郵政研究所月報

2002.10

調査研究論文

通信回線などの市場形成と金融手法の活用に関する調査研究


前通信経済研究部研究官  加藤 力也


[要約]
 情報通信産業の通信インフラ分野において、1990年代後半より特に欧米を中心にして、以前にはみられなかった新しい取引形態が生じてきている。以前は、取引は通信事業者などのごく限られたプレーヤーの間で、お互い顔の見えた取引慣行いわゆる相対取引をベースにしたものであったが、90年代後半より特にエネルギー産業より参入してきた新興の通信事業者が牽引役となり、いわゆる“市場取引”の動きが生じてきている。主に「ボイス・ミニッツ」、「IPトランジット」「帯域幅」の3つの形態で、商品化・市場化の試みがなされている。特に、2都市間の通信回線等を商品化した「帯域取引」が発生したことは注目すべきことである。
 この市場化の動きは、まず第一局面として、中立的な仲介者がより取引を円滑にする仕組みを作ったところから始まった。その仕組みはWeb上での商品取引プラットフォームやブローカーの手法等であるが、特に前者は一種の「市場」とも呼べる状態を作ったこととして画期的なことであり、次のステップへの大きな契機となった。第二局面は、エネルギー系企業が参入し、エネルギー分野で培ったモデルを通信インフラの取引に応用しようとした。これは、帯域などをコモディティ化して本格的な市場取引を目指し、その先にデリバティブを始めとする金融取引化を志向した。この試みは道半ばで停滞しているが、「方向性を付けた」意義は決して小さくない。
 この通信インフラの「コモディティ」化(商品化)と金融取引化の試みは、穀物などの一次産品から始まり、次に為替や金利などの金融関連を経て、電力のようなエネルギー関連へと受け継がれ、今日では天候や排出権といった“環境”まで商品化・金融取引化していくという一連のコモディタイゼーションと金融取引化の流れの中に位置付けられる。
 帯域取引は、本格的市場化には未だ様々な課題があり、ITバブルの崩壊も相俟って、ここ1〜2年で急速に停滞しており、今後の展開は未知数である。しかしおそらく遠くない将来に、課題を克服して本格的市場化や金融取引化が実現していくことになるだろうと思われる。その際、金融工学によるリスクマネジメント手法の果たす役割は大きくなるだろう。日本においては、供給者が少ないことを主因にまだこうした新しい取引形態は殆どみられないものの、方向性としての可能性はあり、欧米の動向は先行するものとして十分参考にしたい。


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