郵政研究所月報

2003.3

特別寄稿

移動体通信市場の着信接続料金に規制は必要か

―双方向アクセスと移動体接続規制―


早稲田大学商学部教授

山本 哲三

通信経済研究部主任研究官

春日 教測

同     研究官

宍倉   学



[要約]

 移動体通信市場の急速な普及に伴って通信市場に新たな競争形態が生まれ、幾つかの問題も表面化してきた。重要な一つの論点が移動網への着信接続料金規制である。本稿では、この問題に関する経済理論や諸外国の政策動向をサーベイし、日本における通信政策検討に資することを目的とする。
 移動網への着信接続は、経済理論上、既存固定網への片方向的な接続とは異なる双方向接続問題として扱われる。1章では、これら理論研究の代表例として、Laffont et al. (1998)やArmstrong(1998)の分析とOECDによる料金規制について整理を行う。事業者が利潤最大化仮説に基づいて行動する場合、双方向モデルの相互接続料金が社会厚生上必ずしも効率的ではないことを示した後、着信接続料金は二部料金体系が好ましく、エンドユーザに対する小売料金差別の形態と連動する形の規制が望ましいことを示す。
 2章では、諸外国における着信接続問題への対処方針を概観する。まずEUの基本方針を示したのち、具体的規制の導入例として英国の方式を採り上げる。EUではSMP基準に依拠して規制対象事業者を選定し、特に強いSMPを有する事業者に対して費用指向的な料金設定を要求している。加盟各国は自国の状況に照らして独自の規制を決定できるため、英国ではネットワーク外部性も考慮した料金設定を検討しており、プライスキャップ規制などにより段階的に料金水準を引き下げようとしている。一方、直接的な料金規制を指向する欧州とは異なり、米国では、接続を巡る諸問題を解消するため既存の課金原則自体を修正することも検討している。
 以上を踏まえ、3章ではわが国の現状を概観し、諸外国との比較でわが国の接続制度の特徴と問題点について整理を行う。日本における移動体通信市場の議論は現在のところ料金設定権の帰属について焦点が当てられているが、実際は独立したネットワーク間の相互接続を巡る制度設計という大きな枠組みの中で捉えるべきであり、着信接続規制問題と密接に関係していることを指摘する。
 技術革新のスピードの速い通信産業において規制が少ないことは望ましいが、一方で理論的にも現実的にも競争が阻害される危険を多くはらむ分野であり、今後我が国においても何らかの政策的対応が迫られることは十分あり得る。情報通信分野においては政策決定に長い時間をかけられない以上、今まで以上に規制当局は、移動通信情報の収集・分析に努めるべきであろうし、消費者厚生の視点に立った政策運営が期待されている。


 


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