郵政研究所月報 
1998.2

調査・研究

郵便窓口の今後の展望
―インテリジェント窓口機器の開発―




技術開発研究センター 特別研究官   杉山 和雄
主任研究官  中島健一朗
研究官   山下 郁生
担当研究官    荒井  広
担当研究官   上釜 和人



はじめに

 郵便事業にとって、窓口における顧客満足度の向上は郵便サービスの最も重要な課題の1つである。また、業務の効率化を考えるにあたっても窓口事務の効率化は大きな課題である。最近では窓口端末機も扱いやすく情報処理の自動化へも発展しているようであるが、まだ単独機の延長線上であり今後さらに機器の改善、業務の効率化を推進する余地が残っている。
 そこで本研究では、顧客サービスの向上と業務の抜本的な効率化・高度化を共に図る郵便窓口の姿を策定し、新たな窓口機器を開発しその評価を行うことにより、新たなシステム化の提案を行うものである。

1 郵便窓口利用者のニーズ

(1) 郵便窓口
 平成7年度に、5グループ(ビジネスマン/自営業者/主婦/OL/学生)の郵便局ユーザー合計62名をグループ毎にインタビューし、郵便業務の窓口に対するニーズを調査した、ニーズの強い上位20項目は以下のとおりであった。

1 窓口がもっと長い時間開いているとよい
2 駅やデパートなどに窓口ができるとよい
3 窓口の混雑を解消して欲しい
4 どんな郵便物でも瞬時に追跡できるとよい
5 自分の生活時間にあったサービスを受けたい
6 郵便情報を十分提供して欲しい
7 郵便番号がもっと簡単に調べられるとよい
8 ロビー等のデザインを良くして欲しい
9 郵便局の所在についての情報が欲しい
10 手続きをもっと簡素化して欲しい
11 窓口ではもっとスピーディに処理して欲しい
12 どの郵便局でも均一なサービスをして欲しい
13 複数窓口がある場合、順番どおりに対応して欲しい
14 ロビーをもっと広くして欲しい
15 窓口での対応をもっと親切にして欲しい
16 もっと確実な説明をして欲しい
17 どの窓口に行けばよいのか分かりやすく
18 帳票類を記入しやすくして欲しい
19 地域振興の場として使えるとよい
20 記入する帳票類を減らして欲しい
この他、平成元年度に行った郵送によるアンケート(有効回答551票)からも、次の項目が顧客ニーズのキーワードであることが分かった。
 ・拠点拡大
 ・時間延長
 ・混雑緩和
 ・スピードアップ
 ・順番待ちの公平化
 ・情報提供
 ・手続きの簡素化

(2) セルフサービス機
 例えば日々の金銭出し入れはATMコーナーで済むようになったように、サービス窓口のもう1つの形として自動販売機などのようなセルフサービス機がある。
 平成6年に郵便局出口調査により、セルフサービス機(郵便切手はがき発売機、料金案内証紙発行機、郵便窓口セルフサービス機)についてインタビューを行った(有効回答478名)。その結果、利用状況については、セルフサービス機を利用したことのある人、ない人がほぼ半数ずつであり、全く存在を知らなかった人が全体の20%弱を占めた。実際に操作を行って意見を聞くヒアリング結果も合わせて、以下のことが浮かんできた。
A 機器の認知度が低い。
B 機器の設置場所に統一性がない。
C 「操作が分かりにくそう」「窓口の方が早そう」と思われている。
D 郵便用語が分かりにくい。
E 連続買いができないので不便。
F 領収証が出ないので使えない。
G 売り切れ、故障中が多い。

