郵政研究所月報 
1998.8 

調査・研究

郵便処理の効率化に関する要素技術の調査研究

−データキャリアの現状と郵便事業への適用−


特別研究官  小松 尚久 
技術開発研究センター主任研究官  今  敏則 
技術開発研究センター  研究官  向井 裕之 
技術開発研究センター  研究官  上釜 和人 

 
【要約】 
 現在、データキャリアi は物流分野を中心とした様々な分野で利用されている。これに伴い、データキャリアに関する技術の向上は著しく、製品の種類も増加する傾向にある。一方、国際標準化機構(ISO)では、コンタクトレスICカードの標準化(SC17)やデータキャリアのデータフォーマットなどの標準化(SC31)が進められており、データキャリアの技術的な条件などの規格化により、その利用環境整備も充実していく傾向にある。
 この様な現状に鑑み、本調査研究では、一般に市販されているデータキャリアの技術レベル(「基本仕様」、「機能動作特性」等)を把握するために、実際にデータキャリアを製造・販売されている方々のご協力を得て評価試験を行った。
 その結果、郵便事業の中で適応可能と思われる作業の提案や郵便事業への利用に際し考慮すべき課題が明らかとなった。例えば、郵便物に貼付し重ねて読むことを想定した試験では、複数の応答器のコイルが結合することやこの結合により応答器の同調周波数が変化することから通信障害を起こすなど、今後、郵便事業に適用していく上で解決しなければならない課題の把握が行えた。
  

1 調査研究の目的

 本調査研究では、郵便物のセンシングに着目して、各種センサー技術について先端技術の調査収集を行い、郵便事業への応用の可能性を検討する事を目的としている。
 本年度においては、今日、物流分野を中心として利用が進みつつあるデータキャリアに焦点をあて、データキャリアに関する製品の種類、技術の動向、一般に市販されているデータキャリアが持っている技術レベル(「基本仕様」や「機能動作特性」等)を把握し、郵便事業への応用の可能性を検討することとした。

2 データキャリアの現状

 データキャリアの現状は、次の3つの観点から調査研究を進めた。
(1)国際標準化機構(ISO)が行っている標準化の動向及び我が国においてデータキャリアを利用する上で対応が求められる電波法の調査
(2)現在、生産されているデータキャリアの製品化動向の調査
(3)郵便事業に応用することを前提としたデータキャリアの評価試験による調査 

2.1 標準化の動向及び電波法

2.1.1 標準化動向
 国際標準化機構(ISO)におけるデータキャリアの標準化作業は「コンタクトレスICカード」SC17及び「自動認識/データ取得技術」SC31の2つの委員会が担当している。
 SC17のWG8では、密着型、近接型、近傍型といった通信距離が2mm程度から70cm程度で、利用周波数帯が長中波帯、短波帯を用いるカード型のデータキャリアについて標準化が進められている。ISOでのICカードの分類を図2.1.1に示す。

 一方、SC31では、データフォーマット、シンタックス及び周波数範囲の標準化について審議を進めるワーキンググループの設置が1998年1月に決まり、今後、精力的審議が進められるものと期待されている。

図2.1.1 ICカードの分類
2.1.2 電波法
 我が国においてデータキャリアを利用する場合、データキャリアが電波を使っていることから電波法への対応が不可欠となっている。電波法の中では「電波を利用しようとするものは郵政大臣の免許が必要であるが、一定の要件を満たせば郵政大臣の免許は必要としない(筆者による要約)。」と記載され、実際のデータキャリアでは、長中波帯及び短波帯のものが郵政大臣の免許を必要としない「微弱無線局」として扱われ、マイクロ波帯のものは「構内無線局」と「特定小電力無線局」として扱われている。
 なお、「微弱無線局」の出力と「構内無線局」(アンテナ10dB、空中線電力300mW)の出力を比較すると約1万倍の出力の差がある。
 また、我が国、米国及び欧州電気通信標準化機関(European Telecommunications Standards Institute)において規格化されている微弱無線局の基準値を図2.2.2のとおり比較した。米国及び欧州の基準に13.56MHzが大きな値で許容されているが、この基準は何れも「工業用、科学用および医事用周波数(ISM:Industrial, Scientific and Medical use)」に対応した特別基準を設定したものである。
 
図2.2.2 諸外国における微弱無線局の基準

2.2 データキャリアの製品化動向と利用例

2.2.1 製品化動向
 評価用データキャリアの選定にあたり、現在どのような製品が市場に普及しているか調べるために、データキャリアメーカー各社にヒアリング調査を実施した。その結果を表2.2.1及び表2.2.2に示すが、これによると、一般に普及しているデータキャリアは多様で、実際には用途に応じて製造・販売が行われている。今後の傾向としては、物流分野、工業分野に使われると予想される比較的小型で安価なものと、個人の識別等に利用されると予想されるカード形状の2種類のデータキャリアが主流となっていくと考えられる。 
 

