郵政研究所月報

2001.6


調査研究論文

中国の郵便貯金−復活の背景と役割−


筑波大学大学院博士課程
社会科学研究科経済学専攻 唐 成

[要約]

・中国の郵便貯金制度は1909 年に創設されたが、中華人民共和国の成立と同時に、貯金業務が廃止された。1978 年の経済革命路線の実施を契機として、中国では計画経済から市場経済への移行が始まった。1986 年4 月に郵便貯金制度が復活され、事業が拡大されてきた。

・郵便貯金制度の復活の背景には二つの主な理由があった。1 つ目は1978 年以後、経済改革が進む中で、貯蓄主体は家計部門へ、投資主体は企業部門へと移り、金融の仲介機能が必要となってきたためである。1979 年以後の金融制度改革、特に人民銀行の中央銀行化改革が郵便貯金を復活させたきっかけであった。2 つめは経済発展のための金融的動員政策である。郵便貯金は郵政局のネットワークを通じて、民間資金を吸収する重要な径路の1 つであった。

・1986 年以後の郵便貯金の増加率は商業銀行の預金増加率を上回っている。郵便貯金の成長要因としては、経済成長に伴う可処分所得の増加、貯金機構の拡大、貯金サービスの改善などがある。郵便貯金は特に農村部での貯蓄普及に力を入れており、郵便貯金を通じて、金融サービスの地域格差をなくすという点で復活の意義が大きい。

・郵便貯金の資金は全額預託で人民銀行のハイパワード・マネーに加えられる。また、郵便貯金の資金は自ら不良資産を所有しないため、銀行預金に比べて安全資産である。郵便貯金の成長と存在意義はこの安全資産の提供によるものと考えられる。郵便貯金は中央銀行貸出の資金源として、商業銀行の信用創造能力を通じて、マネーサプライを増加させる効果がある。中国の郵便貯金は金融政策であり、日本の郵便貯金は財政政策である。

・郵便貯金の資金運用の方法は見直すべき時期にきている。今後、政策金融は中国の経済発展に重要な役割を果たしていくことが期待される。そのため、郵便貯金は財政投融資制度の主な資金供給源としての生存意義が問われるだろう。

・しかし、残される課題も大きい。たとえば、独立会計制度の確立、リスク管理の問題、政策金融に対するモニタリングを行う必要性などがある。今後、日本モデルを参考にし、中国の政策金融における適応性を研究していくべきである。

全文 「中国の郵便貯金−復活の背景と役割−」