2 課題とあるべき姿

(1) セルフサービス機と有人窓口
 以上、窓口における顧客ニーズへの対応策として、その第一はセルフサービス機の積極導入があげられよう。セルフサービス機は有人窓口とは異なり時間延長が容易でサービス拠点拡大にも発展しやすいからである。
 セルフサービス機の積極導入と同時に考えなければならないことは、有人窓口のありようである。人間は間違いやすく、画一的な動作を速く行うだけなら機械の方が適している。機械にコンピューターが搭載されるようになって情報量も飛躍的に増大し高度になっていく中で、人間が機械に勝る点は何であろうか。それは、規則で表現しきれない曖昧な状況に対し、総合的に妥当な判断をする点である。すなわち、ルール化されていない複雑な具体的案件に対し総合的に妥当な判断をしたり、顧客の曖昧な話を聞き取り真のニーズを読みとるといった、対話型相談型窓口こそ人間が行うに相応しい業務である。その方が職員にとっても、単純作業の処理の速さを求められるよりもずっと人間的で魅力ある仕事と写るに違いない。
 逆にセルフサービス機が担う業務は、単純で決まり切ったサービス(クイックサービス)である。具体的には小口販売と小口の料金案内であろう。これで、顧客の窓口利用目的のうち小口差し出しと切手の小口購入の多くが賄える。
 窓口の基本を、1. クイックサービスを担う充実したセルフサービスコーナーと、2. その他全般、特に複雑なサービスに的確に応えられる有人の窓口カウンターから構成することが第一である。


図2‐1 郵便窓口来訪目的

(2) 総合窓口・一列並び
 顧客ニーズへの対応策の第二は、総合窓口・一列並びである。混雑緩和が根本的課題であるが、変動する顧客数に必要な窓口数を常に確保するわけにはいかず、限られた窓口職員数でより混雑を緩和しなければならない。それには業務を細分化して専門の窓口(機能別窓口)を設けるよりも、総合窓口にした方が待ち行列が平準化されるので、待ち時間の平均値や最大値は減少する。
 また、総合窓口のメリットは実質的な待ち時間の削減の他に、待っている間の不快感の解消の効果が大きい。隣に空いている窓口があるのに自分が行くべき窓口が混雑しているのは不愉快であろう。さらに、列選択の運不運も不公平感を与える。この改善のためには、一列並び(番号札制を含む)が考えられるが、機能別窓口ではこれができないのでそのためにも総合窓口としなければならない。この他、機能別窓口では顧客が並び間違いを起こす可能性もあり、様々な点で総合窓口・一列並びの方が顧客本位である。

(3) 理想的窓口を構築するための課題
 ところが、セルフサービス機は現在でも設置されているにもかかわらず、十分なクイックサービスの分離に至っていない。現行のセルフサービス機は既に見てきたように顧客満足度が低いのである。クイックサービスの顧客にセルフサービスコーナーを積極的に利用してもらうために必要なことは、1. セルフサービスコーナーの存在と用途を伝えること。2. セルフサービスコーナーが顧客のニーズを満足すること。の2点である。これを克服しなければ望ましい窓口は実現しない。
 有人窓口についても同様に、現在総合窓口ができるのならば既に大半の窓口がそうなっているはずである。現在の業務形態のまま総合窓口に移行すると、例えば、全ての窓口で切手の日締め業務や書留の授受作業が発生するので、延べ労働時間が大幅に増大してしまう。また、切手箱や書留引き受け用備品、消耗品を置かなければならないとか、窓口に就くには広範な知識が不可欠になるので人材育成に時間がかかるなどネックは多い。
 すなわち、望ましい窓口の姿の提案とは、それを導入するときに派生する様々な実務的課題をどう解決していくかの提案を併せ持つ必要がある。

3 窓口システムの試作 

 以上の問題意識に基づき具体的な解決方法を目に見える形で提案すべく、実際の機器(実験用試作機)の開発を行った。以下に試作機のシステムの説明を通して問題解決の提案内容を説明する。

図3‐1 試作システムの全体像


(1) 試作システムの全体像
 上図が構築した試作システムの全体像である。試作システムは、小口で単純なサービス(クイックサービス)用の「セルフサービス機器」と、残りの複雑なサービス、相談型サービスのための有人窓口用の「郵便窓口事務処理機」を中心に、「書留郵便物一時保管装置」、「サーバー」から成り立っている。
 サーバーと各機器の間はLANで結ばれ、情報の一元管理を行うことができる。