  

表2.2.1 各社の製品ラインアップ(国内メーカー)
メーカ  商品形状  利用周波数帯  特徴等 
A社  ・ボタン型、カード型、ラベル型等各種形状のものを提供  ・主力商品は長波を利用
・短波帯、マイクロ波帯も提供可能 
・リネンサプライ管理
・入退室管理 
B社  ・カード形状  ・短波帯  ・交通機関のチケットの利用が主目的
・暗号化して通信 
C社  ・ユーザ要望により各種の形状を製造可能  ・短波帯、マイクロ波帯  ・ユーザオリエンテッド 
D社  ・薄型カードサイズ
・シール形状 
・長中波帯、短波帯
・マイクロ波帯も提供可能 
・シール形状のものは、PET樹脂素材フィルムで薄く、柔軟 
E社  ・カード形状  ・長中波帯、短波帯  ・現在の主力商品はEPROMだが、今後はFRAMメモリ搭載品を標準品にする方向 
F社  ・カード形状など  ・長中波帯  ・複数読み取り可能
・暗号化処理
・スキーリフトのゲートシステム等で利用 
G社  ・カード型、シール型、ボタン型などの各種を提供  ・長中波帯、短波帯  ・FeRAM利用商品も開発、製造
・複数同時読み取りも実現可能 
  
表2.2.2 各社の製品ラインアップ(外国系メーカー)
メーカ  商品形状  利用周波数帯  特徴等 
H社  ・カード形状、ボタン形状など  ・長中波帯、短波帯  ・CPU内蔵型と内蔵しないもので商品2分化

CPU内蔵型…コンビカードとして開発中

CPUなし…長波利用、各種形状で製品化 

I社  ・カード形状、シール形状  ・マイクロ波帯  ・小型(サイズ:10×60mm)
・複数同時読み取り可能(50枚/1.5秒)
・目標価格:100円/枚以下 
J社  ・カード形状、ボタン形状など  ・長中波帯、短波帯、マイクロ波帯  ・Spread Spectrum方式を採用し、長距離の通信を実現(小型タイプで3m)
・電池内蔵(電池レスも開発中) 
K社  ・カード形状、ガラス封入型、筒型など  ・長波帯  ・アンテナとの組合せにより、2mまでの各種通信距離 
L社  ・シール形状  ・マイクロ波帯  ・小型、薄型(予定サイズ…50×30mm程度)
・複数同時読み取り可能 
M社  ・カード形状  ・長中波帯
・短波帯、マイクロ波帯も企画中 
・10枚/秒の同時読み取り可能 
N社  ・カード形状  ・長中波帯  ・電池レス、電池内蔵の両タイプを製造
・最大32kバイトのメモリ
・最大250kbpsの通信速度 
  

 小型・安価なデータキャリアは、物流管理用として開発されたものが多く、物品を識別するID情報を読み、物品管理を行うため、メモリ容量は比較的小さいものが多い。また、通信距離も数十cm程度のものが多い。
 一方、カード形状のデータキャリアは、クレジットカードと同じサイズが多く、その大半はISOに準拠している。長中波帯、短波帯の製品が多く、通信距離は数mmから数cm程度であるが、CPUを内蔵したものや暗号通信を行うものなど高機能な製品が多い。

 
2.2.2 利用例
(1)国内での利用例
 実用化されている例としてはスキー場のゲートシステム、レジャー施設のサービスポイント加算システム、社員食堂での支払いシステム等があり、来年には非接触テレホンカードが登場する予定である。
 実験中の例としては、高速道路料金ノンストップ収受システムや電車の自動改札システムがある。
(2)海外での利用例
 中国(香港)や韓国(ソール市)での交通カードシステムが実用化されており、それぞれ数百万枚のカードを発行することになっている。
 また、欧米においては高速道路料金ノンストップ収受システムとして稼動している。
 実験中のものとしては航空手荷物セキュリティチェックシステムやスーパマーケット物流管理システム等が挙げられる。
(3)郵便での利用例
 欧米諸国において国際郵便における試験通信システムに利用している。現在20カ国約84拠点において稼動しており、国際郵便の送達品質を確保するために導入されている。
 

2.3 評価試験

2.3.1 選定基準
 評価試験項目の抽出を行うため、作業効率に改善の余地があると考えられている「書留作業」を例にデータキャリアを利用することを想定し、表2.3.1のとおり評価試験項目を策定した。

