郵政研究所月報

2001.1


調査研究論文

企業におけるIT利用と生産性向上

「ニュー・エコノミーは、昔ながらの美徳の上に成り立っている;

倹約、投資、そして自由市場経済である。」

(ローレンス H サマーズ、米国財務長官)


通信経済研究部長

杉山 博史

[要約]

 筆者は郵政研究所月報11月号において、「個人及び企業におけるIT利用と効果」と題して、ITの様々な側面を概観した。その中では、インターネットの利用状況、デジタルデバイド、電子商取引に加えて、企業のIT利用と生産性向上の効果についても、解説した。本稿では、企業のIT利用と生産性向上について、詳細に議論する。概要は、以下のとおり。

 

1 日米間におけるIT化投資比率(対設備投資)の格差が、1990年代に急速に拡大している。

 米国では、特にソフトウェアの比重が急速に高まっている一方、日本では、繊維、電機機械等においてコンピュータストックが増えていない。パソコンやLANの導入や総務部門のIT化は進んでいるものの、営業、調達、顧客対応といった基幹業務を本格的にIT化している企業は数%に過ぎない。

 

2 ITの生産性への効果については、米国において、マクロ経済レベル、産業レベル、ミクロ経済(企業単位)レベルでの検討が行われてきた。その結果、ミクロ経済レベルでは、組織改革等に前向きな企業はIT導入により生産性が向上することが判明した。これに疑問を呈する向きは見当たらないが、その他については以下のような議論がある。

 (1) 産業レベルでは、最もIT投資に積極的なサービス業において、その産出を的確に把握することが困難なため生産性の向上が確認できない。これを正確に計測できない限り、ITの生産性への寄与があまり大きくないという可能性を排除できない。

 (2) マクロ経済レベルでは、生産性向上が認められるという意見が多いが、反対意見も根強く、最近の成長率が好景気によって誇張されていると思われる。「IT産業の生産性向上」が経済全体の生産性を押し上げていることは確かである。一方、ITユーザーの生産性が向上しているという主張においては、IT投資が他の設備投資と同じ程度に生産性向上をもたらすことが前提にされているが、これは、組織改革等に前向きでない企業は生産性向上が見られないという、上記ミクロ経済レベルの結論と矛盾する。したがって、その効果についてはある程度割引いて考える必要があろう。また、「ITの利用による企業の効率性向上」については、研究例はあるものの、その内容については検討の余地がある。

 

3 「ニューエコノミー論」については、ベンチャー・キャピタル等からの資金流入と継続的なIT投資が滞れば、米国にも長い不況が訪れると警鐘を鳴らす声も出始めている。

 

4 IT投資による生産性向上は、オーストラリア、カナダ、スカンジナビア諸国でも認められるが、日本及び欧州の大国では確認されていない。これは、IT産業比率及びIT投資比率が大きく上昇していないことが大きな要因とされている。

 

5 日本における先行的研究の結果は、以下のとおりであり、今後より詳細な検討が必要。

 ・ミクロ;米国と同様、IT化がその効果を発揮して幅広い生産性上昇に繋がるためには、人的資本や企業組織のあり方の変革も同時に必要

 ・産業別;生産性及び効率性に対するコンピュータストックの寄与は、限定的ないくつかの業種について、その可能性が示唆される程度

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