(1) 試作システムの全体像
 上図が構築した試作システムの全体像である。試作システムは、小口で単純なサービス(クイックサービス)用の「セルフサービス機器」と、残りの複雑なサービス、相談型サービスのための有人窓口用の「郵便窓口事務処理機」を中心に、「書留郵便物一時保管装置」、「サーバー」から成り立っている。
 サーバーと各機器の間はLANで結ばれ、情報の一元管理を行うことができる。


図3‐2 郵便窓口事務処理機

(2) 郵便窓口事務処理機
 郵便窓口事務処理機(図3-3)は、顧客本位の窓口である総合窓口を実現するための総合システムとも言えるカウンターである。窓口形態を総合窓口とすることで増大する業務を効率化すべく以下の機能を盛り込んでいる。

ア 変額切手の発行機能
 切手販売情報を電子的に容易に管理することが可能な「変額切手」(切手販売時に料額を印字する切手)を発行する機能である。平成9年から同じコンセプトの切手が「料額印字切手」として実際に導入されたが、本研究では以前からこの呼び名を使っていること、実施の料額印字切手は5金種しかないが本研究では1円単位で任意の料額に対応すること、お客様の利便性向上と機械トラブルの減少のためシール式を採用している点で異なることから、本研究のものは変額切手と呼ぶこととする。


図3‐3 変額切手



イ 情報入力の重複を省いた書留引受システム
 書留郵便物受領証の作成、書留バーコードラベルの貼付から配達局における配達証の作成までの作業の簡素化を図るため、一連の作業を見直した。主な改善内容は以下のとおり。
・事実上差出人が作成していた「書留郵便物受領証(甲・乙)」を名称変更し、受領証および局控えはシステムが自動的に作成する。
・書留バーコードラベル(ラベル貼付器)方式をシステムによる引受番号の自動採番方式とし、バーコードは書留証紙に日付、郵便料金と併せて印字する。
・配達局において作成している配達証及び同原符を引受処理時に作成する。
・引受後の書留郵便物の保管箱はシステムと連動し、授受時の解錠と授受記録の自動化を行う。
 本システムは次のように稼働する。
@ 差出人の住所氏名、受取人の氏名と郵便番号が書かれた書留郵便物差出票を書留イメージリーダ/プリンタに挿入すると書留引受処理が起動する。
A 書留郵便物差出票に記載された上記部分の画像が自動的に読取られる。
B 該当郵便料金の受領が行われると、引受番号が自動採番され、
C 書留証紙を発行するとともに、
D 画像データをもとにした書留受領証、配達証及び同原符を同時に作成する。
 本方式では、現在の書留バーコードラベルの事前調達及びバーコードラベル貼付機、書留受領証作成機、さらには配達郵便局における配達証作成機などが不要となる。
 なお、写真のカウンター状の総合システムとは別に、書留引受機能のみを別方式で実現するシステムも試作した。これは郵便物表面の差出人及び受取人の住所氏名を画像入力装置により自動的に(郵便物がはかりに載ることにより自動的に起動する)読取り、その画像を使って書留受領証、配達証及び同原符を作成するもので、差出票などの記入を省略することができる。

ウ 書留郵便物授受の自動管理機能
 書留郵便物の授受保管手続の効率化を図るものである。本実験機では、引き受けた書留郵便物を一時的に保管する装置とシステムを連動し、内務者との授受時に装置の解錠と取扱種別ごとの通数などの授受記録を行うことができる。

エ 別納・後納用2次元データコード読取り機能
 別納・後納の差出しデータを、窓口での引受時に電子的に取り込む機能である。これにより、現在、後方事務処理として行われている引受データの入力・集計処理作業が省力化できる。
 この機能は、お客様が差出票を作成する時に、その記載内容と同じ内容の2次元データコードを差出票の一部に印字する専用のソフトウェアが、あらかじめ顧客に配布されていることを前提としている。
 その他、以下の装置を搭載している。