  

表2.3.1 評価試験項目の概要
現状の行為  データキャリアの適用イメージ  評価試験項目 
引受  ・受領書を書く代わりに情報を書き込む
・郵便物を査数する 
・パソコン等からの妨害波の影響
・遮断物の影響
・書き込み処理時間・精度
・複数一括読み取り
・読み取り精度
・通信距離  等 
差立  ・郵便物を査数する
・送達証を作成する
・郵便物搬送機材を管理する 
・複数一括読み取り
・読み取り精度/書き込み精度
・通信距離
・金属製搬送機材からの影響 等 
運送  ―  ・耐衝撃等の機械的強度 等 
到着  ・郵便物を査数する
・配達証を作成する 
・複数一括読み取り
・読み取り精度/書き込み精度
・通信距離  等 
配達  ・配達証を持ち帰り配達完了とする  ・リサイクルのための記録情報の書き換え/追記 等 
  

 この評価試験項目から評価対象データキャリア選定のための条件を抽出したところ、以下の5つに整理することができた。また、それぞれの条件に対する抽出理由を合わせて記述する。

1 複数一括読み取り枚数
  ・郵便物の査数のため
2 通信距離
  ・郵便物搬送器材の管理のため
  ・郵便物搬送器材内の郵便物を査数するため
3 メモリ容量
  ・受領証へ情報を書き込むため
  ・送達証を作成するため
  ・配達証を作成するため
4 電源方式
  ・低コストとするため
5 大きさ
  ・郵便物に貼付するため 

 例えば、複数一括読み取り枚数については郵便物の査数を想定している。郵便事業へ応用するためには「郵便物が何通あるか数える」という「査数」に対応することが必要である。ある程度の複数一括読み取りができなければ、「査数」という作業にデータキャリアは利用できないことになる。
 同様にメモリ容量については、書留郵便物を差し出した際に受け取る受領証に記載されている程度の情報量をデータキャリアに登録する必要があると考えることができる。
 このほか、比較的多くの製品に採用されている周波数帯の条件を加えれば、選定にあたっての仕様条件として整理することができる。
 従って、今回の評価対象となりうるデータキャリアの選定にあたり、その仕様範囲は表2.3.2の通りとした。

  

表2.3.2 評価対象データキャリアの仕様範囲
種類  
 項目 
1類  2類  3類 
周波数帯  長中波帯
(134kHz) 
短波帯
(13.56MHz) 
マイクロ波帯
(2.45GHz) 
複数一括読み取り枚数  8枚以上/秒 
通信距離  30cm以上  10cm以上  30cm以上 
メモリ容量  ユーザ領域として32バイト以上のメモリを有すること
(ライトワンス型、追記型、リードライト型、
リードオンリー型のいずれかであること) 
電源方式  受動型
(電池を内蔵せず、電磁誘導力等外部から給電されるタイプ) 
大きさ  概ねカードサイズ以下
(縦54mm×横86mm程度以下、厚さ2mm程度以下) 
  

 なお、評価試験に用いる機材は、微弱無線局として利用するものは、(財)無線設備検査検定協会の証明書の提示及び構内無線局で利用するものは無線局免許状の提示を求めた。

 
2.3.2 基準設定の考え方
 選定基準の設定にあたり、各項目について基準設定の考え方を以下に示す。この際注意すべき点は、あくまで現在のデータキャリアが有する技術レベルを評価することであり、あまり高すぎない条件を設定することである。
(1)評価用データキャリアの対象
 現在のデータキャリアが有する技術レベルを郵便事業への利用という観点から評価するため、既に製品化している、または製品化するものを対象とした。
(2)周波数帯
 長中波帯、短波帯、またはマイクロ波帯を用いる製品を選択し、それぞれを比較評価し、その利用可能性について評価検討することとした。
(3)複数一括読み取り枚数
 郵便物に貼付したデータキャリアから郵便物のID情報などを得ることを考慮した場合、一通毎の読み取りのほかに、複数の郵便物のID情報などを得ることが考えられるため、現在メーカーが公表している複数一括読み取り枚数を参考に設定した。
(4)通信距離
 データキャリアを貼付している郵便物を処理するための作業領域を評価するため、現在メーカーが公表している通信距離を参考に設定した。
(5)メモリ容量
 現在、書留郵便物を差し出す際には、差出人の住所・氏名、受取人の氏名を記載した書留郵便物受領証を作成し、引き受けた書留郵便物に11桁の引受番号が付与され、引受番号の記されたバーコードシールが貼付される。このことから、概ね32バイト程度以上のメモリ容量が必要であろうということから設定した。
(6)電源方式
 利用形態や地球環境保護などを考慮し、受動型を選択した。
(7)大きさ
 郵便物に貼付可能な大きさやISOでのコンタクトレスICカードの標準化を考慮し、カードサイズ以下の大きさを基準とした。

