郵政研究所月報
1998.11
デリバリー・プランニング・システム−速達配達順路作成機能の改良−
技術開発研究センター主任研究官 岩間 司
[要約]
元研究官 佐野 設夫
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1 はじめに
年間約250億通もの郵便物を全国あまねく翌日又は翌々日に低料金で届ける郵便サービスは、機械化・情報化による効率化の推進と、区分・輸送・集配等の郵便業務に代表される熟練担当者の膨大なノウハウの蓄積に支えられてきた。しかし、我が国の少子化・高齢化という中にあって今後これらのノウハウの継承はより困難なものとなることが予想される。 |
2 速達配達の現状とシステム要求課題2.1 速達配達の現状と課題
速達配達は、一日約3回(1号便から3号便)通常の郵便物とは別に手渡しで配達される、配達物数は便毎に異なるため、配達の担当者数及び担当地域を便毎に変えている。 2.2 システム要求課題
2.1に示すような背景を踏まえ、通区訓練中の非常勤職員等の速達等の道順組立作業を容易にし、配達作業時間の短縮及び効率的な要員配置を図ることを目的として、平成8年度から速達郵便物の配達順路作成システムの開発を行った。
があげられる。 |
3 速達配達順路作成システム本章では、今回の改良の基となった主に平成8年度に開発した速達の配達順路作成システムの概要と成果について報告する。 3.1 速達順路作成システムの概要
速達配達順路作成システムとは、速達配達及び書留郵便物の夜間再配達を行う配達担当者が配達に出発する前に最短順路の考案及び郵便物の道順組立作業を支援するためのパソコンシステムである。 3.2 ソフトウエアの最適化手法
配達箇所を漏れなく巡回する効率的配達順路を作成する問題は、巡回セールスマン問題(Traveling
Salesman Problem)と等価である。この問題は、基本的には巡回する箇所の順列をすべて調べる方法(列挙法)で最適解を見つけることが可能であるが、巡回する箇所が増えると箇所の組み合わせ数が爆発するため実用時間内では解くことができない。 3.3 平成8年度の成果
品川区を対象地域として、配達箇所の分散状況に応じて離散型、集中型及び混合型の3種類のパターンについて実験を行った。 |
4 速達順路作成機能の改良4.1 平成9年度に残された課題3章に示したように、平成8年度に開発した速達順路作成システムは実効性があり、有効性の高いシステムであるといえる。しかし、実用性の面からみるといくつか残された課題があることも事実である。平成9年度はシステムの実用性を高めるため以下の改良を行った。
それぞれの改良点について考察する。 4.2 順路作成アルゴリズムの改良次の4点を中心として、順路作成アルゴリズムの改良を行った。 4.2.1 リアルタイム性の保証平成8年度のアルゴリズムでは、配達箇所が30箇所程度になると計算時間が約5分かかる。これは待ち時間としては限界に近く、速達郵便物の特性を考慮すると少しでも早くしたい。このため今年度は索引表(インデックステーブル)を導入し、配達箇所が30箇所の場合において1分以内に解を得られるように全体のソフトウエアのコーディング作業を実施した。 4.2.2 解の品質の保証
本最適化アルゴリズムは3章で示すように近似解を求めている、このため解の品質が問題となる。このような最適化問題で最も重要なことは局所的な最適解(Local
Minimum)に捕らわれないで、常に最適解(Minimum)が得られる必要がある。 |
4.2.3 解の安定性の保証
有限の世代数で効率よくかつ安定的に最適解に近づくためには、初期順路の設定が重要である。平成8年度に開発した順路作成アルゴリズムでは、Nearest
Neighbor法を採用した。Nearest Neighbor法の場合、部分的には最適な順路の組み合わせとなっている場合が多いが、全体的には効率が悪いことも多くある。 4.2.4 ノウハウの反映平成9年度に開発したアルゴリズムのもう一つの大きな目的は、熟練担当者のノウハウの継承である。これを実現するために、左折優先や幹線道路優先など各要素データに重み付けを行ったり、町区優先配達経路や一筆書き経路など個別に戦略を選択できるようにした。そして、最短時間経路にこだわらず、実際の経験的な配達経路を選択枝の中から実現できるようにした。 4.3 マンマシンインターフェースの改良
