己資本比率]が大きいほど小さくなるという関係が成立しているからである。実際、ラグ付き内生変数を含めた場合には、輸送機械を例外として[負債比率]のマイナスの推計値は統計的に有意ではなったのは、ラグ付き内生変数に各企業の(少なくとも前期までの)適債基準に関する情報が含まれているからとも考えられる。

 そこでこの節では、マイナスであった[負債比率]の係数が時間とともにゼロに近くなり、最近では正へと転じているかどうかをみることによって、社債発行に関する適債基準の存在がわれわれの推計結果にどれくらい影響を与えていたかを検討する。本稿のはじめにも述べたように、金融の自由化によって1980年代以降には、社債市場においてもその発行に必要な適債基準が徐々に緩和され、それに伴い、日本企業の社債発行による資金調達も大幅に増加した。特に、表1でみたように、1980年代後半以降は毎年のように適債基準が緩和され、1995年末にはついに社債を発行する企業の資格を入口で制限してきた適債基準が撤廃され、発行市場がほぼ完全に自由化されることとなった。

 そこで以下では、適債基準が1980年代後半から毎年のように緩和された点を考慮して推計式を修正した場合に、近年では負債比率の観点からも日本企業の社債発行が流動化コストを小さくするという企業行動で表現できるようになってきたかどうかを検証する。前節と同様に、分析に用いた企業特性は、[営業利益率]の平均値、[株価純資産倍率]、[負債比率]の3つである。ただし、適債基準の緩和の影響をとらえるため、[負債比率]の係数にタイム・トレンド・ダミーを加えた。具体的には、定数項を含む次のような式を、1986年度から95年度までの期間のデータを使ってトービット・モデルによって推計した。

(2) 社債比率 = a*[営業利益率] + b*[株価純資産倍率]

              + (c + d*タイム・トレンド)*[負債比率]

  表3は、上式についてのトービット・モデルの推計結果をまとめたものである。前節までの結果と同様に、(2)式の推計においても、ほぼすべてのケースにおいて、[営業利益率]の係数"a"の推計値は正、また[株価純資産倍率]の係数"b"の推計値は負で、理論仮説を支持するものとなっていた。また、それらのt値も統計的に有意なケースが多く、おおむねわれわれの仮説を支持するものとなった。

 一方、[負債比率]の係数は、タイム・トレンドの効果を考慮しない場合、やはりすべてのケースで負で、しかもt値はすべてが統計的に有意にゼロとは異なっていた。しかし、[負債比率]の係数タイム・ダミーの係数"d"は、化学を例外としてほぼすべてのケースにおいて正で、かつそのt値も統計的に有意なものが大半であった。この結果は、1980年代後半以降、適債基準が毎年のように緩和されたのに伴い、[負債比率]のマイナスの推計値は次第にゼロに近づいており、長期的には理論モデルから導かれるような正の符号へと転じる可能性が高いことを示している。

 

6 長期借入金から社債発行へ

 1970年以降の日本企業の資金調達の形態を概観した場合、1980年代になって金融機関からの借入が相対的に減少し、そのかわりに社債や自己資金による資金調達が増加したことが観察される。また、金融機関からの借入金のなかでも長期借入金の低下が顕著で、金融機関からの借入金に占める長期借入金の比率は1980年代になって大きく低下している。

 たとえば、図1は、われわれが以下の分析対象としている5つの産業(鉄鋼、化学、非鉄金属、輸送機器、電気機器)に属する一部および二部上場企業の借入金に占める長期借入金(満期が1年を超えるもの)の比率および総負債に占める社債比率を平均してグラフに表したものである。図から、長期借入金の比率が1980年代を通じて徐々に低下し、その代わりに社債比率が上昇していったことが読み取れる。以上の結果は、1980年代以降の日本企業の資金調達の特徴として、全体としてみれば企業の長期資金の調達方法が金融機関からの長期借入金から社債の発行へと変化していったことを示している。