2.3.3 評価用データキャリア
 前述の選定条件から、以下の4つのデータキャリアを選定した。

1 長中波帯を使用するデータキャリア(2種)
2 短波帯を使用するデータキャリア(1種)
3 マイクロ波帯を使用するデータキャリア(1種)

2.3.4 評価試験の概要
 評価試験項目は、仕様確認項目(15項目)と評価確認項目(18項目)の2つに分け、評価試験の効率化を図った。
仕様確認項目は、既にデータキャリア・メー カーが製造開発時に確認・検証したと考えられる基本的な項目(材質、形状、重さ、動作温度、保存温度等)であり、これらの項目は、データキャリア・メーカーから情報の提示を得ることとした。
 評価確認項目は、郵便事業への利用(複数一括読み取り、遮断物の影響等)を前提にデータキャリア・メーカーからの情報だけでは、利用の可能性について判断がつかない項目について実際に試験を行い、その性能を明らかとした。
 したがって、評価試験の条件設定によっては、各メーカーカタログ値とは異なった結果が出ることを断っておく。

2.3.5 評価試験結果の考察
(1)通信距離
 マイクロ波帯のデータキャリア、長中波帯のデータキャリア、短波帯のデータキャリアの順で通信距離は短くなり、その通信距離は、数十cmから数cmの範囲であった。
 通信距離に影響を与える要素は、応答器iiが機能するために必要な電源を供給する手段と、電力の供給を得た応答器が効率的に必要レベルの応答信号を返す手段の2つである。
 前者の場合には、「質問器iiiの電波発射強度」や「質問器・応答器のアンテナの種類」、「質問器・応答器のアンテナの実効開口面積の大きさ」、「応答器のコイルの巻き数」等が挙げられ、後者の場合には、「応答器の消費電力」等が挙げられる。
(2)遮断物による影響
 アルミ板/鉄板を質問器と応答器の間に挟んだ場合では、いずれのデータキャリアも通信不能となり、硬貨(クレジットカードサイズの台紙に数枚の硬貨を貼ったもの)では、通信が行えた場合でも通信距離が短くなった。また、マイクロ波帯のものは、手のひらを質問器と応答器の間に挟んだ場合でも通信不能となった。
 遮断物により通信距離へ影響を与える要素は、「金属」や「水分」が挙げられる。
(3)レスポンスタイム
 32バイトの読み取りでは、いずれのデータキャリアも100ミリ秒以上の時間を要した。また、64バイトの読み取りは、32バイトの読み取りのほぼ2倍の時間を要した。
 レスポンスタイムに影響する要素は、通信制御に係る時間と質問器・応答器の情報処理に係る時間の2つである。
 前者の場合には、「空間伝送速度」や「空間通信手順」、「通信エラーの検出・訂正方式」、「符号化方式(スクランブル方式)」等が挙げられ、後者の場合には、「応答器のメモリアクセス時間」や「質問器・応答器の情報処理速度」等が挙げられる。
(4)読取精度
 静止した状態では、いずれのデータキャリアも正常に通信が行われ、通信エラーの発生率も非常に小さいが、いずれのデータキャリアも約2km/時(0.6m/秒)で移動すると正常な通信が行えなくなった。
 読取精度に影響する要素は、通信制御に係るものとして「符号化方式(スクランブル)」や「通信エラーの検出・訂正方式」、「妨害波の有無」が挙げられる他、移動する場合を考えると通信領域に滞在する時間が読取精度に大きく影響するするため「通信領域の大きさ」が挙げられる。
(5)複数一括読み取り
 いずれのデータキャリアも複数枚の一括読み取りが可能であった。
 複数一括読み取りに影響を与える要素は、通信制御に係るものとして「アンチコリジョンiv 」が挙げられる他、物理的特性に係るものとして「相互誘導による磁界の発生」や「応答器のアンテナ同士の結合」が挙げられる。

 