オ 現金自動管理機能
 硬貨入出金機を搭載し、窓口における硬貨の数量管理、入金計算、釣銭払い出し等の入出金管理を行うことができ、担当者の引継時の現金授受を省略することも可能となる。

カ タッチパネルによる入力機能
 切手販売情報や引受情報などの入力作業を効率化するため、ユーザーインタフェースの優れたグラフィックタッチパネルを採用し、操作キーの分かりやすい配置とタッチ回数の軽減を図った。

キ お客様用ディスプレイ機能
 郵便物の取扱内容や郵便サービス内容などの説明を容易にするため、液晶ディスプレイを使用した客用表示器を用い、これらの内容表示をグラフィカルに行うことができる。
 さらに、機器をネットワークで結ぶことにより以下の機能が発揮できる。ただ、本機だけでは実現できないので、実験ではサーバーとの間で模擬的なデモンストレーションができるようになっている。

ク 顧客管理機能
 顧客の氏名と住所の情報を記録した顧客カードにより、営業情報の把握や引受・後方事務処理の簡素化が可能となるが、本実験機では、ふみカードを顧客カードに見立てて、書留差出人管理、別納・後納顧客管理と連携できる機能がある。

ケ 売上げ・引受の即時管理機能
 販売管理や在庫管理を行うことができる。

コ 局員支援機能
 規程・通達情報や国際引受情報等を表示できる。

(4) セルフサービス機器
 本研究では、郵便料金案内・変額切手発行機(以下ポスタルサービス機という)、切手はがき等自動販売機(以下ポスタルグッズ販売機という)、ゆうパック販売機の三機種を開発試作した。
 これらの特徴は、セルフサービスコーナーとしての存在感を高めるため、機器の色調や筐体の大きさ、デザインを統一したこと。ヒューマンインターフェース向上のための工夫をし、音声ガイド機能を有していること。受領証の発行ができること。サーバーで機器の運行状況、販売集計、在庫・釣り銭管理ができるよう無線LANで接続されていることなどの特徴を有する。
 機器毎の保有機能、工夫は以下のとおり。


図3‐4 セルフサービス機器



■ポスタルサービス機
@ 郵便物の大きさ・重量の自動計測
A 操作回数の低減
B 画面の分かりやすさの追求
C 専門用語を平易な単語への置き換え
D 外国語表示機能

■ポスタルグッズ販売機
@ 郵便商品のサンプル部を設け視認性の向上
A 商品とその選択ボタンの分かりやすさの追求
B 商品の拡充
C 商品の連続販売機能
D 購入枚数指定機能

■ゆうパック販売機
@ 商品の連続販売機能(その都度、商品の取出しが必要。)
A 商品選択ボタンのわかりやすさの追求
B 適切な大きさの梱包材選択用スケールの表示

(5) サーバー
 本試作システムは郵便窓口事務処理機やセルフサービス機器をネットワークで結び、各機器の以下の情報をサーバーで一元管理できる。
@ 販売・引受管理情報
A 顧客管理情報
B 機器管理情報
C 局員支援情報
D お客様への説明補助情報

4 顧客評価 

 試作システムに対し、顧客側の視点と局員側の視点の双方から評価を行った。前者を顧客評価、後者を局員評価と呼ぶことにする。顧客評価では、主にセルフサービス機器の評価を行った。顧客評価の対象者(回答者)は以下のとおり。
□条件:個人の郵便窓口の利用回数が年4回以上
□人数:○成人健常者:53名(男性18名/女性35名)(年齢別内訳:20代18名/30代17名/40代以上18名)
     ○車椅子利用者:2名(男性2名)
□評価方法:回答者には、セルフサービス機器の各試作機を実際に操作してもらい、一連の操作が完了する度にアンケート記入と個別インタビューを行った。

