W.株式需要関数の導出以下では年功序列賃金制度の下での株式需要をより具体的に求めることを試みる。また、この需要関数が実際の株式需要を適切に説明しているならば、それは我々の仮説が棄却されないことを意味するので、この作業は仮説の検証に他ならないことになる。そのためにはいくつかの追加的な仮定のもとで実証分析を行うことにする。 実証分析において最も困難な点は見えざる出資Zがまさに観察不可能な点である。そこでこの難点を回避する目的からまず最初は Z=wP-w1 と仮定する。ここでwPは恒常所得、w1は実際の所得であり、要するにwPに比してwが低い若年期には見えざる出資が多いことを仮定していることになる。 しかしwPは観測不可能であるので、C1=kwPを仮定することによってC1とw1とでZを表現することにする。これを(4)式に代入することによって、 S1=X1-C1/k+w1≡X1-hC1+w1 (8) となる(1/k=h)。 ところで、資産選択の結果、危険資産保有比率θは一般的に X/(X+B)={E(rS)-r}/λσ2(rS)≡(1/λ)R (9) となる。ここでλは危険回避度であり、回避度に関してより一般的に (1/λ)=c+dln(X+B) c、d>0 (10) と定式化する。要するに、保有資産額が増えるとそれだけ危険回避度が弱まると定式化する訳である。 クロスセクション分析であるのでRを一定所与とすると、(9)式は X/(X+B)=a+bln(X+B) (11) となる。これが基本的な式であり、保有資産額が増加するほど危険資産保有比率は高まることを示している。しかし以下では簡単化のため、 X/B=a+bln(X+B) (12) で「近似」し、このXに(8)式を代入し、整理することによって S1/B1=a+(w1/B1)-h(C1/B1)+blnB1 (13) となる。他方、老年期に関しては見えざる出資はないので S2/B2=a+blnB2 (14) となる。この(13)式、(14)式を適当に集計することによって経済全体の株式保有比率が導かれる。lnBの資産効果に関して注意を払って集計すると、 S/B=a+(w1/w)(w/B)-h(C1/C)(C/B)+blnB (15) となる。(w1/w)、(C1/C)が観測可能ではないので係数として推計すると推計すべき式は S/B=a0+a1(w/B)+a2(C/B)+a3lnB (16) であり、我々の仮説は a1、a3>0、a2<0 であり、対立仮説は a1=a2=0 である。(5')式で確認したように観察されるSはマイナスにはならないので、(16)式はTobitモデルで計測すべきこととなる。 見えざる出資Zが観測不可能であるので、それをwP-w1で定式化することが適当である保証はない。それは第一に、貨幣賃金と恒常所得のプロファイルが明らかではないからであり、第二に、見えざる出資Zはフローではなく、ストックでなければならず、その点でwP-w1では適当ではない可能性があるからである。 そこで、第二の計測方法としてZに関し Z/B=f0+f1t-f2t2 (17) と定式化して、これらの問題点を改善する試みを行う。ここでtは世帯主の年齢である。要するに(17)式は、保有安全資産で基準化した見えざる出資残高(ストック)は一定の年齢をピークにそれ以前は上昇し、それ以降は減少すると想定していることになる。この(17)式を(12)式に代入し、さらにモデル1と同様な集計を施すことによって S/B=a0+a1t+a2t2+a3lnB (18) となる。 我々の仮説は a1<0、a2>0、a3>0、 である。対立仮説は a2=a3=0 となる。計測では多少の説明変数を追加して、Tobitモデルで推計している。 |