3 郵便事業への適用

3.1 データキャリアの特徴と郵便事業への適用箇所

 データキャリアには、表3.1.1に示すとおり、大きな特徴がある。

  
表3.1.1 データキャリアの特徴
特徴項目  特徴の内容 
複数一括読取  複数対象物に貼付した応答器の情報を一括して短時間に読み取ることができる 
大量情報の読取  バーコードに比べ、記録できる情報が大量で、かつ、短時間に読み取ることができる 
記録情報の追記/書き換え  記録情報の追記/書き換えが容易である 
電波の透過性  電波に透過性があるため、遮断物を挟んでも読み書きが可能である 
非接触の読取  応答器と質問器の間が数cm以上離れた場所で読み取ることができる 
他の情報システムとの連携  データキャリアが扱う情報はデジタル情報であることから、他の情報システムとの連携が容易である 
  

 このような特徴と既に利用が進んでいる分野での利用例を元に郵便事業への適用箇所を検討したところ表3.1.2に示すとおり取りまとめることができた。

  

表3.1.2 データキャリアの郵便事業への適用箇所
データキャリアの特徴  利用例  郵便事業への適用箇所 
複数一括読取  ・袋や箱に入れられた複数の荷物を一斉に識別する
・買い物かごの中にある商品の一括集計に利用する 
・郵便物の査数
・郵便物等と記録情報との照合
・郵便物搬送器材の管理 
大量情報の読取  ・ID情報の他に、荷物の中身等の詳細情報を記録する  ・郵便物搬送器材の管理
・郵便物追跡システムへの応用
・試験郵便システムへの応用
・送達証の電子化 
記録情報の追記/書き換え  ・送付先情報の書き込み等、処理過程で新たに発生する新規情報を書き込む  ・郵便物搬送器材の管理
・送達証の電子化 
電波の透過性  ・袋や箱に入れられた中身の情報を読み取る  ・郵便物の査数
・郵便物等と記録情報との照合
・郵便物搬送器材の管理
・郵便物追跡システムへの応用
・試験郵便システムへの応用
・送達証の電子化 
非接触の読取  ・パレットに入っている状態で荷物の情報を読み取る  ・郵便物の査数
・郵便物等と記録情報との照合
・郵便物搬送器材の管理
他の情報システムとの連携  ・既存のデータベースシステムなどと連携して利用する  ・郵便物の査数
・郵便物等と記録情報との照合
・郵便物搬送器材の管理
・郵便物追跡システムへの応用
・試験郵便システムへの応用
・送達証の電子化 

  

3.2 郵便事業への適用例

3.2.1 郵便物の査数及び記録情報との照合
 郵便物の査数は郵便物の通数を数え上げることを指す。ここでは図3.2.1に示すように、予めID番号を登録した応答器を差し出された郵便物に貼付し、複数枚の郵便物を質問器に一括してかざすことによりIDを読み、通数を得る。これにより、郵便物を授受する際に一括して査数が行える。

  

図3.2.1 郵便物の査数及び記録情報との照合 
 
  

 また、郵便物と記録情報との照合は、予め局内サーバに記録した郵便物の送達管理情報と応答器のID番号を自動的に照合することにより行う。
【データキャリアの条件】
・郵便物を手で持ってかざすことを想定した場合、概ね100通程度を持つと仮定し、複数一括読取は重ねた状態で100通を読む必要がある。
・郵便物の査数または記録情報の照合ともに通信する内容が信頼性を要求する情報であるため、データキャリアの読取精度は100%の必要がある。
・1時間あたり約4万通(新型区分機)の処理と同程度となるレベルを想定し、1通あたり100ミリ秒以下で読み取り処理が行える必要がある。
・郵便物を入れるケースや郵袋の外から中にある郵便物を読み取ると想定し、概ね50cm以上の通信距離が必要である。
・郵便物に貼付して利用するので、郵便物に貼付できる大きさが必要である。
・郵便物搬送器材の材質等に影響されない必要がある。

3.2.2 郵便物搬送器材の管理
 郵便物搬送器材の管理は、パレットケースやロールパレットなどの器材の運行を一元的に管理し在庫管理や回送計画の自動化を図るものである。ここでは図3.2.2に示すように、予めID番号を登録した応答器を郵便物搬送器材に貼付し、郵便局では搬送器材の搬入時及び搬出時に応答器のID番号を読み取り、この時のID番号及び搬送元情報と搬送先情報を搬送器材管理センターに送る。搬送器材管理センターではこれらの情報を元に在庫管理及び回送計画を自動的に行う。

  

図3.2.2 郵便物搬送器材の管理 
 
  

【データキャリアの条件】
・通信する内容が信頼性を要求する情報であるため、データキャリアの読取精度は100%の必要がある。
・郵便物搬送器材の大きさに対し、確実に必要となる情報を読み取る距離を想定し、3m以上の通信距離が必要である。
・郵便物搬送器材が衝突しても応答器に影響を与えない強度が必要である。
・郵便物搬送器材の材質等に影響されない必要がある。