 実際、個別の企業データを使ってみた場合、1970年代に長期借入金に大きく依存していた企業ほど、1980年代後半以降に社債比率が高くなっていることが読みとれる。たとえば、1986年度から95年度までの期間のデータを使って、定数項を含む以下の式

(3) 社債比率 = f*[70年代の長期借入金比率] + a*[営業利益率]

         + b*[株価純資産倍率] + c*[負債比率]

 をトービット・モデルによって推計した場合、結果は表4のようになる。

 (3)式における説明変数のうちの[70年代の長期借入金比率]とは、各企業ごとの1970年から79年までの借入金に占める長期借入金(満期が1年を超えるもの)の比率の平均値を計算したものである。いずれの推計においても、この[70年代の長期借入金比率]の係数"f"の推計値は正で、かつそれらのt値も統計的に有意なケースが多かった。したがって、1970年代に長期借入金に大きく依存していた企業ほど、1980年代後半以降に社債比率が高かったことが読みとれる。また、前節までの結果と同様に、(3)式の推計においても、ほぼすべてのケースにおいて、[営業利益率]の係数は正、[株価純資産倍率]の係数は負、[負債比率]の係数は負となっていた。

 

7 若干の拡張

 これまでの節の実証分析では、対象期間を社債発行基準が比較的緩和したと考えられる1986年度以降に限定して分析を行ってきた。これは、適債基準やその他の制度的な理由によって社債発行が限定されている場合、われわれが検証しようとする流動化コストという観点からの短期資金と長期資金の選択問題は意味がなくなってしまうからである。しかし、このことを裏返して考えてみれば、1980年代前半以前のデータを使って(1)式を推計した場合には1980年代後半のデータとは異なり、われわれの理論仮説と矛盾する結果が得られることを示唆するものといえる。また、1980年代後半以降であっても、適債基準がまず緩和されたのは大企業であり、中小企業レベルでの緩和はそれよりも遅かったと考えられる。したがって、1980年代後半以降のデータを使って(1)式を推計した場合でも、より規模の小さい二部上場企業では推計結果は必ずしもわれわれの理論仮説と整合的でないかもしれない。

 そこで、この節では、前節までの結果が金融自由化後の日本の金融市場に特有なものであることをみるために、1980年代前半以前のデータおよび二部上場企業のデータをそれぞれ使って再推計を試みた。1980年代前半以前のデータを使った推計の具体的な推計期間は、1970年度から1985年度までである。ただし、推計に用いた産業、データ・ソース、および推計方法は前節までと全く同様である。

 1980年代前半以前のデータを使って(1)式を推計した結果は、表5にまとめられている。表5で示された推計結果は、[負債比率]の係数が有意にマイナスであるという点ではこれまでの結果と共通している。この結果は、この時期には社債発行に関する適債基準が厳しく、社債発行が主として自己資本比率の大小によって決定されていたことを強く反映しているものと考えられる。一方、[営業利益率]と[株価純資産倍率]の係数については、統計的に有意なものは少なく、かつ産業ごとにその符号もバラバラであった。この結果は、われわれの仮説を支持するものであった前節までの結果とは対照的であり、1980年代前半以前ではわれわれの理論仮説は予想通り全く成立しないことを示しているといえる。

 一方、1980年代後半以降のデータを、一部上場企業と二部上場企業に分類して推計した結果は、表6にまとめられている。いずれも、1980年代後半以降に適債基準が徐々に緩和されていったことを考慮するため、[負債比率]の係数にタイムトレンド・ダミーを加えた(2)式の推計結果を示したものである。表6の結果をみてまずいえることは、一部上場企業での推計結果は、符号条件およびその統計的有意性において、おおよそ前節までの推計結果と同じであるということである。これに対して、二部上場企業は、符号条件はおおよそ満たしているものの、その統計的有意性は[負債比率]の係数を除けば、一部上場企業に比べてかなり悪いことが読みとれる。この結果は、1980年代後半以降であっても中小企業レベルでの適債基準緩和は遅かったという事実と整合的であり、1980年代後半以降でも、われわれの理論仮説は適債基準がより早く緩和されつつあった大企業の推計においてより整合的だったことを示している。