(1) 受容性総合評価
 ポスタルサービス機、ポスタルグッズ販売機、ゆうパック販売機について、郵便窓口の利用目的が各セルフ機の機能に比較的近い回答者(以下「想定利用者」という)の評価を集計した結果、どれも7割を超える回答者が「便利である」と答えている。(図4‐1)。
 現在すでに導入されている、切手・はがき発売機の利用経験者によるポスタルグッズ販売機の評価は、利用したことのない回答者に比較して高くなっている(図4‐2)。利用経験者は、現行の切手・はがき発売機との比較の上で評価していると推測される。


図4‐1 便利と思う(想定利用者別)


図4‐2 便利と思う‐ポスタルグッズ販売機
(切手・はがき発売機利用度別)


(2) 取扱商品のニーズ
 購入したい商品では、「切手」「はがき」のニーズが特に高い(図4‐3)。「切手」「はがき」「現金封筒」で全体のニーズの8割をカバーしている。他に「記念切手パック」や「ふみカード」なども自動販売機で購入したいものに挙げられている。ニーズのある現金封筒と切手パックは、現在の切手・はがき発売機で販売していない商品である。

図4‐3 購入希望商品


(3) 受領証のニーズと評価
 受領証のニーズは比較的高く、約4割強の回答者が必要と答えている(図4‐4)。経費の精算などの現実的な必要性だけでなく、購入した内容を確認するという目的のためにも受領証は発行されるべきものであると思われる。

図4‐4 受領証のニーズ



(4) 変額切手の受け入れ
 顧客は変額切手に対して抵抗感は大変低い。変額切手についてのインタビューでのコメントは、比較的高額の郵便の場合などに何枚もの切手を貼らなくて良い点が最も評価されている。
 ただし、ビジネスの場面では変額切手を積極的に使いたいが、私信の場合には記念切手などの方がいい、という意見が出ており、通常切手や記念切手の存在を残した上で、変額切手があれば使い分けができて便利になる、という評価といえる。


図4‐5 変額切手の抵抗感



(5) ヒューマンインターフェース
 その他、細かい評価結果、改善方向など、今回の実験で分かった内容を述べる。

ア ボタンの分かりやすさと操作のタイミング
 今回の試作機で、使い勝手がまだ不十分であったことの1つは、数量入力のタイミング、「訂正」と「戻る」のボタンの意味、返却ボタンの分かり難さである。これらボタンは改善が必要とされた。

イ 初回操作の分かりやすさとガイダンスの必要性
 ポスタルサービス機とポスタルグッズ販売機は上記の分かりにくさとは別に、初めて操作する際に操作の流れが分かりにくいといった部分がある。コメントによると、郵便物を計量し対応した切手を発行すること、変額切手を発行すること、金額の大きく異なる多種の商品を販売すること自体を分かりにくいと指摘している。このような評価は類似のサービス機能を持つものが世の中になく、その操作方法を知らないことに起因しているものと思われる。
 このような状況下でセルフサービス機の操作を分かりやすくするためには、機器の操作方法の改善もさることながら、サービス内容の説明や操作方法のガイダンス機能の付加をする方が効果的であると考えられる。

ウ ポスタルサービス機での連続処理
 ポスタルサービス機は、複数の郵便物の処理を行うことが可能になっている。回答者に複数郵便物を処理する操作をしてもらったところ、評価実験当初においては連続的に処理できるところを1通ずつ処理してしまう例が見うけられ、連続的な複合処理をあらかじめイメージしにくいことが分かった。
 その後説明し、連続処理をしてもらったところ、複数通の郵便物とそれぞれに発行された複数の切手の対応が分かりづらいことが判明した。切手をシール式にして連結したまま発行することにより多少改善すると思われる。
 また、本試作機は「郵便物に対応した変額切手の発行」だけ、あるいは「指定任意料額の変額切手販売」だけであれば連続的に操作可能になっているが、「郵便物に対応した変額切手の発行」と「指定任意料額の変額切手販売」の操作は連続できず、一旦精算をしなければならない仕様になっている。この点について不便であるという回答が多い。ある時は連続操作が可能で、ある時はできないというアンバランスが問題であった。