 
3.2.3 郵便物追跡システムへの応用
 郵便物追跡システムは、差し出された郵便物に対して送達経路の位置を検出し一元的に管理するものである。ここでは図3.2.3に示すように、予めID番号を登録した応答器を差し出された郵便物に貼付し、郵便局での区分作業のときに応答器のIDを読み、通過時間や通過局の情報をセンターに送る。これにより郵便物の追跡が行える。

  

図3.2.3 郵便物追跡システムへの応用 
 
  

【データキャリアの条件】
・通信する内容が信頼性を要求する情報であるため、データキャリアの読取精度は100%の必要がある。
・1時間あたり約4万通(新型区分機)での利用も想定し、1通あたり100ミリ秒以下で読み取り処理が行える必要がある。
・郵便物搬送器材の中にある郵便物の情報を読み取ることを想定し、3m以上の通信距離が必要である。
・郵便物に貼付して利用するので、郵便物に貼付できる大きさが必要である。

3.2.4 試験郵便システムへの応用
 試験郵便システムは、試験郵便物に郵便局における通過局や搬入時間、区分時間、搬出時間等の作業時間を記録し、送達処理の適正化を図るものである。ここでは図3.2.4に示すように、予め差し出し日時を記録した応答器を郵便物に封入しておき、通過局において通過時間や通過局名を応答器に追記し、配達が完了した際に記録した情報から郵便局の送達が適正に行われているかを調査するものである。

  

図3.2.4 試験郵便システムへの応用 
 
  

【データキャリアの条件】
・通信する内容が信頼性を要求する情報であるため、データキャリアの読取精度、書込精度はいずれも100%の必要がある。
・1時間あたり約4万通(新型区分機)での利用も想定し、1通あたり100ミリ秒以下で読取処理、書込処理が行える必要がある。
・郵便物搬送器材の中にある郵便物に情報を読取/書込むことを想定し、3m以上の通信距離が必要である。
・郵便物に封入して利用するので、封筒に入る大きさの必要がある。

3.3 データキャリアが解決すべき技術課題

 郵便事業への適用例で示したデータキャリアの条件をまとめると表3.3.1に示すとおりとなる。

  

表3.3.1 データキャリアに求める条件

 

適用例 
郵便物の査数
及び記録情報
との照合 
郵便物搬送
器材の管理 
郵便物追跡
システムへの
応用 
試験郵便
システムへの
応用 

 
 
 
件 
複数一括読取  100通
(重ねた状態) 
―  ―  ― 
通信速度  100m秒/通以下  ―  100m秒/通以下  100m秒/通以下 
通信距離  50cm程度
(電池レス) 
3m程度
(電池レス) 
3m程度
(電池レス) 
3m程度
(電池レス) 
耐衝撃  ―  衝撃に耐える  ―  ― 
搬送器材の影響  金属の影響を
受けない 
金属の影響を
受けない 
―  ― 
  

 一方、データキャリアの評価試験結果とそれに基づく評価参加メーカーからの意見により、今後、郵便事業へ適用していく上で課題となることが予想される技術について、その解決の難易度を表3.3.2に取りまとめた。

  

表3.3.2 データキャリアに求める条件と技術の難易度
難易度  データキャリアに求める条件 
容易 郵便物搬送器材に貼付できるサイズ 
郵便物に貼付できるサイズ 
数cmから3m程度までの通信距離(電池内蔵) 
数cm程度の通信距離(電池レス) 
普通 郵便物搬送器材(金属)からの影響を受けない 
100m秒/通以下の読み取り速度 
50cm程度から3m程度までの通信距離(電池レス) 
100%の読取精度 
100%の読取/書込精度 
郵便物搬送器材が受ける衝撃に耐える 
内容物(コイン等)からの影響を受けない 
困難  複数一括読取(重ねた状態で100通程度) 
  

 ここで、難易度の「容易」は既に要素技術が確立しており、利用者の仕様が決まれば直ちに対処可能と考えられる領域を示し、「普通」はデータキャリア単独の技術では対処できないが使い方や他のシステムと連携することにより対処可能と考えられる領域を示し、「困難」は、現在、市販されているデータキャリアの技術では対処できず、新たな技術開発が必要な領域を示している。
 次に郵便事業に適用する際、課題となることが予想される技術の難易度から適用例の実現可能性を表3.3.3に示す。これによると「郵便物の査数及び記録情報との照合」については、現在、市販されているデータキャリアでは「複数一括読取」が十分に行うことができず、新たな技術開発が必要であり、直ちには郵便事業への適用は困難であると考えられる。

  