 

8 まとめ

 これまでの研究では、戦後日本の金融市場の特徴の1つとして、「長期資金」の果たした役割がしばしば強調されてきた。特に、寺西重郎(寺西(1982)、堀内・大瀧(1987)、武井・寺西(1991))らは、政策金融、社債、および長期信用銀行といった長期資金の供給が、戦後日本の高度成長を促進する上で大きな役割を果たし、5)政策金融や社債によって供給された資金がその時期に政策的に特定の分野に配分されてきたことを指摘している。しかしながら、近年では金融自由化が進展し、少なくとも民間金融機関を通じた長期資金の流れは、以前のように政策的に決定される側面は小さくなってきている6)。このため、近年の日本経済においてどのような企業が長期借入や社債発行の決定は、民間企業あるいはその経営者の最適化行動の結果として選択されるとする考え方がより妥当なものとなりつつある。本稿の分析では、このような考え方が社債市場においても近年どの程度当てはまるようになってきたかを検討した。

本稿では、まず、長期資金がどのようにして選択されるかを理論的に考察し、その選択は各企業の属性に依存することを指摘した。次に、1980年代後半以降の日本企業を例にとることによって、この理論的結果が社債発行に関してどれくらい妥当するかについての実証分析を行った。その結果、社債発行は、平均収益が大きく、経営者固有の利益が大きい企業ほど選択される傾向にあり、これらの実証結果はわれわれの理論仮説と整合的であることが示された。一方、負債比率に関しては、理論仮説とは反対に、負債比率が小さい企業ほど社債発行を選択する傾向にあることが明らかにされた。ただし、この実証結果は適債基準の存在を考慮すると説明がつく結果であり、適債基準が緩和された近年ではより理論仮説と整合的になりつつあることが示された。

 もちろん、本稿で議論したもの以外にも、社債発行の決定に影響を及ぼすと考えられる要因は存在する。その1つが、企業のモラル・ハザード(moral hazard)やreputationである。たとえば、事前には企業は同一であるが、その努力水準の差異によってプロジェクトの成功率が異なる状況を考えてみよう。この場合、モラル・ハザードは、企業が長期資金を選択する場合の方が短期資金を選択する場合よりも大きくなる。これは、短期資金の場合には、貸し手のモニタリングによって、企業の努力水準をより望ましい水準まで高めることができるからである。7)しかしながら、貸し手がモニタリングを行うには、一定のコストがかかる。したがって、モニタリングによる便益とコストの相対的な大きさに依存して、企業は長期資金を選択することもあれば、短期資金を選択することになる。すなわち、モラル・ハザードが深刻で貸し手によるモニタリングが必要な企業は短期資金を選択するが、すでにreputationが確立され、追加的なモニタリングをさほど必要としない企業は長期資金を選択することになるのである。8)これらの要因が日本企業の社債発行に関してどれくらい重要なのかは、それ自体、今後の重要な研究テーマとなりうるものである。

 

 

参考文献

 

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1) 関連したその他の研究例としては、Hart and Moore(1994,1995), Rajan(1992), Von Thadden(1995)などがある。

2) たとえば、Flannery(1986)参照。

3) これらの研究にほかにも、日向野(1993)は日本企業の社債発行発行の問題をメインバンク制との関係から分析している。一方、マッケンジー(1996)は、短期資金としてのCPを発行する日本企業の特性を実証的に検討している。

4) 短期借入を選択した場合、効率的なプロジェクトですら流動化される可能性がある。プロジェクトの質に関して貸し手が十分に知らないという情報の非対称性が存在するケースはその1つである。また、プロジェクトを複数の民間の金融機関の融資によってまかなった場合、かりにプロジェクトになんらの欠陥がなくとも、プロジェクトは失敗に終わってしまうことがある。これは、融資を行なっている金融機関の一部が何らかの理由で途中で融資を中止した場合、他の金融機関も貸し付けた資金を回収しようと融資を中止(いわゆる、取付けの発生)してしまうからである(この種の考え方の詳細は、Diamond and Dybvig(1983)を参照)。