エ ポスタルサービス機の画面デザイン
 ポスタルサービス機の操作画面は、おおむね見やすく、操作が分かりやすいという評価を得たが、課題も明らかになった。
 その一つは、画面タッチ数を減らすため採用したタグ方式(上部にタグをつけた処理画面のカードを重ねたようなもの)の評価である。タグ方式はパソコンの各種設定画面でおなじみで、パソコンユーザーにとっては非常にポピュラーなものである。しかし、パソコンに親しんでいない顧客(特に主婦や年配の方)には上部のタグが見つけづらいことが分かった。

オ ポスタルグッズ販売機の商品取出しについて
 ポスタルグッズ販売機で問題になったことは、扉の大きさと商品の大きさのアンバランスである。この販売機は各商品を10個まで数量指定してまとめ買いができるので、商品取出口は、はがき10枚セットを10セット一度に排出しても溜められる大きさとした結果扉が非常に大きくなり、切手のように小さい商品の場合には違和感が生じている。切手だけは別の排出口を設けると取出口が複数あるいは迷いやすいというデメリットを生じる。はがき10枚セットは単品売りに限定して扉を小さくすることも一法であろう。

5 局員評価 

 局員評価は、郵便窓口担当局員を対象に、主に郵便窓口事務処理機のシステムの評価を行った。
 回答者は、窓口経験年数の大小と責任者の3属性、郵便局の立地条件をビジネス街、商業地域と住宅地域が混在する地域、住宅地域の3属性の組み合わせ9属性に1人づつ、合計9名を選出した。
 評価の方法は、まず試作システムを実際に操作してもらい、次に個別インタビューを行った。インタビューは、「必要度」と「解決度」に分離して行った。
 まず、解決しようとした課題に共感するかどうか。つまり、所属している局の局状や窓口経験と照らし合わせて、ニーズがそもそもあるのかをインタビューで質問した。ここでは、これを課題に対する「必要度」と呼ぶ。その後、その評価結果に対してインタビューを行った。
 次に、システムの機能が課題をうまく解決しているのかどうかを質問した。これをシステムの「解決度」と呼ぶ。その後にその理由についてインタビューを行った。

(1) 郵便窓口の総合化に対する評価
 回答者は、複雑なサービスを求める顧客の後ろにクイックサービス客が並ぶことや、機能別窓口の場合、お客様が迷いやすいことを問題視していて、窓口構成に対する問題意識は高い(図5‐1)。
 実験システムで提案した、窓口の総合化と顧客の一列並びについては評価が高く、顧客、局員双方にとって、サービスがスムーズになると判断された。


図5‐1 窓口総合化に対する評価

(2) 書留引受新システムに対する評価
 全体として、必要度と解決度を双方とも高いと評価している回答者と、必要度と解決度を双方とも低いと評価している回答者に分かれた(図5‐2)。
 全体の傾向として、回答者のうち経験豊富グループは、現行システムに対して慣れていて、それほど疑問を感じずに書留引受業務を行っている。そのため、それほど必要度を感じていない。一方、経験の浅いグループと窓口責任者から、現行システムに対してはやや疑問の声が挙がっていて必要度が高い。
 解決度に関しても、経験の浅いグループからの評価が高く、逆に経験豊富グループからの評価は低い。
 低い評価をした回答者は、首都圏の繁忙局に所属していて大口の書留引受が多く、今回提案の小口の引受の提案が大口を解決していない点で評価を下げたものと思われる。