表3.3.3 郵便事業への適用例の実現可能性
適用例 
郵便物の査数
及び記録情報
との照合 
郵便物搬送
器材の管理 
郵便物追跡
システムへの
応用 
試験郵便
システムへの
応用 

 
 
 
件 
複数一括読取  困難  ―  ―  ― 
通信速度  普通  ―  普通  普通 
通信距離  普通
(電池レス) 
普通
(電池レス) 
普通
(電池レス) 
普通
(電池レス) 
耐衝撃  ―  普通  ―  ― 
搬送器材の影響  普通  普通  ―  ― 
実現可能性  困難  普通  普通  普通 
  

 一方、「郵便物搬送器材の管理」と「郵便物追跡システムへの応用」及び「試験郵便システムへの応用」については、現在、市販されているデータキャリアであっても利用方法等を適正化する事により、郵便事業への適用は可能と考えられる。

 

4 今後の技術開発の方向性

4.1 通信距離(通信領域)
 通信距離の向上には、質問器のアンテナの空中線電力を強くする、質問器・応答器のアンテナの種類を変更する、応答器のアンテナを大きくする、コイルの巻き数を増やすことなどが考えられる。
 アンテナの種類の変更については、指向性の強いアンテナを開発することによって通信距離を延ばすことが可能になると考えられる。また、現行制度のもとでは微弱無線局としての運用であれば、空中線電力や電界強度には制約がつく。したがって通信距離を延ばすには、放射効率の高いアンテナの開発も必要となるであろう。応答器のアンテナの大きさやコイルの巻き数については、応答器のアンテナを大きくし、コイルの巻き数を増やすことによって通信距離を延ばすことが可能である。
 通信領域を広くするには、複数アンテナの利用が考えられる。複数アンテナを利用する場合には、それらのアンテナが相互に干渉しあうことがないように、同期をとる技術などの開発が必要となるであろう。また、応答器の向きによらずに読み書きの処理ができる、全方位型のアンテナの開発も期待される。

4.2 レスポンスタイム

 レスポンスタイムの向上には、空間伝送速度の高速化、効率の良い伝送方式の採用、質問器・応答器の処理能力の向上などが考えられる。
 空間伝送速度の向上については、高い周波数の方が単位時間当たりの伝送容量は大きくなるため、より高い周波数での技術開発を進めることで可能になる。
 情報伝送における符号化方式は、各種・多様なものが開発され、実用化されている。NRZ符号はパルス伝送における最も基本的な符号であるが、効率は決して良いとは言えない。マンチェスタ符号は零連続を抑圧できるため、他の符号化方式より比較的通信の信頼性が高いといえる。今後の技術開発の方向性としては、符号化方式を多値化する事が考えられる。多値化により、パルス伝送速度に対する情報伝送量を増大させることができる。多値化を実現するには、通信の信頼性の向上が要求されるため、通信の信頼性向上のための技術開発も、同時に進めていく必要がある。
 また、質問器や応答器に使用するLSIに高い処理能力を持つものを採用する事でレスポンスタイムを向上することが可能である。処理能力の向上により、情報伝送量を増大させたり、暗号化処理によりセキュリティを向上させることが可能となる。今後の技術開発で、高性能なLSIが小型化すれば、応答器に搭載することが可能になるであろう。

4.3 複数一括処理

 複数の応答器を同時処理するには衝突防止の機能が必要となる。衝突防止とは、通信領域に複数の応答器が存在する場合に質問器が一意に応答器を識別する機能であり、一般にアンチコリジョンと呼ばれている。アンチコリジョンの一つの方法としてタイムスロットを利用する方法がある。
 これは質問器が通信開始時に初期応答要求コマンドを各応答器に送信し、各応答器からの初期応答情報に含まれる応答器固有のIDを検出することにより各応答器を識別する方式である。一つのタイムスロットに複数の応答器からの初期応答情報が重なった場合は質問器がその衝突を検知し、 一つのIDになるまで繰り返し応答要求コマンドを出す方法である。
 他にもマンチェスタ符号の特徴を利用した方式など、数多くの方式が開発され、既に実用に供されている。今後も技術開発が期待できる分野だといえる。
 将来的にはデジタル携帯電話などで利用されようとしているCDMA(符号分割多元接続)のような多元接続方式を採用する可能性も期待できる。
また、コイルを利用した応答器の場合、重ねて複数処理する場合には応答器同士のコイルが結合するため、現状では複数同時処理できる応答器の数に限界がある。この点については、送信を行っている応答器以外のコイルを、結合しないように制御することも考えられる。