5) Packer(1994)は、長期信用銀行の果たした役割に関して概説を行っている。

6) 最近の長期金融機関の資金の流れに関する分析としては、たとえば、植田(1994)を参照のこと。

7) この主張は、Myers and Majluf(1984)によるものと本質的に同じである。

8) この主張は、Diamond(1991b)によるものと共通している。


表1 社債発行に関する主な規制緩和

1977年4月

公募事業の格付けは適債基準と格付基準の2種の基準によって構成

1977年5月 社債発行限度暫定措置法公布
初の非居住者ユーロ円債発行
1979年2月 適債基準および財部制限条項を設定、無担保社債発行を優良企業に限定
3月 戦後初の無担保普通社債(サムライ債)発行(シアーズ・ローバック
4月 完全無担保転換社債発行(松下電産)
5月 本邦企業の海外事業債発行が国内発行を凌駕
1981年12月 国内初の新株引受権付社債発行
1983年1月 転換社債の適債基準を緩和
1984年4月 普通社債の適債基準を緩和(1回目)
転換社債の適債基準を緩和(2回目)
1985年1月 完全無担保普通社債発行の財務制限条項設定
国内で戦後初の完全無担保普通社債発行(TDK)
4月 初の居住者ユーロ円債発行
7月 転換社債の適債基準を緩和(3回目)
10月 普通社債の適債基準を緩和(2回目)
1986年9月 事業債等一般債のマーケット・メイク開始
1987年2月  普通社債の適債基準緩和(3回目:数値基準の引き下げ、一定以上の格 付の企業については数値基準に拘わらずフリーパスとなる等)
転換社債の適債基準を緩和(4回目)
4月 プロポーザル方式導入(NTT債に初適用)
6月 国内無担保SB・CBの財務制限条項緩和(1回目)
1987年6月 国内無担保普通社債/転換社債の財務制限条項緩和 (各条項の緩和および一定の格付以上の企業においては任意とする等)
1988年5月 発行登録制度導入(10月施行)
11月 普通社債の適債基準を緩和(4回目)
転換社債の適債基準を緩和(5回目)
1989年1月 本邦企業の外債の適債基準緩和
1990年11月 普通社債/転換社債の適債基準に関し数値基準を廃止し格付基準へ一本 化
普通社債の適債基準を緩和(5回目)
転換社債の適債基準を緩和(6回目)
1991年4月 改正商法施行(社債発行限度粋実質2倍に拡大等)
6月 無担保普通社債、転換社債に関する財務制限条項の緩和(2回目)
12月 均一価格販売方式導入、プライス・トーク実施(NTT債)
1992年7月 発行登録制度の基準緩和(格付基準の導入等、A格以上取得で利用可)
外債発行にかかる適債基準の緩和を発表
普通社債市場で情報端末を利用したマーケット・メイク業務開始
1993年2月 初の2年物普通社債発行(オンワード樫山)
4月 金融制度改革法施行
普通社債の適債基準緩和(6回目:無担保社債の格付をA格以上から BBB以上に緩和等)
普通社債、転換社債に関する財務制限条項の緩和(3回目)
6月 初の親会社保証付普通社債発行(日立金属)
9月 証券市場に対する第1回規制緩和(5年債導入等)
10月 商法改正(社債発行限度枠廃止、受託会社制度改善、社債権者集会制度 の改善等)
11月 初の5年物 普通社債(オリックス)および20年物普通社債(中部電力) 発行
12月 証券市場に対する第2回規制緩和(デュアル社債導入、非居住者ユーロ 円債の還流制限一部撤廃等)
1994年3月 国内普通社債として初のブック・ビルディング方式により条件決定(東 芝)
国内普通社債として初のデュアル・カレンシー債発行(高島屋)
4月 国内初の変動利付債発行(三井造船)
7月 普通社債/転換社債の財務制限条項緩和(4回目:BBB格相当の普通社 債の財務制限条項のうち純資産額200億円以上維持の取扱廃止等)
1995年2月 店頭企業初の公募普通社債発行(ソフトバンク)
7月 発行登録制度の利用適格要件の緩和等実施
8月 非居住者ユーロ円債の還流制限の即時完全撤廃
9月 国内初の社債管理会社不設置債発行(ソフトバンク)
10月 国内普通社債として初の外貨建債発行(日商岩井、豪ドル建て)
1996年1月 適債基準および財務制限条項の設定義務付け廃止

