郵政研究所月報

2001.10

巻頭言
tanaka

今必要な起業家育成

株式会社大和総研理事長  田中  榮

 日本は、早急に起業家育成をはかる必要がある。日本のGDPに好影響を与えるからである。GEM(Global Entrepreneurship Monitor)の調査によると、起業家活動と2000年のGDP成長率には相関がある。企業の創業に携わった人と創業42ヶ月以内の会社に勤めている人の割合の高い国は、GDP成長率が高い。例えば、韓国やアメリカだ。これに対し日本は極端に起業活動が低く、GDP成長率も低い。企業家を育成することは、国のGDPを押し上げることになるのである。

GDP成長率と起業活動の関係(2000年)
GDP成長率(%) 図

起業活動をしている人の割合(%)

(出所)GEM、OECD、IMF資料より大和総研作成

 一昨年より、情報技術を使ったビジネスモデル特許が話題になっている。これらも起業家育成の良いきっかけとなる可能性があるものの、現実にはきびしいと言わざるをえない。2000年の出願数は一万五千件と5倍ほどになった(特許庁)。ところがこれらビジネスモデル特許の多くは、電機メーカーから出願されたものであり、ベンチャーといわれる起業家の出願の割合は低いようだ。

 ここに各国のベンチャービジネスの専門家と成人1000人を対象とした調査結果がある。「今後6ヶ月以内に新しい事業機会が生まれる可能性があると思いますか」という質問に対し、アメリカ人は57%がYESだが、日本人はわずか1%である。(GEM調査)。

 少し古いデータではあるが、90年から96年までの企業の開業数は米国の93万社に対し、日本14万社にとどまっている(GEM調査)。これに企業内での新規開業事業を入れるとさらに差が広がる。

 従って、折角出願されたビジネスモデル特許も、日本ではなかなかビジネスに結びつかず、起業家育成のきっかけとはなりにくい。

 日本で起業家が育たない理由に、起業家という職業や役割が知られていないことによる社会的評価の低さがある。「あなたの会社では、新しい事業や会社をはじめることは立派なこととして認められていますか」との質問に対しイエスと答えた割合は、米国91%に対し日本はわずか8%である。(GEM調査)。日本では起業家の評価が低いため、起業にかける意欲がわかない。

 起業家を育てる一番の方法はやはり「起業家教育」である。米国はMBA教育が充実しており、起業家意欲を掻き立てるのに役立っている。これに対し日本は最近ようやくMBA教育が普及し始めた。日本は米国に追いつくため、小中高生教育にも起業家教育を取り入れるべきであろう。実際早稲田大学の大江教授は、小学生に対する起業家教育で成果をあげている。起業家教育は、子供たちの意識をかえ、必ず日本の起業家を増やすきっかけとなる。

 現在、高校生のなりたい職業ランキングをみると、男子は国家公務員、女子は俳優がトップである。男子は安定志向である(リクルート調査)。将来このランキングに起業家が入るようになれば、日本の未来も明るい。安定志向からの転換である。

 郵政研究所も、起業家の飛びつくような調査研究も進めていただければ幸いである。と同時に郵政研究所発のベンチャーもおもしろい。政府の産業構造改革・雇用対策本部において「大学発ベンチャー1000社」の創出(今後3年間)を目指した計画づくりが本格化していることを考えれば実現もそう遠くない。