4.4 電力供給と省電力性

 電力供給については、二つの観点が考えられる。一点目は、電力供給の方式を、現在利用している技術より効率の良い方式に変更する事である。二点目は、応答器の消費電力を改善することである。
 電力供給の方式では、例えば、新しい技術として実用化が検討されている「マイクロ波による無線送電」がある。これは、マイクロ波をレクテナと呼ばれるアンテナで受信することにより、電力供給する技術である。
 現在は電磁誘導方式が盛んに利用されているが、微弱無線局での運用を前提にする場合、電界強度が制約されるため質問器が放射する磁界は制約を受ける。そのため、電磁誘導方式以外の効率の良い電力供給方式の技術開発が望まれる。
 効率の良い電力供給の方式が進まない場合には、電池を搭載すること、電力供給の周波数と通信の周波数を別々にする方法等、様々な試みにより解決を図ることも考えられる。
 応答器の消費電力の改善については、特にメモリに求めることができる。最も盛んに利用されているEPROMに代わって、現在注目されているのが「強誘電体メモリ」である。強誘電体メモリはメモリアクセスに関する消費電力が低いため、電磁誘導による電力供給においても、最大通信距離を延ばすことが可能であろう。他の効果として、メモリアクセスがEPROMに比べ高速であるため、動的環境でのエラー率の改善も期待できる。

4.5 物理的強度

 応答器に物理強度が要求されるのは、外部から加わる力によって応答器に内装されるLSIが破壊されないようにするためである。応答器に内装されるLSIにかかる力を小さくするためにはLSIの実装方法や応答器の基材の材質等を工夫する必要がある。
 LSIの実装という点ではLSIの表面積が課題となる。LSIの表面積が大きい場合、直接LSIに力が加わる確立が高くなり、故障率はLSIが小さい場合にくらべて相対的に高くなるからである。したがって、LSIを小さくするのは物理強度を増し、故障率を低くする有効な方法である。現在、大容量DRAMなどのLSIは0.25ミクロンルール(現行のICカードでは0.6ミクロンルール)で製造されている。急速に進歩している微細加工技術が、将来的には応答器のLSIに適用できるようになり、応答器のLSIの小型化が可能となるであろう。また、LSIの小型化と同時に省電力化が可能となり、コンデンサを利用している場合には、その小型化による物理的強度の向上も期待できる。
 また、LSIの周囲に保護層を設けることにより、外部からの圧力などに耐える機構を持たせることも有効な手段だと考える。
 応答器の基材の材質という点では、単に厚くすることで物理的な強度は増すため、最も実現性の高い方策である。しかし、利用時の可搬性や曲げへの耐性等を考慮すると、基材として軽量で、硬すぎず、柔らかすぎない素材への調整や新素材の開発が期待される。
 ただし、素材については、廃棄時の有毒ガスの発生がないこと等、環境に配慮した素材であることも要求される。

4.6 周囲からの影響

 実運用の際には、周囲から受ける影響も考慮する必要がある。一つは、今回の試験の結果からも分かるとおり、リード/ライト処理においては、硬貨を含めた金属の影響を強く受けている。現在、金属に影響を受けないアンテナの線材や、応答器の指向方向を変えることにより金属の影響を受け難くした製品の開発が進められており、実用化が期待される。
 また、利用環境における電磁ノイズに対する対策も必要である。パソコンやディスプレイ、モータの発する電磁波など、利用環境には多くの電磁波発生源が存在することが予想される。利用時に電磁ノイズを遮断するためのシールドを用意することなど運用面での対策も考えられるが、応答器と質問器のノイズ耐性を高める必要もあるであろう。

5 おわりに

 本調査研究では、現在市販されているデータキャリアの技術レベルを明らかにすることを中心に研究を進めてきたが、国際標準化の動向や電気通信技術審議会の審議動向をみると、近い将来、更に高機能、高性能なデータキャリアが出現するのではないかとの思いにかられる。是非とも本調査研究で明らかになった課題が解決され、郵便事業へ適用されるデータキャリアの仕様を明確にすることによって、早期に郵便事業への適用が可能となることを期待したい。
 


i 【データキャリア】
RFID、無線タグ、移動体識別装置等で呼ばれている非接触データ識別装置のことである。 
ii 【応答器】
質問器の電波を受信し、これを内部のデータ等により変調し再発射する装置で、電池内蔵のものや電池を内蔵しないものがある。 
iii 【質問器】
電波を発射し、又は応答器から再発射された電波を受信するための装置である。 
iv 【アンチコリジョン】
通信領域に複数の応答器が存在する場合に、質問器が衝突を回避し、一意に応答器を識別する機能である。 

 
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