図5‐2 書留引受・管理に対する評価


(3) 切手管理の簡素化(変額切手)に対する評価と考察
 現在、切手の種類が多いために残数チェックに時間がかかり、切手管理が大変であるという声が多く、従って切手管理簡素化に対する必要の度合いは高かった(図5‐3)。
 事務効率向上策の変額切手の評価は、日締を簡素化できる点を評価していて、全面的に切手を変額切手に移行してほしいという希望もある。
 しかし、全面的に切手を変額切手にしてしまえば、事務効率が飛躍的に向上するものの、記念切手の価値や効果、切手文化の継承等を考慮すると現実的ではない。変額切手を導入しても切手の種類の1つにしかならないかも知れないが、普段あまり売れない切手の券種を整理することは可能である。
 局員側は、通常切手の良さを求めるお客様に受け入れられるかどうか、特に海外に差し出す郵便物には記念切手が好まれる傾向にあることの2点を危惧している。評価結果はこの点に引っ張られているものの、顧客評価では、変額切手に対する評価は大変高い。変額切手導入後も通常切手や記念切手にこだわるお客様にそれが提供できるようにしておくことで、これらにこだわらない用途には問題なく受け入れられると思われる。


図5‐3 切手管理簡素化に対する評価

(4) 日計・日締処理の簡素化に対する評価
 引受の窓口ではそれほど日計処理の負担感はないが、切手販売窓口では切手の残数を照合するなど補充処理が発生するため、日締処理の負担が大きく、窓口によってアンバランスが生じている。したがって、切手販売における日締処理時間がかかることに対する問題指摘が多い(7名)(図5‐4)。
 試作システムが提案している自動化に対しては締め処理が、かなり効率化されそうであるとコメントした回答者が5名いて、その中の2名が日締処理のスピードの速さを評価している。

図5‐4 日締め処理簡素化に対する評価

(5) 入力作業の軽減に対する評価
 入力作業の軽減に対してはニーズは分かれた(図5‐5)。しかし、必要度が低い回答者は、切手類販売時点での販売情報の入力(切手の都度入力)をしていない。このために必要性を感じなかったものと思われ、入力する前提なら必要度に対する評価も変ってくる可能性がある。
 これに対し、実験システムで入力作業の軽減を目的に採用したタッチパネルについては、タッチパネル上のサービスメニューが、カラー表示、分類表示、一覧性、操作誘導的であることに対しては肯定する意見もある反面、タッチ時のレスポンスが無いことの評価が低く、回答者の多くはタッチ感のあるメカニカルキーボードに強いこだわりがあった。

図5‐5 入力作業軽減に対する評価

(6) 切手はがき販売の都度入力に対する考察
 現在でも、現行の窓口事務機を用いて、引受情報を入力することは多くの局で行われている。しかし、切手の販売は、窓口事務機に入力しなくとも販売できるし、料金計算は暗算や電卓による方が早い。
 取引情報の入力・集計を時間単位で行っている一般の小売業と違い、郵便事業のPOSは日単位程度の頻度で集計すればよいと考えると、この販売情報の入力の方法には、販売時点で入力する「都度入力」と、1日の残数から逆算する「残数方式」のどちらでもよいことになる。
 切手箱の残数チェックを毎日行う制度の元では、都度入力のメリットは少ない。しかし、この制度を見直すことにより業務がかなり効率化される。もし、切手の残数チェックの目的が「補充請求」と「不正防止や間違い検出のための在庫確認」に分離できるとすると、補充請求は残数を当たるまでもなくシステム側で自動的にリスト作成ができるので切手残数チェックは不要となる。不正や間違いのチェックは切手箱の引継毎に必要であるが、管理する個人を特定することによりその頻度は減らすことが可能となろう。
 今回のヒアリングでは、9名の回答者全員が、すべての販売・引受情報を入力するような完全な都度入力をしていなかった。すべての引受・販売データの都度入力を行われなければ、日締め作業等がほとんど効率化されない。事務効率化のためには、現在、繁忙時等に達成できない切手類販売についても、完全に都度入力が達成できるかどうかがポイントとなる。
 実験システムは、カラータッチパネルを採用した入力作業の軽減を図るだけでなく、以下の工夫により都度入力実現のための環境を整えている。
・セルフサービスコーナーを充実して、単純サービス客を減少させる。
・変額切手の導入による通常切手券種を削減する。
・窓口は、総合窓口で一列並び(または番号札)とすることで、順番待ち顧客から局員が感じる心理的プレッシャーを軽減する。
 これら条件のもとで都度入力が無理なく達成できるかどうかがポイントである。回答者の評価は、実際そのような状況になってみないと分からないとしながらも「可能」あるいは「可能かも知れない」とした回答者が9名中4名であった。