 出所:公社債引受協会編(1996)。


表2 銀行借入と社債の選択:基本パターン

(1) ラグ付内生変数を含めないケース

  全産業 鉄鋼 非鉄金属 化学 電気機械 輸送機械
営業利益率 1,685 1,447 0,366 0,336 2,985 0,900
  (7,457)** (2,956)** (0,567) (0,626) (7,762)** (1,531)
株価純資産倍率 ー0,031 ー0,036 ー0,030 ー0,035 ー0,047 0,006
  (ー9,021)** (ー4,583)** (ー3,830)** (ー4,658) (ー5,617)** (0,763)
負債比率 ー0,961 ー1,124 ー1,012 ー0,830 ー0,825 ー1,345
  (ー19,653)** (ー8,930)** (ー7,293)** (ー7,922)** (ー9,792)** (ー11,236)**

(2)ラグ付内生変数を含めたケース

  全産業 鉄鋼 非鉄金属 化学 電気機械 輸送機械
ラグ 1,019 1,000 1,031 1,033 1,029 0,964
  (100,019)** (31,996)** (34,115)**  (58,088)** (60,191)** (36,442)**
営業利益率 0,969 0,955 0,399 1,033 1,283 0,227
  (9,160)** (3,996)** -1,187 (4,317)** (7,519)** (0,733)
株価純資産倍率 ー0,005 ー0,005 ー0,006 ー0,005 ー0,007 0,007
  (ー3,498)** (ー2,079)** (ー1,611) (ー1,552) (ー2,301)** (1,737)*
負債比率 ー0,015 ー0,073 ー0,038 0,077 ー0,010 ー0,148
  (ー0,631) (ー1,108) (ー0,498) (1,525) (ー0,255) (ー2,128)**

注 1. t-values are in parentheses.
   2. ** =significant at 5 % level.
   3. * =significant at 10% level.

表3 負債比率にタイム・トレンド係数ダミーを含めた推計

  全産業 鉄鋼 非鉄金属 化学 電気機械 輸送機械
営業利益率 1,911 1,613 0,470 0.103 3,415 1,193
  (8,185)** (3,292)** (0,724) (0,179) (8,451)** (1,989)*
株価純資産倍率 ー0,028 ー0,033 ー0,027 ー0,037 ー0,043 0,236
  (ー8,124)** (ー4,239)** (ー3,366)** (ー4,742)** (ー5,164)** (0,830)
負債比率 ー1,012 ー1,157 ー1,063 ー0,805 ー0,952 ー1,395
  (ー19,959)** (ー9,249)** (ー7,432)** (ー7,504)** (ー10,368)** (ー11,488)**
係数ダミー 0,015 0,021 0,014 ー0,009 0,028 0,017
  (3,803)** (2,379)** (1,419) (ー1,063) (3,412)** (2,297)**

注 1. t-values are in parentheses.
   2. **= significant at 5% level.
   3. *= significant at 10 % level.


表4 1970年代の長期比率と1980年代後半の社債比率の関係

  全産業 鉄鋼 非鉄金属 化学 電気機械 輸送機械
長期比率 0,178 0,772 0.198 ー0,185 0,321 ー0,033
  (5,339)** (7,595)** (2,026)** (ー2,301)** (5,916)** (ー0,474)
営業利益率 1,580 1,170 0,737 0,147 2,809 1,010
  (6,937)** (2,487)** (1,125) (0,274) (7,245)** (1,701)*
株価純資産倍率 ー0,031 ー0,312 ー0,033 ー0,034 ー0,048 0,006
  (ー8,977)** (ー4,151)** (ー4,231)** (ー4,506)** (ー5,822)** (0,830)
負債比率 ー1,001 ー1,,250 ー1,052 ー0,869 ー0,831 ー1,347
  (ー20,170)** (ー10,323)** (ー7,549)** (ー8,198)** (ー9,654)** (ー11,142)**

注 1. t- values are in parentheses.
   2. **= significant at 5% level.
   3. *= significant at 10 % level.

