郵政研究所月報

2002.10

巻頭言
katayama

「組織の競争力について想う」

早稲田大学理工学部経営システム工学科教授  片山  博

 この10年来、グローバル化、情報化といったドラスティックな環境変化と新興工業国の急激な追い上げを背景として、世界、とりわけアジアにおける日本のリーダーシップが厳しく問われている。これを受けて政府は、世界の模範となる住みよい国の実現を目指して循環型社会や高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する基本法など、よりどころとなる法律の整備をおし進め、もって産業構造の再編強化や地球環境の保全、さらには新たな競争力を生み出すための基盤を与えようとしている。また、競争の激化と不況の長期化という厳しいビジネス環境下におかれている多くの企業においても、競争力強化が唯一の生存条件との認識からそのレベルアップを実現する方法を模索している。
 組織の競争力を高めるにはまず、1)自社の競争優位性を的確に把握し、2)強みを維持しつつ弱みを改善、解消するためのアクション・プログラムを検討し、3)必要な施策を正しく実行しなければならない。1)については、通常、性能測定指標(Performance Measures)の設定とその数値化及び、ベンチマーキング手法などによる競争性分析(Competitive Analysis)を要する。2)及び3)については、組織によってアプローチは多様であるが、一般論として、日本の製造業界で開発適用されてきた性能改善スキームなどは有効であろう。これには、TQM(Total Quality Management)やTPM(Total Productive Maintenance)など、多くの定評あるスキームがある。
 ところで、上述の性能測定にかかわって、以前、筆者は包絡分析法(DEA:Data Envelopment Analysis)と呼ばれる組織体の効率性評価手法を用いて、郵便集配業務の効率性測定を行ったことがある。これは、組織体の効率性を使用資源関数(Input Function)と成果関数(Output Function)の比によって評価しようというものであるが、入力項目、出力項目ともに複数であることが多いので、一般に多変量入出力モデルとなる。ここでは詳細は省かせていただくが、集配業務の場合、入力項目である使用資源には集配業務担当局員数や労務費、区分機、押印機などの台数や設備投資費用、事務経費などがあり、出力項目である成果には、普通通常郵便物処理数、特殊通常郵便物処理数やそれらの郵便物収入金額などがあげられる。これらについて東京23区内の43の集配普通局を対象にし、データ収集を経て包絡分析モデルとクラスター分析法を併用した分析を行ってみると、43の局がいくつかの群に分類され、群間の効率値の差は予想外に大きなものであった。効率値の高い局は、取扱い郵便物の数が局員数の割に多く、相対的に少ない資源で多くのサービスを提供していると判定され、効率値の低い局は、逆に局員数が取扱い郵便物数に比して相対的に過剰で非効率と判定されたのであった。この一見単純な結果はわれわれに様々な事柄を考えさせてくれる。例えば、公共性の強い郵便事業の評価を効率性という競争力指標のみを用いて行うことに対する疑義であり、これは郵便物数が業務エリアと住宅地、人口過密地域と過疎地域のような立地条件によって大きく左右され、経営努力によって制御することが難しいという事実に基づいている。他方、公共的資源を消費してサービスを提供してきた郵便事業においては、省資源努力と高度な郵便サービスの提供という2つの目標についての正当性も厳然として存在する。いずれにしても、来るべき郵便事業への民間参入の拡大を控えて、後者の視点は今後ますます重みを持ってくると予想される。このことを念頭におくと、一般企業が取り組んでいるような性能測定指標の体系化や競争性分析をサポートするベンチマーク・ロジックの開発、評価事例の整備などには今から取り組んでおいたほうがよさそうである。