平成8年度の速達郵便物の配達順路作成システムについての配達担当者からの意見として、出力地図が見づらい、操作性が悪いなどの意見があった。そこで平成9年度のシステムでは、出力地図として2,500分の1相当の縮尺の住宅地図にも対応した。 |
5 評価実験と実験結果5.1 順路作成アルゴリズムの改良5.1.1 リアルタイム性
索引表導入等のソフトウエアコーディングの効果を確認するため、配達箇所が30箇所以上で世代数9000世代の配達順路を作成するシミュレーション実験を実施した。 |
ケース1 | ケース2 | ケース3 | ||
配達箇所数 | 30 | 35 | 30 | |
平均処理時間 | 28.8(秒) | 34.5(秒) | 34.1(秒) | |
標準偏差 | 0.9(秒) | 1.2(秒) | 0.7(秒) |
単点検索GA | 多点検索GA | 改善度 | ||
平均処理時間 | 28.8(秒) | 16.8(秒) | 1.7(倍) | |
平均配達時間 | 27.1(秒) | 26.1(分) | 1.0(分) | |
標準偏差 | 2.4(秒) | 1.2(分) | 2.0(倍) |
5.1.2 解の品質
安定した解の品質向上のため、多点探索機能を導入した。その効果を確認するため、GAの世代数がトータルで同じになる条件で単点探索と多点探索の性能比較した。配達箇所は30箇所、各方式の試行回数は30回としてシミュレーションを実施した。 5.1.3 解の安定性
前項までのアルゴリズムは基本的に平成8年度のアルゴリズムを用いてそれぞれの改良を加えている。 |
テストケース | 昨年度方式 | 本年度方式 | ||
最適解到達率 | ケース1 | 20% | 100% | |
ケース2 | 0% | 50% | ||
ケース3 | 0% | 20% | ||
得られた解の平均値の最適解からのずれ | ケース4 | 3.0分(12%) | 0.0分(0%) | |
ケース5 | 4.7分(19%) | 1.6分(7%) | ||
ケース6 | 3.3分(14%) | 0.6分(2%) |
5.1.4 ノウハウの反映
これまでの改良では最短時間となる経路を最適解としてきたが、実際の配達の場合では左折を優先したり同じ町丁目を重視する等、配達する人のノウハウを反映させる必要がある。目的志向型協調推論を用いたアルゴリズムの目的の一つとしてこのノウハウの反映がある。 |
5.2 マンマシンインターフェース
平成9年度のシステムでは、図4から図6に用いている道路地図のほかに、出力地図として2,500分の1相当の縮尺の住宅地図にも対応した。これは昨年の検討項目の反映である。 |
6 おわりに6.1 速達配達順路作成機能についてのまとめ
デリバリー・プランニング・システムの機能の一つである速達配達順路作成システムの改良を実施した。この結果、リアルタイム性が向上し、かつ解の品質及び安定性を上昇させた。また、本システムの目的であった速達配達者のノウハウの反映が可能となった。 |
6.2 デリバリー・プランニング・システムについてのまとめ我が国における郵便業務は、長年の経験の中で改善が積み重ねられ、様々なルールに基づいて実施されている部分が多く、すでにかなり効率性の高いシステムとなっている。また、近年の技術進歩を受けて機械化も進んでいる。しかし、郵便の業務計画の中で意志決定についての科学的な手法を適用するという観点では、あらゆる場面でまだ十分とは言えない状況である。 デリバリー・プランニング・システムの研究では、郵便の外務業務に焦点をあて、集配区画の調整案の作成及び速達配達順路案の作成システムをOR的手法による最適化アルゴリズムのアプローチから実験システムを構築した。 その結果、通常のパソコンシステムでかなり実用度の高いアルゴリズムが適用可能であることを確認した。これらは、郵便の外務業務の最適化や効率化の観点からも、今後十分な効果が期待できるものと思われる。 本調査研究は、本報告を持って終了するが、今後は、さらに、機械化・情報化の進展等を踏まえて、郵便業務を科学的に分析し、郵便業務処理の効率化及び改善を図ることが望まれる。 |
(参考文献)
・磯部他:「郵便配達区画決定支援支援システム(デリバリー・プランニング・システム)」 郵政研究所月報No.95,pp.118−122,1996.8. |