郵政研究所月報

2001.7


調査研究論文

財政投融資制度改革と郵便貯金の自主運用
−マクロ経済に与える効果と中立性−


特別研究官(横浜国立大学国際社会科学研究科助教授) 井上  徹

客員研究官(青山学院大学経済学部助教授)      宮原 勝一

前第二経営経済研究部                山中  勉

第二経営経済研究部                 神谷  宏

第二経営経済研究部                 松本由紀夫

[要約]

  1. 本研究の目的は、2001年度の財政投融資制度改革後の郵便貯金の自主運用が、どのようなマクロ経済的効果を持つかをシミュレーションによって分析することである。今回の改革の重要なポイントは、資金の入口側である郵便貯金の自主運用と、出口側である財投機関の資金調達、実物面の資源配分が独立した意思決定問題となり、金融資本市場に直接影響を与えるものとなったことである。本稿では、意思決定問題の分離を明示的に取り入れたシミュレーションを行い、郵便貯金の自主運用のマクロ経済に対する中立性に焦点を当てた。
  2. ただし、モデルによる分析には限界がある。改革前のデータしか得られない、債券保有を公的部門・民間部門に完全に分割することができない、経済主体の意思決定メカニズムや相互依存関係が不分明なため限定的な想定を行わざるを得ない、などの点である。このような限界を踏まえて、枠組み[1]:郵便貯金の自主運用と財投機関の資金調達・社会資本投資についての意思決定が独立、枠組み[2]:郵便貯金の自主運用と財投機関の資金調達・社会資本投資についての意思決定が連動、という2つの枠組みでシミュレーションを行った。
  3. 現在の財政投融資の(1)「公的金融機関による民間への貸出」、(2)「公団等による社会資本整備」、(3)「公債を中心とする長期債」の比率を変更しない場合をベンチマークとして、以下の3つのケースを比較した。
     ケースA:公的金融機関による貸出(1)を増加、公団等による社会資本整備(2)を減少。
     ケースB:国債などの運用比率(3)を増加させ、公的金融機関による貸出(1)、公団等による社会資本整備(2)を減少。
     ケースC:長期債運用比率(3)を減少、公的金融機関による貸出(1)を増加。
  4. 結果は以下の通りである。
    枠組み[1]
    ケースA:貸出利子率は低下、債券利子率は上昇、GDP・財政赤字はやや上昇・縮小傾向。
    ケースB:貸出利子率は上昇、債券利子率は低下、GDP・財政赤字はやや低下・拡大傾向。
    ケースC:ケースAと同一。
    枠組み[2]
    ケースA:貸出利子率は低下、債券利子率は上昇、GDP・財政赤字は上昇・縮小傾向。
    ケースB:貸出利子率は上昇、債券利子率は低下、GDP・財政赤字はやや上昇・縮小傾向。
    ケースC:貸出利子率はケースAより低下、債券利子率はケースAより上昇、GDP・財政赤字は最も上昇・最も縮小。
  5. 枠組み[1]では、出口側(公的金融機関の貸出と公団等による社会資本形成)の意思決定が変化しない限り、郵貯側の運用の変化はまったく中立的である。枠組み[2]の結果からは、社会資本の生産性が重要であることが示された。したがって、財投の資金の出口側の意思決定が、資金の入口側である郵便貯金の資金運用の意思決定と独立であれば、郵便貯金の自主運用に関する意思決定はマクロ的には中立的である。財投がマクロ経済に与える影響については、出口側の意思決定が決定的に重要であり、経済厚生を改善するためのより厳しい判断が求められている。



全文「財政投融資制度改革と郵便貯金の自主運用−マクロ経済に与える効果と中立性−