(7) 情報の電子的な一元管理に対する考察
 今回、試作システムで提案している内容に、コンピューターによる情報管理は以下のとおり多くあるが、これらはいずれも局員の評価が高い。
・局員支援情報の電子的な提供
・客用表示器によるわかりやすいサービス説明
・セルフサービス機の状態管理
・別納・後納郵便の引受管理
 これらの中で、料金明細を表示するとか、別納・後納郵便の引受管理のように窓口機単体あるいは自局限りで効果を発揮するものもあるが、情報系機器をネットワークで結んで連携させることにより更に効果を生む。現在窓口には多くの情報系機器が配備されているが単体で機能しているので、回答者は実験システムのこのような効果を高く評価したものと思われる。
 ただし、ここで注意すべき点は、本件はシステムの技術面に限定していることである。本システムを導入したり、パソコンを導入しネットワークで繋げても、現実にはすぐに局員支援やお客様説明資料が整理され、通達の変更と同時にデータが更新されるとは限らないことがしばしばあるのである。それを実行する体制作りが同時に求められる。


図5‐6 局員支援情報の電子的提供に対する評価



図5‐7 顧客説明の電子的提供に対する評価


図5‐8 セルフサービス機器の状態管理の評価



図5‐9 別・後納郵便引受情報の管理に対する評価

(8) 金銭管理の簡素化に対する評価
 必要度と解決度を双方とも低いと評価している回答者は5名である(図5‐10)。
 全体的に金銭管理に対してはコメントが少なく、それほど現状に対して疑問を抱いていないようである。少ないコメントの中で、硬貨よりもお札の方が不符合時の損害額が大きいのでこれを自動化しなければ意味がないというコメントが2人からあった。

図5‐10 金銭管理簡素化に対する評価

6 まとめ 

 この研究では、郵便窓口の望ましい姿を示し、それを支えるシステムの開発と評価を行ってきた。今回試作したセルフサービス機器は在来機よりヒューマンインターフェースが改善されたが、それなりのコストは必要となる。重要なことは、この高額な機器を投入した場合にクイックサービスが分離できるかのデータであり、それは未だ未知である。
 特にポスタルサービス機については、郵便物の大きさ・重量から料金を導くのに、窓口の人に聞くことに代わって機械に頼るということが受け入れられるかどうかにかかっている。ATMやプリクラは、その機械が出現する前、人々にそのようなことを機械で行うという発想がないという課題を乗り越え既に社会で受け入れられたが、ポスタルサービス機もこの課題を乗り越えることができるであろうか。この研究の次の段階は、今回の評価を踏まえて改善した機器がはたして郵便局の現場でクイックサービスの分離につながるのか、その検証をすることである。すなわち、性能向上の開発や研究室での実験段階から試行の段階に入ったと言えよう。
 郵便窓口事務処理機については、その業務効率化の中心が情報化に立脚しているので、業務の様々な情報が電子化されネットワークで結ばれなければ機能しない。切手等の販売・補充情報、書留の引き受け・追跡情報、通達やサービス案内など、あらゆる情報の電子化が現在進められ、あるいは将来進められるものと思われるが、これらのシステム化にあたっては、手作業の時代の業務規則を、情報の電子化をふまえ見直すことを同時に行わなければ効率化効果が発揮されない。現行の業務形態をむやみに踏襲することなく、窓口形態のあるべき姿の追求も視野に入れて欲しいものである。今回この研究で試作した郵便窓口事務処理機及びその評価結果が、各システム検討における窓口のビジョンづくりに役立てば幸いである。



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