郵政研究所月報

2000.10


調査研究論文

地域通信市場の競争促進について
 
―アメリカの取り組みにみる地域競争の促進―


前通信経済研究部主任研究官

高地 晴子

[要約]

1 アメリカでは、独占的事業者であったAT&Tの分割(1984年)の後、長距離通信市場では競争の進展により、料金の低廉化やサービスの多様化が進んだが、地域通信市場は独占のままであった。電気通信事業者の要望を受けた各州での取り組みなどを反映し、1996年通信法では、全ての電気通信市場の競争の促進を規定した。これにより、アメリカ全体で、地域通信市場の競争促進に向けた本格的な取り組みが進められることになった。
2 1996年通信法は、既存地域通信事業者に対し、ネットワークの開放((1)リセールのための電気通信サービスの卸売価格での提供、(2)アンバンドル化したネットワーク構成要素の提供)を義務づけることによって、競争事業者が、自己の施設を建設しなくても、地域通信市場へ新規参入することを可能にする手段を確保している。
3 AT&Tの分割以後、AT&Tから分割した旧ベル系地域通信事業者には、長距離通信サービスへの参入が認められていなかったが、1996年通信法は、一定の条件を満たせば、長距離通信サービスへの進出を可能とした。この仕組みは、地域競争に非協力的になりがちな既存地域通信事業者に対し、競争協力的なインセンティブを与えるものとして機能している。
4 1996年通信法制定後丸4年、連邦通信委員会は、全米レベルでみれば、地域競争事業者のシェアは、提供回線数で4%、サービス収入ベースで6%を超え、長距離競争の場合とほぼ同レベルのペースで競争が進展してきていると報告している。一方、州の規制担当者は、地域競争の進展は遅い、と評価し、その最大の原因は、既存地域通信事業者のネットワーク開放に関する技術的課題の大きさにあると指摘している。ただ、州レベルにおいても、「既存地域事業者のネットワークの開放がなければ、地域競争は進まなかった」とコメントしているように、オープンネットワーク政策、そして、競争を具体的に実施できるようにしていくための各種のルール策定は、地域通信市場の競争を機能させるものとして有効であったと評価している。
5 地域通信においては、市場を開放するだけでは、自発的な競争促進は期待できない。アメリカ型の既存事業者に対するネットワーク開放政策については、競争事業者の顧客獲得を促進させたことは事実であるが、施設ベースの競争を進展させうるのか、という疑問が投げかけられている。また、アメリカの規制スタイルや市場環境の中で機能しても、他国でもこうした方法が有効な方策なのかは定かではない。このため、各国それぞれの状況を十分に踏まえた上で、具体的な競争ルールの策定や、ユニバーサルサービス等の在り方も含めた公正な競争条件の整備の検討を行うこと、それらが有効に機能するよう、既存事業者に競争協力的インセンティブを与えるための措置も併せて検討していくことが、地域競争の促進にとって重要といえよう。

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