郵政研究所月報

2002.8

調査研究論文

郵便事業における生産性と効率性の計測

―国際比較の観点から―


第一経営経済研究部主任研究官  丸山 昭治


[要約]

 わが国を始めとして諸外国の郵便事業では独占留保分野の縮小・廃止により民間事業者との競争圧力が一層強まることが予想されている。郵便事業体はユニバーサルサービスの提供義務を課される一方で民間事業者と競争するために事業の生産性、効率性を向上させることが求められるが、本稿では両指標の計測と国際比較の観点からの評価を試みる。
 生産性とは、「ある一定の生産要素を投入したときにどれだけ多くの生産物を産出することができるか」を表す指標、効率性とは「ある望ましい状態と比較して現在の生産状況はどの程度無駄がないか」を表す指標であり、ともに企業や産業の生産活動を評価する際に用いられる。生産性、効率性の計測方法としてはDEA(包絡分析)法、DEA法を基礎としたマルムクイスト・アプローチなどが知られている。
 郵便事業における生産性・効率性の計測に必要な生産物、生産要素の概念を整理した上で、郵便定員当りの取扱郵便物数で表されるわが国郵便事業の労働生産性を計測したところ、これまでは生産物である郵便物数の動向に強く影響されてきたが、近年では定員数の減少が生産性を押し上げる結果となっている。国際的な比較においてもわが国郵便事業の労働生産性は相対的に高いレベルにある。次に欧米アジア先進19か国の郵便事業体を対象とした技術効率性、全要素生産性(TFP)をDEA法、マルムクイスト・アプローチにより計測したところ、米国や日本は90年代を通して相対的に効率的な事業運営を行ってきたこと、全体平均でみたTFPは緩やかな上昇傾向を続けてきたことが分かった。
 残された課題としては生産物、生産要素として更に詳細なデータを活用することにより現実の事業の成果と整合的な指標を作成すること、地域別にみた生産性・効率性を分析すること等により今回計測した指標を様々な視点から再検証することであろう。



全文 郵便事業における生産性と効率性の計測―国際比較の観点から―