郵政研究所月報

2002.5

調査研究論文

IT化のマクロ的インパクトの論点整理と実証


第三経営経済研究部 主任研究官  佐々木 文之


[要約]

(1) IT化のマクロ的経済効果については、米国では90年代後半に入ってから労働生産性に寄与しているとの実証研究が相次ぎコンセンサスが形成されつつある。その背景には、IT効果が発現するまでには時間的経過を要すること、IT関連統計の整備、などの要因がある。我が国においても、今後更にIT化が進行し、関連統計が整備されれば、本格的な実証段階を迎えるものと思われる。その意味で、IT経済化の分析における技術的側面も含めて現段階で論点を整理しておくことにはそれなりの意義が認められる。

(2) そこで、本稿ではIT化のマクロ的インパクト分析においての論点整理と、我が国におけるマクロ的インパクトの実証分析を行った。理論的側面における論点として重要なものは、1.労働生産性への寄与、2.情報関連財の収穫逓増現象、3.オークションにおける価格決定構造の変化、4.労働と資本の代替、である。実証分析面における主な論点は、1.情報財の定義、2.統計自体の限界、3.計測上の問題、である

(3) 上記理論的論点の実証分析に供するため、我が国の情報資本ストック系列を作成した。その結果、99年末の実質情報資本ストックは約79兆円、全資本ストックに占めるシェアは7.6%となった。これに基づいて生産関数を推計した結果、トランス・ログタイプによる推計が最も妥当であり、情報資本ストックは実質成長率へ有意に寄与していることが実証された。

(4) 産業連関表分析によれば、IT財供給産業におけるTPF(全要素生産性)、PFP(部分要素生産性)の上昇は機械製造系、サービス系を中心に相当程度の価格低下効果を伴うことがわかった。また、労働と情報財の代替関係については概ね有意な結果が得られた。ディマンドサイドへのインパクトとして、耐久財家電としてのパソコンの普及率を推計した結果、2015年前後に普及率が90%を越えることが示唆された。こうした情報財の開発と普及は相当程度需要を底上げすることが期待される。



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