表5  1980年代前半までの社債比率の関係

  全産業 鉄鋼 非鉄金属 化学 電気機械 輸送機械
営業利益率 ー0,586 1,090 ー0,458 ー2,027 0,246 ー4,012
  (ー3,256)** (3,402)** (ー1,088) (ー5,660)** (0,684) (ー7,707)**
株価純資産倍率 ー0,001 ー0,016 ー0,004 ー0,006 0,003 ー0,019
  (ー0,798) (ー2,005)** (ー1,193) (ー1,057) (1,004) (ー1,548)
負債比率 ー0,948 ー0,327 ー0,526 ー1,002 ー1,229 ー1,243
  (ー18,594)** (ー3,257)** (ー4,822)** (ー11,016)** (ー10,910)** (ー10,785)**

注 1. t- values are in parentheses.
   2. **= significant at 5% level.
   3. *= significant at 10 % level.

表6 一部上場企業と二部上場企業の社債比率の関係

(I) 一部上場企業 

  全産業 鉄鋼 非鉄金属 化学 電気機械 輸送機械
営業利益率 1.757 1.925 2.175 1.402 2.557 1.628
  (7.461)** (4.323)** (0.291) (2.621)** (6.306)** (2.512)**
株価純資産倍率 -0.035 -0.028 -0.045 -0.046 -0.052 0.008
  (-10.109)** (-4.565)** (-5.324)** (-6.398)** (-6.031)** (1.042)
負債比率 -0.874 -0.957 -0.553 -0.806 -0.845 -1.178
  (-17.371)** (-8.812)** (-3.479)** (-7.957)** (-9.321)** (-9.003)**
係数ダミー 0.011 0.035 0.010 -0.011 0.020 0.010
  (2.738)** (4.335)** (0.941) (-1.373) (2.423)** (1.207)

(I) 二部上場企業
  全産業 鉄鋼 非鉄金属 化学 電気機械 輸送機械
営業利益率 2.894 2.688 1.784 -1.686 5.037 0.601
  (5.369)** (1.672)* (1.777)* (0.942) (5.498)** (0.459)
株価純資産倍率 -0.035 -0.058 -0.029 -0.115 -0.028 -0.024
  (-3.296)** (-1.673)* (-1.137) (-2.612)** (-1.861)* (-1.293)
負債比率 -0.923 -1.142 -1.619 -0.718 -0.659 -1.238
  (-7.041)** (-2.364)** (-5.838)** (-2.287)** (-2.949)** (-3.901)**
係数ダミー 0.038 -0.003 0.292 0.016 0.044 0.034
  (4.026)** (-0.083) (1.524) (0.625) (2.388)** (2.125)**

注 1. t-values are in parentheses.
   2. ** = significant at 5% level.
   3. * = significant at 10% level.

ChartObject 図1 長期資金比率の推移

年度 長期借入金比率平均 社債比率平均
70 0.628318329 0.029058
71 0.631087518 0.036234
72 0.617370164 0.039246
73 0.610607333 0.046233
74 0.591608649 0.041235
75 0.622106757 0.047866
76 0.621220535 0.052906
77 0.589970955 0.060089
78 0.565515051 0.07753
79 0.550090656 0.090215
80 0.540181543 0.088055
81 0.537407566 0.101209
82 0.499966783 0.108083
83 0.470482472 0.147951
84 0.437082736 0.178178
85 0.394086566 0.20881
86 0.375100016 0.269174
87 0.356539918 0.31945
88 0.354141099 0.364773
89 0.384531397 0.414446
90 0.395953883 0.431636
91 0.421057588 0.437702
92 0.44916469 0.425601
93 0.475436297 0.414298
94 0.458113289 0.414728
95 0.427181076 0.395842