郵政研究所月報

2001.12

調査研究論文

公益事業における
競争導入と企業の対応に関する調査研究


第一経営経済研究部研究官  中 川 豪

[要約]

  1.  1990年代に入り、バブル経済が崩壊したことで日本経済の閉塞感が強まる中、日本企業の高コスト体質・内外価格差の是正、規制分野の改革等が課題となってきた。電気事業についても97年7月には電気事業審議会基本政策部会が設置され、電力の自由化についての検討が開始された。競争を導入することで、電気の長期安定的な供給や供給信頼度の維持、ユニバーサルサービスの維持といった公益的な課題について現状どおり維持することが可能かどうかについて議論がなされ、結果的にわが国の電力自由化は小売りの部分自由化を軸として実施されることとなった。こうして2000年3月21日に電力の小売り部分自由化がスタートしたが、電気は国民生活に密接にかかわる財だけに、制度実施後概ね3年後を目途にその成果について再度入念な検証がなされることとなっている。

  2.  2000年8月、通商産業省(現経済産業省)の電力入札が行われ、新規参入者であるダイヤモンドパワーが落札し、本格的に電気事業にも競争原理が導入されたことが印象づけられた。一方、既存の電力会社は自由化を見越して従来から経営効率化を加速させており、効率化による経営余剰をみこんで同年10月、部分自由化がスタートして以降初めて規制分野の大幅な電気料金引き下げと選択メニューの大幅な拡充を実施した。

  3.  電気事業に競争原理が導入されたことで、各電力会社は財務体質の強化や効率的な設備形成、経営全般にわたるコスト削減など、さまざまな経営効率化計画を策定している。既存電力会社は地域独占であったことや、発電所、送・配電線などの膨大な設備を保有することなど共通点が多く、自由化に伴う経営効率化計画もほぼ同様のものとなっている。

  4.  平成13年3月中に電力自由化に対応した企業動向について、既存電力会社と新規参入企業数社に対し調査を実施した。既存、新規参入ともに顧客獲得競争においては低価格戦略による体力戦よりも、顧客のニーズに対応する付加価値の高いソリューション型営業を重視するとした企業が多かった。

  5.  既存各社が経営効率化計画や中長期の経営計画の中で掲げているさまざまな企業行動、経営目標を評価基準として、AHP(Analytic Hierarchy Process)の手法を用いて分析し、競争が導入された電力業界における既存企業の行動方針の優先順位を導き出した。その結果、既存各社は経営効率化などでコスト削減を進める一方で、新規投資や収益力強化、財務体質改善といった方針を掲げ、競争への最初の対応としては全方向的な競争力強化に取り組んでいることが分かった。またその過程で従業員の意識付けが大きく変わることも明らかになった。


全文 公益事業における競争導入と企業の対応に関する調査研究